0339:帰還報告

 オーベさんが帰還した。思っていたよりも時間は掛かったが、混乱している戦場での事だ。仕方ないのかもしれない。


「征服国は……多分ダメじゃな。ミルベニと……ゴバンだったか。将軍は。あやつでは王として地方の豪族共を束ねるだけの力をもたん。将軍としては能力は高いのだろうがな」


「そうですか」


「不肖の弟子の手伝いはここまでじゃな。ヤツはもう子供では無い。どうにでもするじゃろ。それよりも、こっちの子供、娘たちの世話をしなければな。亡くなった「戦乙女」の事は調べられるだけ調べてきたが……大した収穫は無かったのう」


「はい。よろしくお願いします」


「我が主。彼女たちのコトになると少々怖いぞ? お主。もう少し余裕を持たねば……死ぬぞ?」


 あ。また、ちょっと「威圧」のスイッチが……。


「死にますか……」


「ああ。私が殺させんがな」


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


「うむ。まあ、今日は風呂に入って寝る。さすがに疲れた」


「はい。お休みください」


 征服国は……まあ、ちょっと責任を感じている。俺らのちょっかいが無ければ、確実にセズヤを併呑しそこそこ巨大な国になっていただろうし。


 反省はしてない。


 さらに五日後。ミスハルが帰還した。


 帰り道で潘国軍の敗残兵や逃亡兵が、盗賊化していて、ウンザリするほど戦わざるを得なかったため、若干時間がかかった……とのこと。が。約十五日間で行って帰ってきている。おかしい移動能力だと思う。


 与えられた任務、仕事は問題無く完遂したらしい。さすが。まあ、今回も戦場での派手な活躍……という誉れな役割が与えられなかったので不機嫌ではあるが「ミスハル」にしか出来ない任務……とイリス様にアレだけ言われれば、納得せざるを得まい。


 俺もお願いしたしね(どこまで効果があったかは判らないけど)。


「最速で命令を下せると判断した者は消したけど……アレで全員かどうかの細かい確認はできませんでした」


 うん、それでいい。こちらのオーダー通りだ。ミスハルは時間を優先してもらった。必要最低限で構わないのだ。


 実際ミスハルの能力は……表向き情報収集特化と言っているのだが、それはモリヤ隊の基礎方針が「生還、不殺」だからだ。容赦なくやるのなら……隠密暗殺&大量破壊、ゲリラ、テロリストとして無双できるハズだ。本人は正統派の騎士になりたいと思っているみたいだから気付かないし、こっちもそんな命令もしないだけで。


 まあ今回の様に、目的達成の障害となる場合、周辺一帯の敵を寝かせられるのは大きい。超広範囲を指定して行う誘眠の術、アレはオーベさんにも不可能らしい。

 既に彼女のオリジナル術となりつつある。今では騎士団を眠らせた時よりも、遙かに高次元でコントロール出来てるらしいし。


 ビジュリア潘国、モボロア信教の神殿。そこにあった召喚に使用された魔術紋、魔法陣とか魔法円とかまあ、そんな感じの儀式紋様はこれ以上無いくらいに破壊したらしい。というか、廃墟となっていたため、人もおらず、神殿自体をほぼ粉々レベルで崩壊させたそうだ。


 風の術の上位魔術である「暴風」は地下や迷宮などの狭い空間で使うと、凄まじい爆発を巻き起こすという。どういう原理だろう? ……凄い風で埃や粉や舞い上がって、そこに摩擦などで発生した火花が~って感じの粉塵爆発だろうか? 良く判らないな……。


 当然、ミスハルは、そこに描かれていた紋様を緻密に写し取って持ち帰っている。まあ、これも彼女の特技だ。今回の任務が彼女で無ければ難しかった……の大きな理由のひとつだ。写経というか、写紋。子供の頃から父親の蔵書の魔術紋を書き写して、自分の蔵書を作っていたという。


 純粋に趣味だったらしい。それがオーベさんに知られて以来、オベニスでもかなり便利に使われてたのだが、実際お見事、というくらいかなり正確に写すことが出来る。もしかしたら、本当にスキルの様なものかもしれない。瞬間記憶とか、その手のヤツ。






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