0359:相手の反応
「……わか……りました。では……あの、私たちが元の世界に戻れるかどうかっていうのは……」
「正直、そちらは手がかりすら見あたらん。そもそも界渡りの情報が非常に少ないのじゃ」
「ああ、オーベ師の言う通りだ。この世界に大きな影響を与えたと思われる「界渡り」だが……その能力などの研究資料、情報は本当に少ない。普通に探していたのではほとんど存在しない」
「逆に聞きたいくらいじゃな……ビジュリア潘国はどうやって、お主たち多くの「界渡り」を召喚したのか。少なくとも……最低ではあったが「界渡り」に関するなんらかの情報を持っていたハズじゃ。召喚と一体化された、強制的な隷属の呪いなんていうのも初めて聞いたしのう」
「……そうかも……しれませんね。なんていうか……私たちを異常に恐れていました。あ。反抗した際の事例を知っていたのかもしれません」
「それはなぜ?」
「反抗しないように……痛めつけるとか、弱らせるとか、常に戦場に投入するとか……そんな部分にだけには信念を感じました。あと我々に接触してくる者は専属で無く、交代制で行われていました。それこそ……そばにいるだけで呪われるとかいう恐怖があるのなら、奴隷階級とかそういった方に丸投げでも良いはずなのに」
オーベさんもファランさんも考えこんだ。確かに。その通りだ。戦争に関するビジュリアの無軌道っぷりは単に首脳陣の愚かさ故……で決着が着きそうだが、「戦乙女」の酷使と、運用の仕方には……彼女達と距離を置くという部分においては何か変な筋が通っている。そのおかげで彼女達をこうして救出出来たわけだが。
「「界渡り」はこういう扱いをしないと怖い存在だぞ? としつこく誰かに言われた。もしくはそういう伝承、記された本があった……とか?」
「ああ、それなら納得がいくな。モリヤの言う通り、そういう書物が存在したのかもしれぬな。それこそ、「界渡り」召喚のための巨大な魔術紋が存在したのだ。ビジュリアの潘都は多分、元々はなんらかの遺跡だったハズじゃ。魔術紋と同時に、それらの遺物が発見されていてもおかしく無い」
そうか。そういう資料の回収は……さすがにミスハルも考えて無かったろうし……。いま、遠征中のミアリアたちも……厳しいよな。何か手がかりがあったら入手してきて欲しいとは言ったけど……。
まさか、メールミアの領主や騎士団が、ビジュリアまで攻め込むとは思って無かったし。
「杜谷さん……元の世界に帰れるかどうかは判らない……難しい、無理に近いのは判りました。でも……隷属状態をどうにかするのも……本当に無理なんですか?」
「……なぜそんな質問を?」
「先ほどの会話中の杜谷さんの表情に若干違和感があった……のと。みなさんの雰囲気が……なんとなく」
なんだその超能力。勘だとしても鋭すぎないか? それ。あれか、ちょっとした動作を見逃さない臨床心理士的な技術を磨いているとかなのか? この年齢で。
「しかし……宇城さんは……それにしても今回の件をある程度、自分と切り離して物事を考えられて……ますよね?」
「ええ、いえ……私情が無いと言われれるとそうでもないのですが……。ただ、既に最も恨みをぶつけるべきだった、あの国の王族や貴族は既に存在しないのですよね……。さらに、個人的な気持ちを言えば、仇を取っていただいたことで、これ以上何も出来ることはない……かな……と」
「冷静だな」
「すごいなー冷静というか……まあ、だからこそこの場に来ていただいたわけですが……オーベさん……誓約って「界渡り」にも効くんですか?」
「効果は弱いかもしれんな。誓約は元々、誓約する者が信じている最大の存在に誓いを立てるというものじゃ。「界渡り」、特に我が主は信仰心が薄いような気がする。我が主と同じ様な者にはどうしても掛かりが悪くなる」
「そっか……宇城さん、何か……信じてるというか、約束している大きな物……あります? あ。そもそも、信仰とかどんな感じです?」
「信仰心は……普通の……日本人と同じ感じだと思います。ただ……信念はあります。それに誓えばよろしいのでしょうか?」
「ああ、そうだね。この娘は……多分、大丈夫じゃないかな」
まあ、確かに。さっきの言い方も説得力在りまくりだからな。この娘、アイドルとかじゃなくて、政治家だったんじゃないのかな? 将来は。無駄にカリスマ性ありすぎだ。
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