0362:不思議解消の為に
「あの、そして疑問点を潰すことから始めませんか? 杜谷さんはなぜ、界渡りに効果は無いと?」
「えーと。俺や貴方達が世界から世界を渡る……ことで何か力を得たのだとしたら。つまり、たったそれだけで能力が上がったり、何か「超能力」の様なスキルっていうのを手に入れたのだとしたら。まあ、何が得られるかは個人差はあるみたいですけどね。その肩書きは簡単に書き換わらないんじゃないかな……と。つまり、界渡りとして得られた能力を書き換えるには、世界を移動するレベルの何かが無いとダメなんじゃ無いかな……と。思ったので」
「予想、推論、推測……ですよね?」
「はい……」
「マッサージをすることで発生する、御自身のイメージの悪化がチラついている……ことは無いでしょうか?」
「無くは無いです……」
……宇城さんはなんとも言えない顔をしている。
「ならば、まず。私にその、マッサージをお願いします。杜谷さんは日本人ですから、セクハラやパワハラという言葉にもの凄く囚われていますが、この世界ではまず、触れないわけですから、倫理的にその手の概念を気にしても意味がありません。さらにいえば……自分は最近ブームになりつつあった武器格闘スポーツのステージで、薙刀でお金を稼ぐプロ第一号になる予定でした。自分の親の企業主催のお飾り、イメージキャラクターとして、ですけれど。なので、身体のケアは厳密にされています。以前よりプロのトレーナーさん、さらにスポーツマッサージャーの方にもマッサージされ、慣れています」
「え、ええ、でも、女性の方だったんじゃ?」
「いえ、スポーツマッサージ界、整体界いずれも、超一流と言われる方はほぼ男性しかいませんでしたので。そういう周期だったのかもしれませんが、元々男性が多い業界でもありますし」
「つまり、マッサージ慣れはしているし、自分のようなオジサンが身体を触って、揉んでも問題無い、と。実験しろ、と。してから言えと」
「はい」
そう。でしょうけどね……。
……スポーツ選手、アスリート、特に国体とかインハイ選手レベルになれば、専属でマッサージ師が付いている場合が多い。女子高で部活に帯同するレベルの専属だと、女性が選ばれるんだろうけど、もっと上を……というと男しかいないらしい。確かに、業界的に女性よりも男性が多いと聞いたこともある。
俺自体の勝手な危機感から、この世界に来てからも、もの凄く気をつけていたけれど、実際、俺がやっているのは全身とはいえ「普通」のマッサージだ。やましいところはこれっぽっちも無い。あ。いや。イリス様の時みたいなこともあるから、俺の心の中からやましさが消えることはないかもだけど、行動には移していない。少なくともこないだのセタシュアに施した時にそんな気持ちは沸いていない。
「判りました。正直、自分は……貴方たちに「これ以上イヤな思い」をして欲しくないだけなのです。自分の評判は……まあ、もう、気にしてません。妻多数ってだけでねぇ。多感な女学生さんにしてみたら、この世の終わり的な反応があっても仕方ありませんし。気にしてたら、自分の妻に失礼ですからね」
「はい。それは……私はこうして杜谷さんと何度も話をさせていただいてますから、判ります。なんていうか、イヤらしい目で見られたことは一度もありませんし。他の娘たちが……どう思うかは判りませんが。その辺、ちゃんと、私が自分から申し出たと伝えるようにします」
あーもう、交渉うめーなー。
「なら……まあ、安心の為に、こちらから見届け要員として一人。そちらからも一人お願い出来ますか」
「ああ、はい、多分、ちびちゃ……いえ、八頭未来さんがいいでしょう。彼女が……名前の通り、我々の中で一番
「ええ……。まあ、大人の話にも動じないというのであれば問題ありません。ありません……なのかな? あの……そういえば聞いていなかったのですが……召喚されたのは全員、高校生、国体参加メンバーなんですよね? 彼女は……なんの選手なんです?」
「ボルダリング……スポーツクライミングの特別枠です。彼女飛び級で年齢が足りなくて。ただ、全日本の強化選手として登録されるかどうかで色々と優遇されてたんですけど、一度お披露目しておかないとお金をかけられないらしくて」
「ああ……あ、ありがとうございます。お金の事まで。判りやすいです」
宇城さんがニコッと……笑った。おおースゴイ破壊力……さすがだ。俺の趣味が外人系じゃなければ、ポックリ逝っていたかもしれない。
周りを見渡せば。
「本人が良いというなら良いんじゃないか?」
「試行せずに、何か語るのもなんだしな」
「立ち会いたい、立ち会いたい!」
の、以上、三者三様でした。もう……。
と。いうことで、すぐに試してみるコトに。
多分、普通で終わる……とは思ったが、万が一ということもある。ので、特訓部屋へ。
ここ……なんていうか、いつの間にかこの手の事専用部屋に使われてるな……便利なんだけどね。掃除しやすいし。
向こうは宇城さんと八頭さん。こちらは、俺とオーベさん。ファランさんも見たがっていたが狭いと押し切られていた。まあ、この二人はどちらでも魔術関係の話なら歩く辞書だしな。
「未来ちゃんは、見学で。何か変わったところがあったら後で教えてね」
「はい。会長」
「では……そのまま、うつ伏せに寝てもらえますか?」
いつもの診察台にタオルを置いてある。うつ伏せになっても苦しくない仕様はセタシュアの時と一緒だ。あ。穴空きの診察台……頼むの忘れてた。
「このままで大丈夫ですか? 短パンも履いてきましたけど」
ああ、そうか。国体帰りの荷物、自分の荷物はある程度持って戦場を移動してたんだよね。彼女達。その辺はちゃんと、モリヤ隊の面々が回収済みだ。ビジュリアのヤツラは、彼女たちの荷物も「呪われる」として触らず、隔離してあったそうだ。
「大丈夫だと思う。妻達へのマッサージも今の宇城さん達みたいな室内着で行ってたし」
「え? そうなんですか? それでちゃんとマッサージができる……ものなのですか?」
ですよねぇ。本格的なスポーツマッサージなんて、ある程度筋肉の動きとか外見を見てないと厳しいもんね。でも良いのです。なるべく前例と同じ環境にしないとだから。
「まあ、多分、驚くと思うよ。あまりに大したことなくて」
「はあ」
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