0377:老人の話は長い

「は、はい。では……今回の訪問は……まず第一にアルメニアで一緒だった、同僚……とでもいえばいいですかな。そのミルベニの体調の確認、そして待遇の確認で……あります」


「あ。口調も普通でいいですよ? もう少し。イリス様には敬意を払って頂きたいですが」


 当の本人は既に飽きている……鼻でもほじりそうな勢いだ。それはお下品なのでやめて欲しいところ。


「はあ……」


「ガリエラ老。アーガッド王と同じ様なものだ」


「そうか……。判った。では、普通の話し方をさせてもらおう……イリス様よろしいですかな?」


 鷹揚に頷くイリス様。いや……あれは、鷹揚ではない。本当はもう、面倒くさくなって剣でも振りにいきたいな~面倒だな~の適当な頷きだ。


「ワシとミルベニは……「奴隷将軍」ゴバンに生かされた。ヤツが数十の部下と共に、我らの逃亡を助け、足止めを行ってくれなければ、確実に追撃の手が届いていた。ワシよりも先に出発したミルベニは本来、ゴバンと共にワシを逃がす段取りだったようだ。罠を仕掛け、魔術を使用中に奇襲に襲われ肩を貫かれた。なので、足手まといになるだけなので、ミルベニの手の者達と少数の手勢のみで先へ向かわせた……と、ゴバンに言われた」


 後悔……か?


「ワシは……既に……一度死んだ身だったのだ。アーガッド王に救出された時には既に死にかけじゃった。そんな老いぼれのために……未来ある者、ミルベニもそうだが、強者でもあるゴバンが命を賭けようとしているのが許せなかった。ワシは商人ですからな。魔道具はまだまだ在庫があった。特に……秘蔵の爆裂系の魔道具は、全て発動させれば周囲一帯を吹き飛ばすことくらいなら難しくない。当然、私は、ゴバンに、そう言って交代しようとした」


 ミルベニは……俯いたままだ。多分、彼が怪我をして朦朧としている状態で馬車は発車したのだろう。しかし……よく持ったな。あ。そうか。癒しの術を掛け続けてたって言ってたもんな。癒しの使い手が何人もいたのか。


「ゴバンは……


「戦争で殺したり壊したりは一瞬だ。それを俺は為すことができる。だが。親父さんやミルベニは、その戦争や争いを「最小限」の被害で治めることができる。さらにミルベニは成長すれば「発生しない」様にもできるかもしれん。俺は……二人の未来の方が見たい。闘い続け、敵の肉を抉り、腕をもぎ、足をちぎり、頭を吹き飛ばし、首を斬り。恨みをもたれ、恨みを拭い取ることができず、ただただ戦い続ける……そんな、戦い続ける未来はいやなんだ。すまん。親父さん。世話になった。ミルベニが死にかけで気になって仕方ない。面倒を見てやってくれ」


そう言って……ワシを送り出した。馬鹿者が、ミルベニはともかく、ワシのような老骨に未来も何も無いだろうに……」


 俯いたままだったミルベニの目から涙がこぼれ落ちている。遺言だ。まあ、そうか。これは本来はミルベニだけに言うべき事だったのかもしれない。だが、敢えてここで言った。彼の為に。彼がここで生きやすくするために。


「なので、こうして普通に動けているミルベニを見て安心しました。ゴバンから右腕はもう、失ったものとして考える……感じだと聞いたのでな」


 まあ、余計なことは言わない。ミルベニも誓約で言えないしね。


「これが八割ですな。そして残りの二割は……うーん。ミルベニがどうせ逃げるのならそこへ……とこだわったこのオベニスという領を確認するため……ですかな。王都では恐怖の対象、畏敬の対象でしたが」


「そうなんですか?」


「ええ。言葉飾らず言うのであれば、「荒れ狂う鬼」、卑しき女の率いる軍は百鬼夜行を狩る者なり。全ての魔物、全ての強者はその力の前に、平伏し許しを請う。近づくなかれ近づくなかれ。その振るいし剣の音を聞けば、耳が落ち腕が落ち首が落ち。有無を言わさず斬り刻まれる……王都滞在はわずか十数日でしたが、こうして覚えるくらい歌われておりました。オベニスに関わるな、触れるな、馬鹿にするな。すっかり悪者扱いですな。これは……多分、他の貴族の意図を汲んでいるのではないかと思いましてな。少々心配になったというわけです」


 その顔はやさしい。策謀とは無縁の……孫を心配するかのような好々爺の表情だ。






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