0382:征服国陥落
アルメニア征服国陥落。一都市が落ちたとかではなく、国として陥落。全面降伏ということらしい。情けない。というか、自ら戦える者を殺し、追い出した結果……がこれだ。
「滅びましたか。まあ、そうでしょうね」
「ああ、なんというか、一瞬じゃな。軸になる、支えとなる者のいない国はあっという間に消える」
情報部のノルドが説明してくれる。手には資料を持ち、どこかビジネスマンぽい。
「モールマリア王国の陣容は
総指揮官
皇太子 「乱剣」メッスル・ミシラ・モールマリア
王国騎士団騎士総長 「固き盾」モッド・ランスール
王国騎士団赤猪騎士団長 「追撃」ブラン・ド・リチュール
王国騎士団青梟騎士団長 「戻さず」オーシェン・クラー
王国騎士団黄狼騎士団長 「意のまま」スルズ・シンカール
王国騎士団黒鷹騎士団長 「激流」ミラン・ドットパール
傭兵団「強襲の鬨の声」
団長 「一撃」スタンバー
副団長 「知られず」クロンミード
バガントリガン
バガンの王 ビッベランジェス・ケルボン
1番船 ボーラーゼール
2番船 クロッピッツ
3番船 シードィン
4番船 モドライアビル
5番船 クーガークー
6番船 ビビスルシア
7番船 レビアアッツ
このような感じで。騎士団は五つ。一団、百のうち八十が侵攻用、二十が現状維持用として各地方で待機。合計で四百といったところでしょう。「強襲の~」は五〇名程度の中堅傭兵団。バガントリガンは各船毎に隊として機能してて、大体一つの船に30くらいの戦士が所属しています。全員が準強者以上の使い手だとか。まあですが、この他にまとまった戦力は、この他に王都に残った近衛騎士団くらいで、殆ど総力戦と言った形になったようです」
国内の魔物対策は重要だし、森からノルドが攻めてこないとも限らない。というか部隊名とか良く判ったなと思ったら、偶然、酒場で自軍の陣容を自慢する兵士たちだかの話を聞いて覚えたんだそうだ。
「モールマリア側もそこまで余裕じゃ無かったと」
「そうです……ね。しかしこれから、無傷で手に入ったアルメニア豪族の兵力等を取り込んでいけます。豪族の指揮官となっている戦士は最低でも、準強者級の強さを持っています。というか、生き残っていれば確実に強者といっていいでしょう」
詳しいミルベニくんの補足付き。
ちっ。面倒だな。数も質もそこそこ安定した後、絞りきって全搾取しておけば良かった。嫌がらせ的に。オーベさんとミルベニの感傷とか想いとか気にしてたらダメだな。やっぱり。
「次はセズヤだろうね……」
「だと思います」
「ああ、そうですね。その、バガントリガン、海の民であるバガンですが、既にセズヤに対して略奪攻を仕掛け始めています」
「あの大渓谷を抜けて?」
「いえ……海からです。バガンは海の魔物を脅威としない……民ですから。船で海を行けば……望む場所に行きたい放題です」
そりゃそうだ。海か。海の魔物は大きくて強いので、この世界の常識として基本、海に船自体を出さない。海軍という兵の考え方も存在しない。近海漁業や川や運河を利用する底浅船くらいか。
だが、バガンはその海を越えてモールマリアに襲いかかって略奪を繰り返し、生活をしていたという。
バガンにとって女も略奪の商品のひとつだ。さらに、連れ帰って自分たちの子どもを生ませて育てさせる。
「さて。どうしようか? うちの裏の生命線でもあるセズヤ王国をこのままモールマリアにくれてやるのはちょっと惜しい。正直、現状、食糧の備蓄はかなりイイ感じで出来ているから問題無いんだけどさ」
「ここと地下水路で繋がっているとは……そんな理由でしたか。オーベ師があそこで現れたのは」
「うちはうちで理由があったんだよね」
「はい……ですが、正直、自分は、オーベ師が諫めに来たのでは? と思ってしまって」
「ああ、オーベさん、面倒見良いからね」
「は」
複雑だろうなぁ。当時の詳細を聞く度に、別にアルメニア征服国の戦略がそこまで大間違いじゃなかったことに気付く。さらに、それを阻止したうちだって、結構ギリギリ、運任せだった部分も多かった事にも気付く。
ミルベニは自分がそういう全体の流れに気がついていれば……大切な仲間は死ななかった。特に俺たちが直接手を下した「剣聖」「魔剣士」は死ななかったかもしれない。そうなると自分を責めるしか無くなる。
「ミルベニ、ここで働くということはこういうことになるけど。どうする?」
「……ありがとうございます……。ええ、ええ。そうですね。後悔は……するでしょう。ですが。このままどこか誰も知らない場所へ行き、食べるモノを作り、眠る……隠居することにしたとしたら。近いうちに私は私を許せなくなる。現実として死んでいった仲間、そして恩人の思いや志を、託された思いを投げ捨てたというコトになってしまう。それは……他人の死の上に、自分が生き抜いてきたものにとって。最低限の枷です」
「そうかもしれないね。ああ。うん。まあ、自分だったら? と思うと確かに引きこもってずっとゴロゴロしてる……のはズルイかもね。特に出来るのにしないっていうのはズルイ」
「はい……なのでこの程度でツライなどと言っていられません」
「そっか」
オベニスは、セズヤ王国に手を貸すということに決定した。それは……セズヤを守るという意味よりは、オベニスを、さらにメールミア王国も守るという意味で。
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