0389:バガントリニア

 セズヤ王国。王国初の女王の元に貴族が結束してからまだ日は浅い。反対勢力を一掃し、国内の情勢を安定させた。やっと、国力の回復に手を付けだし始めた所で、大渓谷を挟んだ西の敵国、仇敵であるアルメニア征服国が併合し消滅した。


 なので、現在の隣国はさらに西にあったモールマリア王国。


 そして……海沿いにあるセズヤに最も近い港街ゲランザ……現在ではバガントリニアと呼ばれることになったその港街から出陣してくる、バガントリガンのバイキング船の強襲に悩まされていた。


 バガントリガンの夜襲。後世に伝わるその夜間戦闘能力は特異で、彼らは夜の海でも普通に波を読む。セズヤの海沿いの街は次々とその餌食になっていった。


 旧来……海の魔物は非常に恐れられている。それこそ、船底に穴を空けられただけで船は沈没する。そのため客船は当然として、貨物船、漁船ですら近海にしか出ないのだ。それでも海を利用して大量輸送できる便利さが海沿いの街を構築していった。

 

 ただ、大渓谷と海が交わる河口は地形的に湾の様になっており、狂暴な魔物が生息していた。なので海からの侵攻は不可能だと思われていたのだ。

 

 つまり……セズヤの湾岸都市は海側が無防備だったのである。


 そこを突かれる形で、バガントリガンの夜襲は、頻繁に行われた。兵士から一般市民まで男を全てを殺し尽くし、女を奪うその残虐性に、海側の都市からの避難民が内陸部に押し寄せる。セズヤは極少数に過ぎないバガントリガンに恐怖し、海側の都市はその機能を失っていった。


「撤退するのか……これは……ただ単に嫌がらせだな……」


「ええ、そうだと思います。お館様の予想通りですね〜」


 イリスとモリヤ隊、リアリスが海の見える丘に立っている。セズヤ、女王からの密書には海賊の襲撃に対抗して欲しい。書いてあったのはそれだけだった。


「正直……ここで何かするよりも……向こうをどうにかしないとだな」

「はい」


 イリスが見たのは西。あの向こうに襲撃してきている敵の本拠がある。


「ならば予定通り、強襲を仕掛けよう」


 大渓谷の海に面している部分は、非常に広く数㎞の河口となっている。そのため上流に走る。そして跳ぶ。大渓谷のそこそこ狭くなった所へ移動したのは約一日。イリスとモリヤ隊のオルニア、シエリエ、リアリスの三名はそのまま、再度海側へ走り始めた。


「不愉快だな……」


 バガントリニアに近づく。警戒はほぼ無い。壁とは呼べない薄い木の塀。……ビシッという……独特の音と共に、女の悲鳴や鳴き声が、……都市の外まで響いていた。イリスが仮面越しに呟く。モリヤ隊の面々も同様に仮面を装着している。


 強奪略奪した女に暴力を振るい、傷つけ、悲鳴を上げさせる。それがバガンの風習らしい。その悲鳴を聞きながら子供は育つ。


 港街ゲランザだった頃の面影は一切無い。建物は、ほぼ崩れ燃やされて、廃墟化している。この大陸の多くの都市は、旧時代の街の建造物を利用して構築されている。この街もそういった、過去の建物、特に港などのインフラ設備を生かした作りになっている。

 つまり、キチンと機能しているのは港となっている湾岸の埠頭部分。その傍にあった倉庫も幾つかは燃えたのか、グズグズに崩れている。


 街の警戒は本当に行われていなかった。衛兵さえ見あたらない。なんたる油断。だが、自分が襲い掛かっている側なのだ。加害者は被害者を想像できない。さらに蛮族であればそのモラルは予想出来ない。彼らにしてみれば、これで当然なのかもしれない。


「海側から……行く。動いたらそちらも」


 リアリスが頷いた。


 作戦通り、モリヤ隊の三人が内陸側から。イリスが一人、海側から攻め込む。向こうが嫌がらせならこちらも嫌がらせだ。

 

 ここにいる四人は闇夜でも目が見える。夜目というが、ノルドの種族能力の一つであり、ヒームにも生まれつきその力が備わっている者もそれなりにいる。


 バガントリガンの戦士もほぼ同じ能力を持っている。が。あまりに安寧なこのバガントリニアでの生活は歴戦の海の戦士を鈍らせた。


ズッ……。


 見張りに剣を突き入れた瞬間に思い出した。海側で「騒動を起こして」注意を引く必要があったことを。



 いきなりの威圧に街の海側、その約半分の地域で人が動けなくなった。イリスが動けなくなったそれにトドメを刺していく。


「てめぇ! なんだ、そりゃぁー!」


 片手斧を手に駆けつけた戦士が、一振りの元に斬り捨てられる。


「この程度か? それとも今夜も夜襲に出ていて、主力はそこか?」


 あまりに張り合いの無い敵に、イリスが顔を顰める。酒に酔い、女を痛めつけている者が多い。次々と首に剣が食い込む。


 が。次の瞬間。凄まじい勢いで走り始めた。


 走りながら……その存在を確認する。


(ヤバイ……ヤツが生えた)


 本能でその危機を感じたイリスは、夜目しかも千里眼に近い俯瞰した視界に、モリヤ隊の三人が一瞬で……倒されている事を確認する。見慣れた、感じ慣れた気配を追えば、その辺は造作も無い。……息はある。


 背中を針で刺されるような感覚は常に発生している。敵がいる。そして、それは自分を含め、戦士ではどうにも出来ない相手。自分とも相性が悪すぎる。


「へぇ……速いね。アンタ」


 どこからか……声が響いた。


「短い時間でうちの身内を何人も……許さないよ?」


 子供? 外見は明らかに子供だった。が。違う。何かが違う。内包されている気が子供のそれではない。


「あ?」


 その瞬間。間合いがすれ違ったのは一瞬。イリスは既に……モリヤ隊の三人を抱え上げて、脱兎の如く逃げ出していた。一切無言。


「ちっ。対峙する意志も見せずに……即退却か。かなりのやり手だな。そもそも嫌がらせか。これ。うちがやっているのと同じ……」


 バガンの王、ビッベランジェス・ケルボンが道の真ん中で取り残されていた。松明の火が彼の小さな身体を照らしている。









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