0402:モールマリアと東南、そして東
モールマリア王国はバガントリガンという「厄介な」強者を失ったにも関わらず、イガヌリオ連邦に侵攻を開始した。
俺の想像でしか無いが……バガントリガン、いや、バガンの王は使い潰されたのだと思う。もしも自分がモールマリアの国王であれば、蛮族に近いアイツらを……持て余す。
現実問題として、モールマリアの主力は西端に集結している。にも関わらず、東に領地? を与えられて、そこに捨て置かれたバガントリガン。
セズヤを襲えと命令されていたとして……正直、バガントリガン自体がどんなに消耗しようと関係が無い。奪い取ったばかりの土地にセズヤが簡単に攻め込んでこなければいいのだ。
まんまとセズヤは弱体化され、俺達にバガンの王は討たれた。さらに戦士もかなり削ったから……バガントリガンが再び、モールマリア王国の脅威となることは無いだろう。上手いこと使い潰したものである。
「モールマリアの王は……かなり老練だなぁ」
「……モールマリアの王……とは話したことがある。三十年くらい前か……悪い王では無かったが、それほど優秀とは思わなんだが……」
「そうなんですか?」
「ああ。ただ、三十年前で……確か当時既に三十代だったのう。今はもう、ヒームとしては老齢。引退を考える時期だと思うが……なぜ、ここまでの事を? と違和感を感じるな。きっかけはバガントリガンだったか? ヤツラだとしても、強力な王は既にいない、なのに」
「そうですね。モールマリア王は愚鈍では無いが剣王でも賢王でも無い、所謂普通という評価がされていたハズです。オーベ師の言う通り、積極的に戦争を仕掛けようという気配も無かったかと」
ファランさんのお墨付き。つまり、モールマリア王は変わったというコトになる。
「とりあえず、こちらへ攻めてくることはないんですかね?」
「無い……と思うが……。モールマリア王は歳の離れた妻を溺愛していた。その妻が数年前から病に倒れた……という話は聞いていたな……確か」
「そうですね。モールマリアの王妃クリアレス様は現メールミア王、クリアーディ陛下の叔母。元王の歳の離れた妹です」
婚姻による同盟関係強化……か。まあ、よくある話だし、王家や王族の女子は、そのために生きていると言っても良いくらいだそうだ。というか、貴族の女子は全員、そういう意味で結婚するのが当たり前だという。
「じゃあ、とりあえず、モールマリアの貪欲な侵攻に関しては放置でいいですかね。女王陛下がなんとかしてくれるということで」
「探索方は出しているのじゃろ?」
「ええ、当然。モールマリアの王都へも向かってもらってます。状況の確認のために」
ならばよしという仕草でオーベさんが頷く。
「さらに、もしもモールマリアがメールミアに攻め込んだとしても。オベニスに向かうためにはまずは、王都を突破せねばならん。余裕はあるだろうな」
ファランさんの言う通り、西からここへ攻め込むには、途中に王都がある以上、両国の主力はまず、その手前でぶつかることになる。
「モールマリア王国はバガン王という強者も失いましたし、圧倒的な暴力……で攻め込む事は不可能でしょう。普通に攻めて、普通に戦う。ならば、こちらに向ける余力も……しばらくないかもしれません。領土が広がっても、統治するのに時間がかかりますから。ということで、モールマリアに関しては新情報が入るまで置いておいて」
・東南方面の集中探索
・迷宮深層部攻略
「後はこの二つですか。東南の探索はガギルへの迷宮に関する伝承の連絡を取るために数十名単位で行ってもらいました。酒付きで。その辺の人たちが戻ってくれば、東南の国々の情報、及び実情が伝わってくると思います。特にホムラの森域よりも東南は……どうなっているのかすら判っていません。ということで、ミルベニに行ってもらいました。オーベさんに聞いたら早い方が良いだろうという事で」
「ああ、それは聞いた。ヤツも強者だからな。問題無いだろう。さらに指揮を執っていただけあって、軍略にも明るい。騎馬民族だったか? の調査を含めると適役かと思う」
「ですね。ということで、ガギルから情報を得るという事と、暴れているという騎馬民族の情報はミルベニ投入で情報待ちとなります」
さらに。
「純粋に現状一切情報の入ってこない、東の蛮族の領域。それよりも東方、帝都グランバニア……でしたっけ? そこよりも東の情報も入手しておきたいんですが」
「我が産まれた森は帝都のすぐ傍でな確か、帝都よりも東方にはクラエの森域があった。すまんな……私は記憶が定かになる頃にはこちら側……リーインセンチネルにいたのでな。大した記憶があるわけじゃ無いのだ」
「それは問題ありませんよ。まあでもオーベさんですら、イマイチ判ってない場所。こちらの探索情報収集は……モリヤ隊から出すしかないでしょうね。放置したままなのは……少々怖すぎる」
幾らモリヤ隊、妻たちが強いとはいっても、単独または少数では色々と厳しい。だが、逆に逃げ延びるだけなら一人の方が確実なのだ。
他の情報部のメンバーだと幾らノルドでも正直ツライ。
人は増えたけど、最先端は身内っていうのは変わらない、か。
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