0378:いやらし爺
「アーガッド王と同じ、とミルベニが言うのであれば、イリス様にお願いがあります。私が、こやつを助けることをお許しください。先ほど長々と喋った通り、私の中には何人もの命が詰まっております。若いうちの心残りはまだいい。じゃが、この歳になってからの心残りは……重いのです。まだせめて、やつらの心残りを解消しようと動けているのなら……夢見もマシになりましょう」
さてさて。ははーん。嘘ではない気もするけど、全部でもない。でも、この人すでに、商人としての切った張ったの世界から身を引こうとしてるんだろうなぁ。ダメだな。それは許しちゃあかん。責任を取ってもらおう。笑。
「セズヤ侵攻の作戦を考えたのは……貴方ですね?」
いきなり言われてポカン……だろうけど、なんとか理解したらしく頷いた。だよねぇ。あの陰湿な作戦はミルベニくんじゃ考えつかない。ほとんど宮廷内や上位貴族との会談、会議で動いていた戦争だったのだ。征服国の軍や人間はほとんど傷つかない。派遣されていた騎士団も確か、異常に乱暴とか、粗雑、言葉が通じない…など、鼻つまみ者達を集めていた。元々「使い捨て」の要素満載だったのだ。
つまり。最初の侵攻戦では精鋭含めて、王自らが戦い、電撃的に国家中枢を抑えた。が。その後のセズヤ攻略戦はアルメニア征服国の戦力は全て死兵であって、全く損をしない。馬鹿どもが元敵国で大暴れして、セズヤの民に厭われ、嫌われることも計算のうちだ。内乱狙いだからね。
で。内乱が発生すれば、これによって決定的にセズヤ国内の力を弱めることが出来る。収まりそうになってきたら再度、征服国本体が出てきて再度占領。その時は確実に兵を配備して、完全降伏状態となる。逃げ道はない。
自分たちの手を傷めずに、国を盗り、さらにその後の支配もやりやすくする上に、単純に出来損ないの鼻つまみ者の処分、それを弱みに国内の豪族の支配強化にも使えてしまう。なんて素敵な作戦なんでしょう。
「ということで、貴方の考えたようなそんないやらしい作戦を駆使して、対外との取引を行っていきたいのですよ。我がオベニスは」
ミルベニに、いきなりぶっちゃけやがったな? という顔をされたが、まあいいじゃない。このじいさんが純粋にせっかちなんだしさ。こっちの方が好みだよ。絶対。
「そこからここは……かなり話が飛ぶ気がしますな」
「そうかな? そうでもないんだけどね。ぶっちゃけ、実力行使……戦争にまでしたいわけじゃないからさ。そして、国を盗りたいわけでもない。ただ……掌握したいだけだ。商売で物を操り、人を操り……外に目を向けさせない。そのためには敵国を支援してもいいかな。判ってると思うけど、戦争の一番の原因は愚かな指導者だ。これはもう、消してしまえばいい。得意でしょ? くくく。で、二番目の原因が貧困。こっちは貧困になっている者を消してしまうと国が成立しなくなる。なので助ける。直接ね」
「な、なんと……」
「貴方は気付いているハズだ。奪い合う争いってヤツは効率が悪い。何よりもヒューマンパワー……社会の働き手が死にすぎる。魔物という人間の天敵がいるにも関わらず、人間同士でも殺し合っていたら……待っているのは種族衰退一直線だ」
考えている。が。なんていうか、挙動が少々おかしい。まあ、そうだよね。老いてくると劇的な思考の転換っていうのは難しいんだよね。理解出来るまでに時間がかかるかな? さすがに。
「ああ……ごめん。ミルベニ言い忘れてた。後出しになっちゃうんだけどさ……セズヤの件、最後の詰めを妨害しただけじゃなくてさ、あの辺の作戦全部ぶっ潰したの俺らね」
「はぁ……まあ、そんな気はしておりました。さらに、それも仕方ないかなとも思っておりました」
「……そんな?」
「ガリエラ老。この人には張り合おうと思わないほうがいいかもしれません。駆け引きなしで話をした方が確実に実入りが良い。さらに話も早い。このモリヤ様。ここまでの話で理解しているとは思いますが。この領の交渉事はほとんどこの方……イリス様の夫であるこの方が差配されてます。この方からの言葉は領主の発言とほぼ同格。で、かまわないそうです」
イリス様が頷く。
ああ、そうだねぇ。さっきの奴隷将軍の話は結構グッと来てたよ。俺もだけど、多分、イリス様が。そうだねぇ。弱点になるとすればそこだよねぇ。理や論で攻められるよりも、義や情で攻められた方が身動きできなくなりそうだ。今、ミルベニがそれを証明して見せた。
まあ、だからこそ、俺がいるし……多分、オーベさんとモリヤ隊はそういうの一切関係ない、思いつかないから頼もしい。
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