0395:再調査
しかし……未知の敵、特に未開の地の未知の魔術士は厄介だ。ここまでとは思わなかった。うちの最強物理戦力を投入してここまで攻めあぐねるとは。まあ、あいつ一人の力なんだけど。
ただ、良かったのは、あいつ以外の術士がいないことだ。でなければあんな戦い方になるわけがない。
多分、あいつは斧戦士、俺の知識だとバイキングの戦士と戦い、それを打ち負かしてきた。一対一でだ。だからああやって本来なら遠間から不意打ちするのが当たり前の能力持ち=術士であるにも関わらず、正面から出てきてその姿を晒す。手の内を晒すのは……魔術士にとって最悪手だ。
って……よく考えなくても……もしかして……俺の考えてる理想の戦い方、不意打ちからの一切こちらが攻撃を受けずに一方的に叩き潰す……っていうのはものすごく卑怯で、戦闘としてあり得ないのかもしれない。彼らに取って。
暗殺とか、狙撃とか、そうなのか? 今更気づくのもなんだけど。その理屈だと、伏兵とか、奇襲とかも卑怯でダメなの? バカなの? どういうこと?
(そう……ですね。確かに、騎士という意味ではあまり褒められるような戦い方ではないかもしれません。ですが。勝った方がエライと言われるので気にすることでもないかと。バガントリガンという部族では特にそういう考え方なのかもしれません)
そんな風に言っていたアリエリは、既に情報収集のために大きく動き始めている。
かなり遠く……西の方まで情報収集に向かった様だ。確かに、バガントリガンの情報は少なすぎる。それを計算に入れてこの地を与えたのだしたら、モールマリアの王もかなりのやり手だろう。ってまあ、多分、今後の対セズヤ侵攻への布石の一つにするつもりなんだろうけどね。捨て駒として考えてもかなり使い勝手は良いだろうし。
モールマリア王国が今後侵攻して行くとしたら、セズヤ王国か、イガヌリオ連邦か、我が国、メールミア王国の三国となる。
実は、モールマリア王国とメールミア王国は根が一緒なのだ。メールミア王国の数十代前の公爵家が開拓という形で独立したのがモールマリアなんだそうだ。なので、その歴史通り古より同盟関係を結んでおり、現在もそれが続いている。実際に、現在の王妃は先代メールミア王の妹。現、クリアーディ女王の叔母という事になる。
なので、同盟破りをしてまでこちらへ侵攻するのは戦略的にはあり得ない。さらに、常識的に考えれば、ちょっと前に反抗の意思を確たるものとして征服者を追い出したセズヤは、現在絶賛復興状態で兵力や物資などがイマイチでも士気は高い。そうなると……残されているのは現在ボロボロでメールミア王国にも蹂躙されているイガヌリオ連邦である。
ということで、現状モールマリア王国の主戦力はイガヌリオ連邦側、南側に向けられているらしい。当然、人もそちらに向けられており、情報もそっちに集中している。アリエリはそちらに向かった様だ。
今、バガントリニア周辺を探っているのはミアリアだ。イリス様を強引に帰して、その代わりに来てもらった。なぜそこまで強引に入替をしたかと言うと。
イリス様は……強引に帰還させたが、実は、術を喰らっていた。
あまり反応しなかったから判りにくかったけど。まあ、相手が相手だ。何をされていてもおかしくない。若干とは言え、精神的なダメージも受けていた様だ。俺の祝福で完全に防げなかったというのはちょっとショックだ。
まあ、ミアリアもうちの最大戦力の一人だけど、イリス様の様に
アリエリも思っていたよりもあっという間に戻ってきていた。バガントリガンの情報は実際に戦っていた部隊などから豊富に入手出来たようだ。元々歴戦の戦士の集団で、さらに、「ジカ」と呼ばれる薬を服用することによって、一人で数十人分の戦働きをするのが当たり前の様だ。
モールマリア王国の沿岸都市、港湾都市はその襲撃に長年悩まされていたという。ただ、その人数は少なく、多くても船二隻での行動だったという情報もあった。それがここ数年は非常に大規模になってきており、その対策にモールマリアの騎士団がほぼ全て駆り出される始末だったという。
それが同盟を結ぶことになり、さらに、臣下の礼を取ったのだ。そりゃ……その力を他国に向けたくなるだろう。モールマリア王国の気持ちは判らないでも無い。
実際に、主戦場となるであろうイガヌリオ方面にあのバガンの王も召集命令が出ているらしい。ヤツはそれを無視して勝手に行動している状況の様だ。こっちはしてやったりなんだけどね。
そして……時間を十分にかけて情報収集出来た所で。
「私の出番じゃな」
そう。うちの最強最高術士様のご登場だ。
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