0374:ミルベニ・オルドナッツ⑤

「ああ、関所や都市の門での通行料や入場料は取らない。基本的に、そういう細かい税はモノの動きを妨げるし、長い目で見ると発展を妨げるだけだ。但し、あまりに大量な売買の場合……馬車で数十台分とかそういう分量を持ち込んだ商品には関税を掛けるから、検閲はしてるけどね。でないと他の類似品が潰れちゃうから」


 多分、世界で最も快適な部屋……しかも一般的な領民が暮らす……の見学から、この居住区にある領役場へ向かった。


 この役場の執務室がモリヤ様の普段の仕事場になるという。ここも……異質だ。壁が白い。さっき見た住宅と同じ様な手法で作られているのだろう。


 何故通行税を取らないのか? という質問の答えがこれだった。大量に物の売買が行われた場合、大商いの場合は別だそうだ。オベニスに支店がある場合は店舗税で処理されるという。店舗税? と言われると良く判らなかったが、商店でも一定以上の売買を行っている大きめの商店の場合は、その売買代金、金額に合わせて税を払う義務が生じるらしい。


 細かい……し、理には適っている。大量の資本で大量の品を安く用意して、都市の市場を荒らし、ライバルにダメージを与える。大商店がよくやるやり方だ。その防止なのだろう。


 正直……税というのは様々な所で発生し、それを領主が集め、さらに国に集める。その程度にしか考えていなかった自分は……またもショックを受けていた。


 なんだ? ここは……。全てにおいておかしい。モリヤ様という存在がおかしいとかそういうレベルの問題ではない……。オベニスという領都全てが、複雑におかしさを撒き散らしている。


「そもそも……魔物が発生しない土地……というのはどういうことなのでしょう?」


 キョトンとした顔でモリヤ様がこちらを見る。これまで考えたことも無かったという顔だ。く。こ、この人は気付いていなかったのか? 


「ん? どういうこと?」


「どういうこと? ではありません……この居住区では魔物が発生しない……と聞きました。それはおかしいということです」


「??」


「魔物は、魔力から生まれると言われています。魔力とは世界中ありとあらゆる場所に存在するモノ。つまり、城砦都市の中であろうと城内であろうと……確率的にはいきなり魔物が発生してもおかしくは無いのです。それこそ、過去の資料には、魔術に優れた皇子が城内で魔術の実験を繰り返していた所、その残留魔力が溜まって魔力溜りが発生。そこから魔物が発生するようになり、騎士団の討伐訓練に使われた……などというモノすら見受けられます。つまり、どんな結界や魔道具で守られた城内であっても、魔力溜りさえ出来てしまえば、そこから魔物が生まれるということです。特に林や森……人の住んでいない場所には魔力溜りが発生しやすく……この居住区には緑が多すぎます。正直、非常に危険だと考えます」


「あー大丈夫大丈夫」


 な。まだ、この危険性を……。


「このフロアってさ、俺が自由に設定出来るんだよね。誓約したから教えるけど。これ極秘ね。で。今は魔物が出現しない設定になってる」


「はっ?」


 今、この人は何を言ったのだろうか? よ、良く判らない。これだけ広大で平たい土地が地下? にあるだけでもとんでもないのに、それを自由に設定できる? 設定ってなんだ? 変化させられるということか? まさか。それはどういう意味なのか。判らない。というか、知らない。


 誓約は……した。それはオーベ師の研究によるものだと思っていた。師の研究は普通に、当り前に、一般に露呈してはいけない禁忌に踏み込んでしまうからだ。


 だが。違った。誓約すべきはこちらだったか。自分の中でモリヤ様……の重要度、危険度がドンドン上がっている。


 そして、冷や汗も止まらない。


 私は……今まで何を学んで来たんだ? 何を求めてきた? 魔術を学び、学問を学び……一人の学究の徒として、疑問に思う事を追い求めてきた。


 それが崩壊する。グズグズと崩れていく。何が起こっているのか? 私は……この状況をどう判断すれば良いのか? 


「それで慌てて聞きに来たのかい」


「し、師は、自らの知の崩壊を恐れなかったのですか?」


「相変わらず……形から入るねぇ。お前の悪いところだ。確かにここは……規格外じゃ。だが……ああ、そうか。大前提が違っておったわ」


「はい?」


「ミルベニ、お主、ビックリしたばかりで気付いておらぬようじゃが……まあ、いいじゃろう。特別に教えてやろう。数日すれば気付くはずだからな。なぜ、このオベニスがこんなことになっていると思う? 考えてみよ。そこまでお前がおかしいと思う、このオベニスという都市。では「なぜ」こんなことになっている? お前なら幾つかの可能性が見え……正解にも辿り着くはずじゃ」


「え、あ、は、はい……了解しま……した」


 とりあえず……それから数日は呆然としたまま過ごし……可能性について考えられたのは三日後だった。



 





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