0404:迷宮探索用装備

「あの……確かにそれは判りました。でもガギルって物を作るのが生き甲斐じゃないですか。例えば、剣を作ったとします。でも欲しい人が買おうと思っても買えないレベルでしか流通していない。ということは? 作っても流通しないんですか? ドガル達も、少なくとも裕福にも見えなかったし」


「しないのう……それな。私も聞いたことがある。ガギルは主にノルドとしか商売をしない。余った剣や鏃なんかはどうするのか? と。なんでも数カ月すると、鋳つぶして再度作り直すらしい」


「え? 鋳つぶしちゃうんですか?」


「過去の出来に満足出来なくなるそうじゃ」


 ……これだけ欲しいヒームには手に入らないアイテムを……。今、オベニスだからこそ判るのは、彼らの異常な生産量だ。ミスリル製だろうが、鉄製だろうが、とんでもないクオリティの「作品」が月に百点くらい、生産されている。

 三つの鉱山……いや、ドガルの所は鍛冶のメインどころ、男衆が全滅したんだから、二つの鉱山か。そのガギルだけで百という事は、ひとつの鉱山で五十は生み出している計算になる。


「そもそも、それはここの様に、いくらでも鉱石が手に入る環境だからこそじゃ。普通に鉱山を掘って鍛冶仕事をしていたら、一つの鉱山で月に五つ作れればいいほうじゃろうな。ミスリル等、鉱石が手に入らん」


 それはそうか。ここの鉱山……チートだしな。そもそも、俺がダンジョンポイントで生み出した鉱塊……もまだまだ残っているハズだ。


「話がずれたな。まあ、そんなとんでもない武器防具が売りに出されているというのに、領からガギルに対して支払うべき対価はほとんど、酒代のみ。……それはもう、お前の財産もおかしいものになるじゃろ?」


「紙もそうなんだが。メールミア王家とセズヤからは特に、ガギル製の武器防具の注文が増加している。モリヤ、ひょっとして、ガギル製と通常の武器防具の能力差、知らないのではないか?」


 あ。そういえば。俺の持たされてるナイフと短刀はドガルからもらった特別製らしい。お館様スペシャルと呼ばれている。献上品としていつの間にか俺の机の上に置いてあった。

 ちなみに、ここでもベルトの鞘にナイフは刺さったままだ。短刀は重いので部屋に投げ出して(セタシュアが片付けてくれる)あるが。正直……まだ、一度も普通には使っていない。


「このナイフ。これは……確かこの街のヒームの鍛冶士が作ったそこそこ良いモノだ。普段使いに何の文句も無い」


 そういって、ファランさんはナイフを会議テーブルの上に立てた。持ち手が木の円柱で、革が巻いてある普通のナイフで、自立するようになっている。


「モリヤ。お前の腕でいい。お前のナイフ、ドガルの作ったそれな。それでこのナイフの刃に向かって、横に斬ってみろ。刃を立てて、斬るつもりなく思い切り振るだけでよい」


「え? マジですか?」


「ああ」


 いやいや、いくら何でも。まあでも真面目にやるか。


 立っているナイフの刃に向かって、自分のナイフを振る。別に鋭くもなんでもない。剣なんて使って無いからね。卓球の素振りみたいなモノだ。本当に。情けないフォームだと思う。


ギン……


 へ? 食い込んだ。ファランさんのナイフに……俺のナイフが食い込んでいる。


「まあ、多少でも剣の心得がある者が振るえば確実に、刃が両断される。お前だからこうして、切れ目が入っただけに留まったのだ」


 刃が欠けたのは……全てにファランさんのナイフだ。俺のナイフは……刃こぼれ一つしていない。なんだこれ? ああ、金属が……。


「俺のナイフがミスリル製だからってことなのでは?」


「そのナイフは通常の鉄製だぞ?」


「ドガルはミスリルで武器を作る腕がまだ未熟じゃ。なので、今、あそこにいる長老達にしごかれまくっとると聞いたぞ? お館様に渡す武器防具は、その場の長の作でなければ示しが付かんからな。そもそも、ミスリル製の武器防具は色が違うだろうに」


「あれ? まだ見たこと無いかもですよ? 色が違うヤツ。イリス様の剣、迷宮産でミスリル製って聞きましたから、アレと同じかと思ってたんですけど」


「ああ……あの剣は……確かに鉄と似たような輝きだな」


「我が君の片手剣か。確かに、あの剣はミスリル製といっても非常に鈍い色じゃな。多分、ミスリルの含有量が少なめなのじゃろ。強度の問題か、別に他の金属が使われているはずじゃ」


「純ミスリルの剣は刀身が青くなる。そして常に薄らと光る。魔力をよく通すので、魔術を付与するのに適している」


 欠けてしまったファランさんのナイフを返す。


「とにかく。これだけの性能差があるとな。戦闘にならん。ミスリルの剣を持った方のみが強くなるのだからな」


「さらにミスリルだけではないぞ? 他の金属も与えただろう? 我が主」


「ええ。好きに使って良いと」


「そのせいでアダマンタイトやオリハルコン、ヒヒイロカネ等というおとぎ話で出てくる金属製の武器防具も仕上がり始めているという話じゃ」


「へーじゃあ、紅武女子の装備。その辺のスゴイ金属で作ってもらおうっと」


「……我が主よ……」


「モリヤ、判ってない、判ってないな?」


「えぇーいいじゃないですかー。彼女達の装備はそういう最新鋭の装備ってことで。ドガルに相談しておきます」


 心なしか、ファランさんとオーベさんの顔付きが怖いが、まあ、いいだろう。うん。






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