0381:バガントリガン

 バガントリガンの求めたモノは自分たちの街ともうひとつ。いや、もしかしたら……本当の目的はそちらだったのかもしれない。


 それが、リエラ草だった。


 バガントリガンの強さの秘密は、リエラ草を氷原の断崖に生えている菌類と共に煮詰めて蒸留することで完成する「ジカ」という薬のせいだった。

 

 この薬を飲むと、理性を残したまま、痛みを感じにくくなり、血が流れ出るのを抑えてくれる。理性を失い、目の前の者を叩き潰すしか出来なくなる狂戦士とは違う……我慢強い戦士となるのだ。


 このジカの原料となるリエラ草は氷原でも若干手に入る。が。バガントリガンが採り尽くしてしまい、現在では入手困難となってしまった。だからこその交渉、講和の提案でもあったのだ。


「ジカの無い状態ではいずれ、我々はモールマリアに力で押されてしまう。そもそも、海を渡る力すら失うことになるだろう。それなら力を誇示出来るうちに話をした方が良いと思ってな」


「お前は若いのに賢いな……」


「奪うばかりではどうにもならない。冷静に考えれば考えるほど、このままでは我々は死に絶えることになると思った」


「そうか……」


 モールマリア王、メルフェース・セドン・モールマリアは既に60歳を超える。この年齢になって自ら大規模な侵略戦争を行おうとは想像すらしていなかった。領土を広げれば、当然、諍いもそれを調停する労力も増加する。自らの国土よりも豊かな土地を奪う。それを己のモノとしてさらなる領土を狙う。王であればその覇業に憧れないワケが無い。その手の野望がそこまでではなかったメルフェースにしても、自らの国を豊かにしていくのは吝かでは無い。


「ビッベランジェス……そなたはなぜ、バガンの王となり得た?」


「なり得た? ああ、どうしてなれたのか? ってことかい?」


「ああ。バガンは全てに実力勝負だと聞いている」


「戦って勝ったからさ」


「そなたがか」


「ああ。俺がだ」


 その顔には年齢に不相応な揺るぎない自信と、戦士としての闘気が浮かんでいた。


 モールマリア王は……海賊を率いる長であるビッベランジェスを好ましく思い始めていた。自分の子供たちや部下とは大きく違った感触に、これからの、自国の先が見えた気がしたのだ。


 バガンの民を強者として扱い前戦に配置したモールマリア騎士団と、いくつかの傭兵団の混成軍は、王が死に、さらに騎士団が解体された直後を狙ったかの様にアルメニア征服国へ侵攻を開始した。偶然なのかなんなのか、そのタイミングは絶妙だった。


「奴隷将軍」ゴバンが、ミルベニとガラリアの二人を逃して死んだ直後。


 戦力的な空白、間隙を狙ったかのような強襲。


 当然、アルメニア征服国の西側の都市や街、村は次々に襲われ、奪われていった。元々地域豪族の力が強く、その支持をまとめて出来上がっていた国なだけに、まとめる者が死に、そして国を離れてしまっては、個別に抗う事しか出来ず、多少先の見える者は無条件で降伏し、服従するしか生き残る道は無かった。


 ついこないだまで強き王の元、国として集結していたその力は、自らの愚かさによって粉微塵と化していたことに気がついたのは全てを蹂躙されてからだった。


 アルメニア征服国はあっという間にモールマリア王国に併合された。


 約束通り、征服国側の一部がバガントリガンの民に与えられた。そこはセズヤとの国境に当たる大渓谷のすぐ脇。辺境伯的な扱いでセズヤとの国境を守る役目を任されることになる。


 さらに。バガンの民は、大渓谷をスルーして、海側から回り、セズヤ王国に攻め込む事が出来た。略奪攻である。


 メルフェース王はとりあえず、新たな領地を統治することに集中するために慌てて攻め込む事はしなかったが、バガンの略奪を止めるつもりも無かった。これまで、自分達がやられていたことを、敵にする。その効果は一番理解している。多分それはしばらく後にセズヤ王国へ攻め込む際に必要な布石だからだ。


 アルメニアを手に入れた事によって、騎士団の強化だけでなく、バガンに加えて強者も充実し、次の得物も視野に入っている。


 メルフェース王は自分でも気付かなかった己の野心に……一人、ほくそ笑んだ。




 



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