0353:術で。

 とりあえず。先に進めなければ。


 俺に出来る事……とセタシュアにお願いして実験を再開することにした。


 念のため……あまりイイ思い出は無いのだが、特訓部屋にやってきた。これまた念のため、ファランさんにも立ち会ってもらっている。いくら本人が良いと言ってもね。女の子と二人きりはね。うん。


 セタシュアが椅子に座っている。まずは普通に浄化……と俺が思っている術を掛けてみる。


 確認する。


「当然ですが、浄化では「隷属」は解消されませんでした」


「モリヤ……今の術の詳細を、今度詳しく」


「は、はい」


 こわっ。ああそうか。光属性の術ってファランさんの前で使ってなかったか。明確に報告も……してないや。ヤバっ。


 魔術に関しては厳しいからなぁ。単純に個人的な興味でもあるから逃れられない。


「次。祝福だっけかな? 確かそんな感じのヤツ」


 これも……効果は無かった。やはり、何か根本的に違う気がする。あの死霊術の黒い靄と白い靄。アレには効果てきめんだったんだけどなぁ。


「これもダメですね……何一つ変わっていません」


「あの。御主人様、もの凄く気持ちが晴れやかです……」

 

 ん? どういうこと?


「え? そんな効果があるの?」


「あるだろうな。今のはかなり高度な……高ランクの穢れを払う術だと思う。今のがあれば死霊術……はほとんど無効化できるのではないか? 元が強大な魔物……三つ首竜レベルの死霊であれば厳しいかもしれないが、それ以下の魔物の死霊化であれば問題無く除霊できるだろう」


「そうなんですか? 敵に使うと言うよりは、味方を支援するための術だと思ってました」


「そうか……いや、それが本来の使い方なのかもしれん」


 まあ、良いとして。これでは隷属状態は解除できない。というか、光の術の効果があるのは闇の術……ということでいいんじゃないだろうか? 


 闇の術の中にも一時的に隷属みたいな呪文があるみたいなので、召喚時の隷属も闇の術の属性だと思っていたのだが……。そう簡単にはいかないようだ。


「セタシュア、晴れやかっていうのは……」


「なんとなくスッとするといいますか……」


「ファランさん、ちょっといいでしょうか?」


 祝福をかける。


「晴れやかな気分になります?」


「……付与効果があるのは判るな。あ。いや、確かにスッとする。これは……なんとなく同じ様な感覚を味わったことが……ああ! そうか。モリヤのマッサージを受けた時の……断末の呪いが弱まった時の感覚か!」


「なんと。と、いうことは……今回の「戦乙女」への隷属の術は完全に呪いなんですか? 鑑定でそうでていましたが……なんていうか、オーベさんやファランさんから聞く内容と少々ズレている気がしていたんですが」


「そうやもしれん。本来の術の系統とは違う所で……ああ、そういうレベルの存在なのかもしれないな。確かに」


「つまり……隷属されている人、呪われている人に浄化や祝福なんていう光術をかけると、晴れやかでスッとする。そう仮定すると、少なくともこの術をかけるとその効果が薄まると思って良いんでしょうか?」


「セタシュアは隷属状態といっても自分からそれを選んでいたからな。それほど心に負担にはなっていないはずだ。それでも効いたということは、彼女達にはかなり効果が期待できるかもしれないな」


「でも……」


 あとひとつ。俺が使えるのは浄化と、祝福の二つだけだったのだが、オーベさんが言っていた解呪の術。呪いを解く……というイメージでセタシュアに術を掛けてみる。こんないい加減でいいのか? と思いながらも、浄化も祝福もなんとなくしか使って無いのでしょうがない。


 当然かもしれないが……そんな曖昧な感じで術を使っても隷属の解除は成功しなかった。まあ、多分、解呪はイメージが固まっていない。


 漠然と彼女達を助けたいと思っているだけでは、呪文として機能しないんじゃないだろうか? そもそも、隷属っていうのは「怪我をした」みたいに傷口を目で確認出来ない。見えないモノを直す、って、そもそも、隷属っていうのはどういうモノなのだろうか? 鍵の形すら想像ができない。


 ということで。


 とりあえず、俺の知っている、さらに使える様になった光の術では隷属、隷属の呪いは解除は出来ないようだ。残念な結果だが……まあ、俺の魔力を消費しただけだ。大した損失にはなっていない。





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