0399:バンバンバン
オベニス領、そしてメールミア王国は、大陸文化圏の最東に位置する。
そもそも、現在、俺が教わっている様な国々の事を学究の徒は文化圏と呼んでいるそうだ。
土地的には広大なグランバニア帝国の支配したモディア大陸(大陸名もあった)、その領土の西側の事を指す。現在では……既に滅びた古代帝国の……約1/3の土地しか把握出来ていないという。
この文化圏は貨幣を生み出している魔導国家リーインセンチネルを中心に構成されている。つまり、リーインセンチネルの生み出す貨幣、G=ゴールドを使用している国がこれに属しているのだ。一G、五G、十G、百G、千G、万G、十万G、百万Gの貨幣も存在する。
それを使用している国家群を文化圏と呼称しているのは、それ以外の特にメールミアよりも東の地は、魔物が支配している土地であり……それを利用していつの間にか住み着いた蛮族の地だからだ。
古代グランバニア帝国がどうして滅んだのかはサッパリ判っていない。が。帝国国家が崩壊して何十という国が生まれ、しばらくした後、東方は魔物の支配地となったらしい。
帝国末期は歴史書の存在しない空白期間とされていて、記録がほとんど残っていないという。まれに発見されても、後の世に偽造された物がほとんどだそうだ。
それが一時期だったのか、数百年だったのかも判っていないが、東方にあった国家は、国民と共に尽く消えていった様だ。その辺の資料も、僅かに残されている程度で、断片しか判らないと。
まあ、その辺の歴史を判りやすくまとめると
1:古代グランバニア帝国、いきなり、国家崩壊。後世の歴史家の研究によると、暗殺か内乱、その両方説というのが優勢らしい。天変地異派も捨てがたいとか。オーベさん談。
2:内乱というよりは、下剋上に近い形で、独立する者、しようとする者が周りと争い始めた! 世は乱れ、略奪や無為な殺戮なども横行し、さらに焚書などの被害も多く、貴重な資料が失われる。
3:大陸全土で大氾濫が頻発発生。特にその傾向は東で強く、帝国の東側の国家は尽く壊滅。西側は山脈等の入り組んだ土地が多く、その地形を利用してなんとか生き残る。
4:元々帝国において頭脳の都市と呼ばれていたリーインセンチネルを中心に復興開始。
5:メールミア王国よりも東側は旧帝都ですら、足を踏み入れることの出来ない蛮族支配の地のまま、現在に至っている。
こんな感じだ。つまり、メールミア王国は文化圏を守る盾や壁でもあったのだ! ……ってさ。
サビエニ辺境伯騎士団……ボロボロの上に数が大幅減なのヤバイじゃん……マジで。絶対人足りてないじゃん……と思っていたら。
案の定、足りてなかった。蛮族に一つ、二つと街が襲われ、陥落しつつあるらしい。ただ、クリアーディ女王も手をこまねいて見ていたわけじゃない。彼女、有能だしね。急遽編成されつつあった王国騎士団を遊軍として派遣し、なんとか一進一退状態に持ち込んでいるようだ。
さて。ここで登場した蛮族。こいつらが厄介だ。概念的には……山を越えて富を奪いに来る超高性能な山賊、ゲリラ部隊とでも言おうか。約五十人くらいという「街の守備隊」くらいの人数で、千人近い騎士が守っている砦などにも攻め込んでくるらしい。
蛮族というくらいだから、余程乱暴者かと想像したけど、パッと見はヒームとそう変わらない。全体的に毛量が多い、毛むくじゃらなくらいか。大きな差は。同族? の肉を食べたりしないようだし。
で。
実際にはちょっとガタイの良い乱暴者という感じだった。ぶっちゃけ、直前に戦っていたバガントリガンの戦士の方が遙かに大きく、強い。薬の分もあったとは思うが、素の大きさが違うし。
あ。あの薬……モールマリアの軍と戦う際に服用されているのかどうかはまだ判らない。効果あるだけに副作用もありそうだからなぁ。使い捨ての傭兵とかが実験台になるのかな? これまた。
で。なんでここで蛮族の話かというと。バガントリガンから救助した女性を連れてセズヤから戻ると、その蛮族がオベニスを急襲していたのだ。過去形。
ヤツラの噂は聞いていたが、さすがに国境からそれなりに離れているオベニスまで攻め込まれるとは思っていなかった。多分、かなり昔に国境を越え、潜入したヤツラではないか? とのことだった。
オベニスを見つけた蛮族の部隊? は少数だったにも関わらず、当たり前の様に攻めて来たという。
迎え撃つはオベニスの守備隊。人数は多くは無いが、装備や訓練はかなりイイ感じ……と思っていたのだが、それが確かなことを確認出来た。
ちなみに、ゲリラと言っても奇襲、夜襲などを仕掛けられたわけではなく、普通に東門に向かって攻め込んだ様だ。当然、門の脇には守備隊の詰め所があり、待機している守備兵も多い。2名の死者を出しただけで全滅させることが出来た。何をしたかったのだろうか?
ああ、で。俺は何を確認出来たのかというと、守備隊の練度、強度だ。普通、このくらいの、約50人の蛮族に対して、一個騎士団……約百名で対峙するのが普通なのだそうだ。少なくとも辺境伯騎士団ではそうしている、いたらしい。
で。これが少ないと被害が増えるらしく、騎士百名だと一名の死亡、八十名だと二名。六十名だと四名、五十名だと八名なんて感じで被害が増えていく。
今回うちの門を守っていたのは、三十名の守備兵だった。つまり、正面からとはいえ、いきなりの襲撃、門を通過しようとしていた一般人を巻き込まないように戦ったにも関わらず、この程度の被害で返り討ちに出来たということである。
正直、俺個人的には兵を二人も失った……という気持ちがあるのだが……。日本人の感情的にふざけるなとも思う。何度も顔を合わせて話をしたことがあるだけに。
その程度の知り合いじゃないか、と言われても。気持ちが逆立つ。
まあだが、その辺は個人的な事情ということで、言い出すと戦場で一兵も失わずに勝たなければいけない。こっちも当然、相手の命を奪っている。奪いっぱなし、完封完全無双とは……いかないだろう。
とはいえ、兵一人、一人前に動ける様になるまでに、どんだけ手間が掛かってると思ってるんだ? という怒りは忘れちゃいけないと思う。そんなこと言っても、イリス様は当然として、ファランさんやオーベさんも、やれやれって感じの顔しかしないから、なおさらだ。
対費用効果として人的資材の育成費は非常に高価だということをさっぱり理解してくれない。みんな。
くそう。この世界、人の命が安すぎるんだよなぁ……。改善したいなぁ。その辺。
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