0373:ミルベニ・オルドナッツ④

 古代の言い回しで、開いた口が塞がらないとはこういう状態をいうのか。


 これは……なんだ?


 見渡す限り続く平らで整備された土地。直角に交差する様に敷かれた道路。整然と並んだ建造物。道と建造物の間には緑の草原の一部が残っている。

 道は……これは……いや、今、自分が立っている階段は、一体「何で」出来ている? 土、木では無い。石積みでもない。煉瓦でもない。泥や粘土の中には乾くと固くなるモノがあると聞いた事があるが、その一種だろうか? 


 驚くのはその色だ。道が白い。そして建物も白い。緑と白。都市の色としては異質だ。だからこそ、驚きが倍増する。


「これほど、明るい地下街が存在するのか。しかもここは地下では無かったのか?」


カンカンカンカン


 ……ん? なんだ? 


ガゴゴゴゴ!


 凄まじい音と共に、巨大な長い箱が、いやこれは馬車か! 馬のいない長い箱馬車部分が少し離れた所で停車した。人が降りて、乗っていく。


「車が……着いている。そして動いてここへ来た。こ……これは……乗り合い……馬車ですか?」


 そういう言っていると、小さな鐘の音が聞こえた。大きい音を立てて、箱が走り去っていく。


「列車は駅が決まっております。グルグル回ってます。それに乗るのです」


「それは……巡回する乗り合い馬車のような? あ。馬がいないので箱車……いや」


「列車です。利用法としては多分、そうです。乗り合い馬車と説明していた気がします。次が来ましたね」


 なんだ、と? こんなスゴイ乗り物なのにあまり人が乗っていないと思っていたら、次の車、列車が来る数が多いから、客が集中しないっていうことなのか? なんだそれは? 


「こ、この列車? の、乗車賃は、幾らになるのですか?」


「領民カードを見せるだけです」


「え?」


「それを見せるだけ。というか、ソレがなかったら、さっきの階段を降りることもできなかったです」


 モリヤ様に渡されたこのカード。オベニスで行動するのなら常に首から掛けておいた方が良いとは言われたが。そんな仕組みになっていたのか。


「この居住区は領民カードを持っている、オベニスで働く、税金を納めている人しか暮らせないです」


 この証……一つで幾つの情報を管理しているのだろう。しかも、民の生活を圧迫する様な税の取り立てもやっていない。


 ああ、この列車に乗りたいし、もっと色々研究してみたい! が。今は後回しだ。この区域について、知る必要がある……。


「一般的な居住区を見れないでしょうか?」


「誰かが住んでる部屋でしょうか?」


「ええ。出来れば」


「判りました」


 魔道具の鍵自体は珍しいモノでは無い。魔道具による鍵の開け閉め。宝物殿や迷宮深層階の扉、宝箱に施されているのは見たことがある。


 が。


 この白い住宅の場合、領民カードで扉の開け閉めが出来るのだ。これはスゴイ。扉の横にある魔道具に首から提げている札をかざすだけでカチっと鍵が外れる。すると、扉が開けられるようになる。


 それが、レアアイテムとして存在しているのであれば、何も驚かない。稀少とはそういう事だ。だが、この居住区の建造物、ほぼ全ての扉が、この機能を持ち、個別に使用されている……となると驚愕としか言いようがない。


「貴族の方にしてみると狭いとは思いますが~私達にとっては非常に生活しやすい空間なのです」


 領役場の案内? 係だという役人の女性は、友と二人でこの部屋で暮らしている、という。近いからと、シエリエ殿が役場に頼んで連れてきてくれた。ジランさん……というらしい。彼女が自分の首から提げている領民カードで、扉を開けた。


 ちなみに、領民カードは登録した本人しか魔術的な鍵としては「使えない」。つまり、私でも、シエリエ殿でも、領民カードを借りてここでかざしただけでは、この鍵は開かないということになる。


 なんでも、領民カードは血を一滴垂らして契約するタイプのモノらしいので、そう簡単に破ることはできないだろう。その手の事が得意な細工師や、盗賊なら解除することも可能だろうが……そんな事が出来る者なら高名なのは間違いないし、迷宮などには他に開けるべき鍵が山ほどある。一般領民の財産を狙って……っていうのはあり得ないだろう。

 

 部屋の中は……これまた驚きの連続だった。コンパクトな生活に準じた魔道具が標準配備されており、入居時から使用可能になっている。各魔道具のシンプルで局所的な作りは無骨ながら美しい。


 何よりも驚かされたのは……値段だ。これだけの高級で便利な部屋にも関わらず、一月の賃料はその人の稼いだ金額の二割。しかも……その賃料も領民カードを持っていれば給料から天引きされる。ジランさんはさすがに覚えていたが、一般の住民は自分が幾ら払っているか知らない、判らない者も多いという。


 なんだそれは?


 だが。私もこの領の税金の仕組みが良く判らない。年に一度、農産物を収穫後に納められるのが税ではないのだろうか? 門などで通行する際に支払うのが税なのではないだろうか? 






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