0408:サダータン鉱山のガギル

 数日後。辿り付いたオブルイットの森域は……なにやらザワザワときな臭い空気が充満していた。身体強化を使った俺の走りもそれなりになったというか。まあ、二人が俺のスピードを合わせてくれたんだけどさ。それでも、ここまで数日っていうのは速い……ハズ。


「ああ、ヒームの足でなら……そうじゃな。余り聞いたことはも無いが……二、三十日はかかるのではないか?」


「直通の道がありませんから……もっとかかると思いますよ」


 ほら。


 森に入ってからは、情報部のノルドから詳しい場所を確認したミスハルを先導として、まずは、ガギルの鉱山へ向かう。


 オブルイットの森域はそれなりに広大なのだが、ガギルの鉱山は現状一つしかないらしい。そもそも、鉱山、山や谷が少ないのが特徴のようだ。


 なんとか、辿り着いたサーダタン鉱山のガギルの集落は……まさに瀕死の状態だった。


 ドガルの……えっと、モボファイ鉱山も死霊に覆われて本気で死んでいる状態だったが、サーダタンも似たようなモノだろう。


 本当は集落に近付く前に伝染病対策とか、イロイロあるんだけど、正直、俺の周囲は常に「浄化」を発動している。オーベさんに人から人に空気感染で移る伝染病の説明とかしたんだけど、完璧に防護可能だそうだ。じゃないと死霊とか防げないってさ。まあやり方はモボファイ鉱山の時に経験積みだ。これ便利ね~。異世界ね~。


 半年前にはこの鉱山にはガギルが約三百名ほど住んでいたらしい。が。現在では百名に届かない。集落全体に漂う死臭。流行病、伝染病とかじゃないな……うん。俺の癒しの力が何となく伝えてくる……これは……多分、毒だ。


「毒じゃな。鉱毒……ではないか。生臭い。井戸……いや、その源泉となる地下水に混入したか。この辺で湖は無いか?」


「あ、ありません……」


「地底湖……は? なんとなくじゃが、この辺の地形であれば地下はスカスカじゃろう?」


「鉱山と反対側の山の地下洞窟に地底湖があった気が……」


「では半年前からずっとそのままじゃな……。毒は……何で作られたか……」


 まだ、比較的元気なガギルに話を聞くことが出来た。彼らがなんとなくおかしいと気付いたのは三カ月程度前だそうだ。


 そもそも、サーダタン鉱山というのは、十数代前にイーズ森域の鉱山とソリの合わなかったガギルたちがかなりの放浪の末に見つけた地、らしい。


 なので、開拓魂が強くさらに、非常に誇り高く、何か問題が起こっても外に助けを求めようとする気構えが全くないのだという。十代前って……かなり前だよね。


 そのために二百もの仲間が命を落としているのに? そんなくだらないプライドの為に? 泣きながら死んでいく赤子を、それを見送るしか無い母親を、見捨ててきたのか? 少々、腹が立ってきたが、ここで説教する時間が惜しい。


「まずは、ここの人達を癒しましょう。毒。解毒ですよね……オーベさん、使われた毒、どんなタイプか判りますか?」


「これは純粋に……強大な毒の元……ヤバイヤツが井戸の水、地下水の源泉である地底湖に沈んでいるパターンじゃな」


「死体……死霊とか……魔物の……ですか」


「ああ。多分、かなり大きめの……それこそ、下級の竜くらいの大きさは必要じゃろうな。さらにそれに呪いも掛かっておるかもしれん。そうなると……偶然では無いな」


「了解しました。腐った死体と呪い……この二つの症状がいまこの集落で倒れている皆さんという事で。まずは一回目」


 自力で起き上がれない者を集める……というのが凄く面倒に感じたので、一気にやってしまうことにした。それほど大きな集落では無い。そこまで無茶をしなくても効果範囲に収めることはそれほど難しいことでは無かった。

 多分「浄化」だけでも俺がウロウロしていれば、そのうち治ると思うんだけど、その前に体力尽きてしまいそうな気がしたので。


「消毒」


 イメージとしては、イソジンをぶっかけるアレだ。さらに、アルコール除菌、そして塩素系の殺菌スプレー。ついでにうがい手洗いもイメージして、菌を殺す術を構築する。


「相変わらず……我が主は無茶苦茶じゃのう……。光属性の術「浄化」だけでも珍しいのに、さらにそれを進化させた「消毒」か。それを広範囲で発動させるとは……。同時に癒しの術も使っておるのもおかしいぞ? こんなもの……普通に考えて消費魔力が膨大になって倒れることになる」


 消毒は……強力なので多分、使うと、体力を消耗させる。なので弱っている人に体力回復、癒しの術で上書きする。消毒と同じように集落全体に発動させた。これには、目の前にいて、こいつらは何をしているんだ? 状態だった、ガギル側の交渉担当者もやっと、事の重大さに気付いたようだ。


 実はこの鉱山の長は現在、この病、毒で倒れていたのだ。なので、その弟の子どもが交渉担当者が俺達の対応をしてくれていたのだが……長が、範囲癒しによって、起き上がれるまでに快復したらしい。いきなり、挨拶に来ると言われてしまった。


「失礼いたしました……此度の奇跡……誠にありがとうございます……。このサーダタン鉱山の長、バモンと申します。感謝しかありません。この集落を救って頂いてありがとうございます」


「ああ、礼には及ばない。私はノルドの外交官。外交官は知っているな?」


「は、はい。多少なりと」


「では気にすることはない。この地にガギルがおると知れたのは、元モボファイのドガルからの知らせだが、我らはノルドの集落に向かう途中で様子をみただけだ」


「は、はは」


「だが……プライドが高いのは良いが、村の民をそこまで殺したのは長、お前の責任だという事は忘れるな? 助けが必要であれば求める度量が無ければ、ガギルの様な孤立した生き方は、すぐに消え去るぞ? そのために同森に住むノルドと協力する契約になっているハズだ」


「わ、判りました……」


 まあ、うん、ミスハルの堂々とした態度はなかなか見ていて格好良かった。オーベさんも「やるときはやるのう」と褒めてたし。












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