0364:宇城さんデータ

「あの……同じ感じで……私もしてもらいたいです……」


「ん、いいよ?」


 見学というか、見届け人の八頭さんが、宇城さんがあまりに気持ちよさそうなのが気になったのか、そう言ってきた。


 この娘くらいの子は……セタシュアでもう慣れた。宇城さんと同じ様な反応であれば、個人的には正直、邪な気持ちが全く沸かない。


「ならば、ウシロ……ちょっとこっちへくるのじゃ」


 宇城さんはちょっとホワホワしてたみたいだが、オーベさんに言われるまま、椅子に腰掛ける。オーベさんが呪い調べとか、その辺の影響が無いかとかを術的に調べる。


 ああ……そういえば。忘れるところだった。 


宇城美帆里 隷属(弱)

界渡り 女 力543 躯326 器589 敏548 知329 精246


言語理解

統率強化

疾風迅雷

魅力強化


武芸2

→槍術5


隷属の呪い


 これが直前に鑑定した宇城さんのパラメータだ。まあ、スゴイっちゃ凄いんだけど、一人でうちの嫁複数を倒せるほどでは無い。というか、多分、茂木先輩レベルではない。

 手紙などから想像するに……茂木先輩の完成形は……一人でうちの嫁全員と相対して傷一つ負わないと思う。パラメータ1000越えとかあったんじゃないかな……。


 これは俺の仮説だが……紅武の娘たちは召喚された人数が多かったため、この手の恩恵もある程度分散されたと考えるのが判りやすい。生け贄で起動する……魔力で起動する。リソースには制限がある。その範囲内で術が動いているのだとしたら。まあ、仮説でしかないか。


 宇城さんの代わりに横に、うつ伏せになった八頭さん。子供だ……ちびっこ。同じ様に脹ら脛を揉んでいく。あ。でも。ちゃんとアスリート……なのか。筋肉も無さそうだったのに、キチンと機能しそうな動線が伝わってくる。凄いな。さすがオリンピック候補。日本代表レベルなだけある。


 そのついででは無いが……マッサージ後の宇城さんを鑑定する。


宇城美帆里 隷属(弱)

界渡り 女 力545 躯331 器591 敏550 知330 精247


言語理解

統率強化

疾風迅雷

魅力強化


武芸2

→槍術5


隷属の呪い


 ん? あれ? 数値が……ちょびっと上がってる? え? やべぇ。上がってるのか? うちの妻たちに比べれば大したこと無いが……たったあれだけのマッサージで? 数十分……経ってないと思うんだけど。そんな時間で数値が上がった? 稽古では1上げるのも数十日かかるのに。


「オーベさん!」


「なんじゃ?」


 宇城さんに魔術をかけていたオーベさんがこっちも向く。尋常じゃ無い感じが伝わったのか、部屋の隅へ移動し、手招きされた。怪しい大人な感じで呟く。


「数値が……上がってます」


「宇城……のか?」


「はい」


「オーベさんの時とか、みんなに比べればかなり小規模の付与なんですが」


「それでもじゃ。あれは? 種族は?」


「当然、界渡り……のままですね。いや、種族がモリヤになるのは、アレなコトをしてからですよ?」


「ああ、そうか。しかし……ぬう……なんで数値が上がる?」


 うん。俺も意味が判らない。というか、マッサージも訓練と同じ効果で、数値が上がったという事なんだろうか? 考察しようにもデータが少なすぎる。界渡りがいなかったしね。自分しか。


「どうか……しましたか?」


 ああ、そうですよね。宇城さんも八頭さんも、こういうの見逃しませんよね。「戦乙女」の中でも鋭い二人でしょうし。

 

「ほんの少しだけ……数値が上がっているんだよね……」


「数値? そういう術とか魔道具? が?」


「……まあ、もう、アレか。八頭さん、何か信じているもの、ある? 自分でそれに誓ったら破れないもの」


「……お祖母ちゃん……でしょうか? 私、両親を早くに亡くしたので、ここまで育ててくれた人です」


 お、おう。なかなかディープだね。


「年齢は69歳、愛車はランボルギーニなんとか。今だにハードな筋トレを心がけてて、体型維持する美魔女です」


「す、スゴイね。お祖母ちゃん」


「私、数千人くらいなら余裕ぶっちぎりで育成する財力もあるそうです」


「ああ、有名ですよね。ちびちゃんのお祖母ちゃんは。学校へそのカッコイイ赤い車で来るし」


「アレ、座席が狭くて乗りにくいんですよ」


 まあ、そもそも、紅武女子が私立で資産家の娘が多い、御嬢様学校だしな。元々。由緒ある日本女性、大和撫子を育成する機関だったみたいだし。とはいえ、すげーな。


「では、そのお祖母ちゃんに誓って、誓約をお願いします」


「判ったのじゃ。では。そなたはそなたの信ずる処において誓約を行う。約はショウイチ・モリヤの能力に関する話を、それを知らぬ者の居る場所で語らぬ事。応じぬ事。信ずる処に誓え。己の心に誓え。それを見届けるは誓約の使徒なり」


 オーベさんからぽわっと魔力が発動し、八頭さんに舞いかかる。


「これで……この約を破ると、そなたの考える最悪の事態が引き起こされる。異界の者に届くかは判らないが、通常であれば拠り所にした相手にもなんらかの不幸が訪れる。拠り所が神の場合、間違いなく断罪され、神の怒りがその身を滅する」


 ちょっと怖くなったようだ。八頭さんの表情が硬くなっている。そりゃそうだよね。怖いよね……。そんなん聞いたら。






 

 

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