0351:追加情報
ノルド族の集落、一つ丸々。全員を従えた効果は予想以上に大きかった。更にイーズ森域のノルド女子十名も加わっている。言葉的にこれは、情報網と言って怒られないくらいにはなったんじゃないだろうか?
役割分担とか、仕事のレクチャーが完璧じゃない時期に、ビジュリア潘国の侵攻が判明したからね。馴れるまでいろいろと大変だったとは思う。思うけど。即実践になっちゃったもんね。
だからって途中で強制帰還させるのも良くないというか、まずいというか。侵入先からムチャな消失はね、さすがに気付かれるだろうし。追われるだろうし。
当然、基本強引な潜入任務、戦闘はさせない。モリヤ隊よりも念入りに。情報収集特化だ。ヤバくなったらとにかく逃げる。コレ大事。
全員、冒険者として適度に依頼を受けたりして行動してもらっている。余程で無い限り、砦や王城、屋敷等の敵対組織の施設には潜入しない。
定期的に周辺の領や王都、各国の情報が報告書となって提出される。正直、スゴイ有用で重要な、とんでもない情報は殆ど無い。が。噂話や麦の相場。店、特に鍛冶屋の盛況具合etc。
届いた情報の分析を手伝ってくれているファランさんに言わせると、よくそれだけの内容が頭に入るな? らしい。その情報量の多さに圧倒されている様だが……うーん。毎日とんでもない量の情報が消費されていったネット社会を経験している身としてはそれほどスゴイ量でもなかったりして。正直、これ位のデータは……うーん。中学生だって管理できるんじゃないだろうか? エクセル脳なら。
とりあえずドタバタ感が失せて、王都や他領でどれだけ企んでいても、メールミア王国内であれば大抵の動きは把握出来るようになってきていた。麦や塩等の生活必需物資の価格変動も記憶させている。さらに周辺諸外国の情報も……徐々に整理し始めている。
その結果、ではないが、情報を分析したら、まず国内、メールミア王国の王族、貴族には物理的に「うち」にチョッカイ出す余裕が無い事だけは判明した。
無論、即位した女王が目を光らせているのも大きい。
が、それ以上に騎士=戦闘要員の数が絶対的に不足しているのだ。まあねぇ。最初に対魔族(噂)戦で、第四騎士団全滅。その際に各騎士団の副長クラスも全滅。で、陰謀で、現女王が率いていた第三騎士団もボロボロ。その上、王国二強「聖騎士」と「できぬことなし」の両腕も王都を奇襲したビジュリア藩国の暗部(これも噂。後付けすぎる)に襲われて帰らぬ人となった。
残った者で名のある強者は、「砦返し」クリアーディ女王と、「多層」のバール騎士団総長。
前王も怪我を負っていたため、王位は王女に譲られることになった。
第一、第二、第三、第五、第六の生き残りはそこまで強い者もいない様だ。
残るは領の騎士団、そして所属の強者となるのだが、それも名のある者は殆ど、ビジュリア藩国との会戦で、「戦乙女」によって討ち取られている。
ああ、地方戦力の雄であった辺境伯が、対南西地域戦用に派遣しようとしていた虎の子の騎士団はオベニス手前で消失し、連絡が途絶えたそうだ。
なぜか辺境伯は、遊軍として使える第五辺境騎士団だけでなく、領都防衛の要である第一辺境騎士団も派遣していた。まるで、ちょっと行って、すぐに戻って来るかの様に強引に編成したらしい。笑。
コレによって辺境に於ける戦局が大いに変動している。国境付近では蛮族を抑えきれず、細かい範囲で領土(開拓村等)を奪われ、多くの人が流民化しているようだ。
そんな状況にも関わらず、オベニス騎士団(笑)によって「戦乙女」が尽く討ち取られたビジュリア潘国の弱体化に乗じて、その本隊を討つためにイガヌリオ連邦のかなり奥まで攻め込むという愚策を遂行中だ。バカ貴族がいるのは聞いていたけどさ。それも結構な数。
そこに、さらに追加情報。女王が止めたにも関わらず、勝手に侵攻したそいつらは、ドンと調子に乗る。ビジュリア潘国軍が思いのほか弱かったからだ。グズグズボロボロであっという間に瓦解した。
まあ、うん。一番の原因は指揮官クラスの将校や、それを率いていた王族たちを尽く……モリヤ隊、うちの妻たちが始末したからなんだけどね。本隊の指揮系統がボロボロ……というか、無い状態ではね。うん。そりゃ激しく負けるよね……。
で。
バカ共はそこで満足しなかった。幾らバカでも、イガヌリオ連邦を分断するような領地強奪は出来ないということに気付いた者がいたらしい。そりゃそうだ。イガヌリオだって被害者だからね。無様にヤラレまくったとはいえ、さすがに立て直しを図っているし……このままだとメールミア王国貴族軍とも戦うことになるだろう。
そうなると泥縄でメールミアvsイガヌリオで大規模戦争となるし、お互いにそこまでの余剰戦力がないのも判っている。メールミアはまあ、王立騎士団ボロボロだし、イガヌリオだって北方騎士団全滅したばかりだし。
このまま撤退すれば……多分、メールミア王国に隣接している一部地域の割譲……程度で、講和条約が結ばれる。そうなったらバカ貴族共が得られる利益はほとんど無い。
で。どうするか。イガヌリオから強奪れないなら、ビジュリアから奪えばいい。そう。ビジュリアの本気バカな遠征の逆を行き、ビジュリア領土へ攻め込もうとしているのだ。
女王はそれをなんとか抑えようと必死だそうだ。
……ここまでこんがらがってしまった一番の原因は。
影。王や「できぬことなし」の手足となって王国中で暗躍し、さらに他国への間者も兼ねた隠密組織を尽く潰滅状態に追い込んだ……のが原因だ。うん、まあ、モリヤ隊、うちのお嫁さんたちが。全ては俺の命令だったけどさ。
それにしたって、文字通り、一人も残さず消し去りきるとは思わないじゃない。当然向こうもプロで、さらに周辺諸国の中でもかなり優秀って聞いてたから。半分くらいは残るだろうなって思ってたのに。
うん、まあ、でも、邪魔だったからね。「全力で潰して」って言ったしね。正直、現陛下からぐちぐちと、未だに、ことあるごとに非難する御言葉を頂いている。
なので、王国がキチンとした情報を手に入れられず、混乱してしまうのは仕方無いというか。
ぶっちゃけ、めんどくさ。
正直……バカ貴族はみんな死んで良いと思う。いくら……ミスハルが王族を根切りしたからと言ってそれに成り代わるヤツがいないわけが無い。うちの妻達の様に高速速攻で勝負を決められるならともかく、通常の侵攻速度では準備万端で待ち構えられるだけだろ。
「我が主。さっさと退いたのも……策のうちか?」
オーベさんの深読みしすぎに首を横に振る。
そんなことないですよー戦功を独占し過ぎちゃうと困ったことになるから、さっさと目的だけ果たさせてもらっただけだよーその後の展開はビジュリアのバカさ加減しだいだったしー。全方向で疲弊してくれればいいかな? とは思ったけどー。
ビジュリア藩国による侵攻によって混乱していた社会が、安定し始めているのはいいんだけどね。如何せん治安が不安定すぎる。
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