0379:ガンバレ高年齢

「ワシに何をさせようと?」


「んー色々とあるんですけどね。一番は……うちの商業面での実質トップ、シエンティアに貴方の全てを叩き込んでほしい」


「……シエンティア? それはこないだまで赤子だったシエンティア・タジクですかな?」


「そうそう。その娘。やはり知り合いでしたか」


「……親が欲目を出して、目先の取引のために血筋だけの貴族に嫁入りさせようとして逃げられたとは聞いておりますな。あの才能の塊と言われた娘ですか。はあ。ここにいたとは……」


「そんな事情なのは聴いていたので、極力彼女が表に出ないように仕事をさせていましたからね。そんな彼女をさらに鍛えてほしい。さらに、今の口ぶりからすると、彼女の実家関係の問題も全部解決できますか?」


「ええ、タジクの所は……私の直轄ですからな。如何様にも」


「では、彼女が今後、実家から何かと干渉を受けないようにしてあげてください。ここでの彼女を見ていると、既に自立している。子供なんだからもう少し遊んでも……と思うんですが、彼女の才覚がそうはさせてくれないみたいです。本人談ですが」


「わかりました」


「あ、あと」


 え? いきなりなのにまだあるの? っていう。


「こちらは本当の商売のお話です。というか、あわよくばっていうのは考えていたんじゃないですか? 貴方なら。ガギル製の武器防具。しかも商品として普通に流通させることも可能な数。用意できます。さあ、どうします?」


「ええ、ええええ、そうです。それも心躍る商材ですな! 噂を聞いて、心のどこかで期待していたのは確かです。戦争の無い未来を託されたワシが、これまでよりも超高性能の武器防具を売る。それがあればゴバンを失うこともなかったかもしれないモノを売り歩く。どこに? 将来的に戦争を無くすべきことを考えた上での売り場所へ。ああ、なんということだ。それでよいとおっしゃるのか。普通に考えればガギル製の武器防具はとにかく儲かる商材でしかありません。かつてないのですよ? 彼らの武器防具をまとめて売った商人が! どんなに愚かであっても巨万の富が転がり込んでくる」


「今のままではそれらを全て、シエンティアが与ることになってしまう。今も未来も。それは……どうなのかな? と考えています。彼女が死の商人としての顔を見せるのは年齢的にまだ早い」


「……ええ。さらに言えば。武器や防具を扱うには、純粋に暴力も必要となります。それを理解したうえで使役できなければ、早々に酷いことに成り得る」


「貴方なら上手くやれる?」


「ですな。少なくとも彼女より、いや、この大陸で……私よりも上手くやれる商人はそういないでしょう」


「では決定。任せます。あ。この領の秘密が色々と知りたいのであれば……誓約が必要となりますけど。どうします? イリス様配下ってことにもなりますが。その場合」


「商人として動くためにはその肩書は隠しておけば良いだけです。そうですな。何番目かの御用商として登録いただきましょう。実際はこの領の利益を考える部下、そして裏の動きを担う者にもなりましょう。いかがでしょう」


 うん。ある意味ミルベニくんとは違った意味で心強い。


「この領の秘密……知りたすぎますからな。当然。そのためなら、いくらでも。我が心の商いの神に誓いましょう。しかし、この歳になってこんなに難しいことを任されるとは。丁稚として商売の道を踏み出して数日で、これを売って来いと魔石五個を持たされた時よりも酷い。たまりませんな」


 ああ、そう言ってもらえると非常に心強い。この老人からは……とてつもなく強い気概が感じられる。やはり商人なのだ。物を運び、売り歩き、掘り出し物を見つけて買い、それをまた売り歩く。その部分がこの人の基礎を生み出している。


 誓約後。


「この領の全てはモリヤ様……から始まっている……と思っていいでしょう。強者が多いのも、オベニスが城砦都市としておかしいのも、ノルドやガギルと縁が深いのも。すべてはあの方からです。誓約もあの方に関してだと思っていい。その点だけは……忘れない方がいいでしょう」


「ああ、判った」


 翁は。ニヤニヤするミルベニと共に、二日かけてオベニスを見て回った様だ。そしてその後、三日間寝込んだ。らしい。歳なのにはしゃぎすぎるからだとミルベニが言っていた。


 まあ、あれくらいの一流商人にしてみれば、うちの居住区は宝の山だからね! マジで! 売れないものがない! くらい思ってもおかしくない。実際にはほとんどが売れないけど! そもそも持ち出せないモノも多いけど! 迷宮だからね。最近忘れがちだけど、迷宮を居住区にしただけだから。うん。








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