0375:監視ですよ
ミルベニくんはオベニスの各所を見学して回っていた。彼の面倒は特別にシエリエにお願いしてある。問題……起きようがないだろう。
居住区の管理や運営。さらにこの領の税制度に関しても非常に関心をもったみたいで、様々な資料を確認していたそうだ。
それが祟ったのか、無理したのか、再度部屋から出れなくなった様だ。だから、言ったのに。癒しの術で治ったとはいえ、重傷、それこそ……一カ月くらいは寝ていないといけない怪我だったのだ。数日見かけないな……と思っていたら。
「? 「大」ガリエラがオベニスに? 来たの? 面会を希望している? イリス様に?」
「はっ。この領で配下になる件を報告し、モリヤ様と一緒に会いにいきたいので予定を空けていただけないか? とお願いした所……自ら訪れた様です。私の名にメッセージが届きました」
お。よかった、ミルベニくんがちょっと元気になっている。寝込んだって聞いたから心配してたんだよね。俺、医療分野では素人だからなぁ。もしも癒しの術を間違って使ってたらどうしようとか考えちゃうよね。怖い。
で。うーん。で。そんな大商人。うさんくさいジジイ……だろうなぁ。怪しい。というか、まあ、会いに行こうと思ってたんだったね。丁度良かったな。ラッキー。と思うか。
っていやいや。絶対何かあるけどさ。セズヤへの攻め方を考えれば……ミルベニくんと違ってもの凄く裏がありそうだし。とはいえ、まあ、それくらいじゃないと商人としては物足りないしね。組んで商売をしようとか考えるのなら頼もしいとも言えるか。
「ミルベニ。生きていたか! 良かった。手紙を見た時もあの傷が癒えたとは信じられなかったが、こうして立って迎えてくれるということは、本当に治ったということか?」
「ええ」
ミルベニの従者っぽく脇に立ち、爺さんを迎えてみた。うん、イメージ……通り? 痩せているだけで、中世の商人……といった出で立ちだ。白い髪、白い髭。ああ、わかりやすく言えば、痩せたト○ネコ? 着ている服装も貴族というよりはそっち系だしな。
「逃がした甲斐があったな。これでゴバンも浮かばれる。それで? 領主様への面会はどうなった? 段取りは付きそうか?」
安否確認が終了したら、もうそれは良し、か。せっかちだな。全く。まあそんなもんだろうか?
「多分、叶うだろう。ガリエラ老。だが、用件は何だ? 私は既にここオベニスで御領主様……イリス様の配下となった。用件次第では面会に反対しなければならない」
おお。さすが。覚悟完了だわ。まあ、でもそうだよね。いくら命の恩人でも、だからって無条件で上司に話を通すワケにはいかない。内容を把握して、その上で相談して決めないと。って俺がここにいるからね。なおさらね。笑。
「ああ、その前に……」
笑顔の奥の目が。俺を見据えた。
「彼は君の部下かね? 見覚えがないのだが」
「ああ、部下……兼監視といった所だと思う。オベニス側から側に置く様に言われている。何か?」
予定通りの答え。
「ああ、まあ、そうだな……いや……うん? 何かおかしな感じを受けたのでな。そもそも私どころか、「召喚妃」オーベ様の弟子であるミルベニすら疑われているのであれば致し方ない。当たり前か。ハッキリと交戦こそしていないが、他国なのだしな」
謎の傭兵団としてだけど交戦してるからね~その辺はね~心情的に怪しんじゃうよねぇ。というか、お爺ちゃん、セズヤで酷いことしたじゃない?
とはいえ、俺を警戒したのは、ただの勘……か。
まあ、ぶっちゃけ、俺もそこそこ魔術は使える様になってる。剣は……素人よりはマシレベルだけどさ。劣化だけど威圧も使えるし、能力的にはそこそこなんじゃないかな? と思っているんだけどさ。
強者ではない。なれない。癒しの術だけは妙に飛び抜けてる感じになってるけどね。
ギリギリ、準強者くらいの能力はあるらしい。イリス様、ファランさん、オーベ師の保証付きだ。
なんだけど。
本来持っている小物っぷりは健在である。こうして、色々と表面に出ないように落ち着ければ、多分、観察眼に優れている「大」ガリエラですらごまかせるようだ。……それがお前の本来の力だ! と言われているようで、ちびっと悲しいけどね。
いきなり能力バレで、警戒されちゃうよりは……まあ、いいのかな。うん、良いと言うことにしておこう。
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