0396:いるだけで罪

「確認出来ているのはモリヤ隊の三人を一瞬で意識を失わせた召喚と闇術の複合による呪い「感覚喰い」。これが敵味方無差別の範囲攻撃じゃな。北方の強者が使う技……過去、戦場の中心で使われ、敵味方共に大いに倒れたという記述を見たことがある」


 ああ、だから単独で出てきた……のか。あれ、皆殺し技か~。


「……そして、我が君の一撃を防ぐ防護壁の術。これは良くある術じゃが、「我が君の一撃」を防ぐのは脅威じゃな。その上さらに、発動した術の消去……いや、我が主の説明から考えれば魔力の分解か。確かに、術が分解出来るのであれば、人間の身体も分解出来そうなものじゃが……それは少々難しいじゃろうな。ただ、何かは分解出来る。それによっては……必殺じゃな」


「どういうことです?」


「他はともかく、最後の魔力の分解は……似たような術を私も使えるからじゃよ。で。実験として魔物を分解出来ぬかと試してみたことがある」


「出来ませんでしたか」


「術はなんだかんだ言って、一つの属性で構成されておる。火の術であれば、火といった具合にな。其の分、魔物や……それこそ、動物や人間の身体が非常に複雑な構造となっている。それを分解するにはかなりの熟練と魔力が必要となるだろう。普通は無理だ。だが、そやつは、我が君という強敵相手にその術を使った……ということは何か有効打になり得ると思って使ったはずじゃ」


 まあ、確かにそういう……元素的な数を言えば生物の方が圧倒的に多いだろう。そして、あんな肝心の詰めの場面で、ヤロウが無駄な呪文を使うはずが無い。つまり、あの分解の呪文は……オーベさんの言う通り、分解の術だとしたら、身体の何かを分解するハズだ。


 って簡単じゃん……。


「元素全てに対応出来るのだとしたら。水……ですね。人間の身体に宿る水を……分解して消し去ります」


「どういうことじゃ?」


「我々……は活動を維持するのに水が必要です。水を飲まずに旅は出来ませんよね? 迷宮は潜れませんよね?」


「ああ、そうじゃな」


「食べ物は……無くてもしばらくは大丈夫です。ですが、水は三~五日飲まないでいるとやばいし、こっちの世界の人が辛抱強いとしても、一週間で確実に死にます。餓えは若干我慢できる。でも、渇きは我慢できない。どんな元素でも消し去れるんだとしたら、水が一番人体に与える影響は大きいハズです。酸素……空気を消して呼吸を出来なくするっていうのも……いや、範囲設定が難しいか」


「さすが我が主じゃな。素晴らしい見識じゃ。多分その通りじゃろ」


 オーベさんの……目がキラキラしている。ツボにはまったのか。そうか。知識に対する拘りは凄いからな。


「で。どうする?」


「そうですね……うーん。何もさせずに墜としましょうか。折角オーベさんに来ていただいて分析だけさせたのはちょっと勿体ないですが。自分がやります。ギリギリで見てていただけると」


「判った、問題無い。研究対象ならともかく、明確に敵じゃからな」


「ええ。正直……オーベさんも危険に直面させることは避けたいというか」


「……我が主は過保護じゃな」


「え? 知りませんでした?」


「うむ。知っておる。よいな。大事にされるというのは」


 オーベさんはとても良い笑顔だった。


 目前に見えるのはついこないだ見たばかりのバガントリニア。ボロボロになった二メートル程度の壁。自分一人、近づいて行く。


 多分、感知かなんか持っているあのヤロウは俺が近づいているのに気付くはずだ。


 万が一……はオーベさんに頼んである。さすがに、俺がダメでも……確実に潰すことが出来るハズだ。それが出来るくらいのダメージは与えられる、だろう。


 お。案の定。気付いたのか出てきた。うーん。バカなんだな。一人先を歩いている。後ろから……多分、効果範囲外から様子を伺っている戦士が多くいるのが判る。


 誰が来たのかは……判らないのか。まあ、そんなもんか。敵が来たらなんとなく判るってとこかな? あ、いやでも、気配察知は一度その感触を覚えてしまえば、なんとなく判るもんな。でも敵かどうかなんてわからない。自分に嘘をついて、潜在的に隠しているのもわからない様な気がする。


ビッベランジェス・ケルボン

ヒーム 男 力145 躯129 器210 敏384 知320 精334


思考鋭敏

敵性感知

魔眼

脅迫2

説得2


斧術1


魔力制御3

→闇3

 召2


波読風読1


 ちゃんと……ギリギリから鑑定している。おうおう。やっとハッキリ見れた。気になってたんだよなぁ。お前のパラメータ。


 って普通? 魔眼くらいか? 特筆すべきスキルは。イロイロあるみたいなんだよね。魔眼って。なんの能力だろうか……そこは判らんのか。


 界渡りの表記はないけれど。転生者……なんだろうな。多分。界渡りではないけれど……女を犯すって考え方自体が異質すぎる。


 それにしても……これくらいの魔術スキルのレベルであの特異で強力な魔術を使用するのか……つまり、まだまだ上達の余地があるということだな? まあ、その辺の解析は後でオーベさんにお願いしよう。


「ん? こないだの女じゃな……」


ガガガガガガガガガガガガガガ!


 言わさねぇよ? かなり前倒しなツッコミを入れながら、容赦なく……風の術でヤツを囲む。ん? あの防護魔術を先に発動させた、か? まあ、いいよ。別に。これで終わるとは思っていない。


 お前はうちの妻を「犯す」気で見た。罪状はそれだけで十分だ。極刑に値する。





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