0337:「召喚妃」の帰還

(これは……ダメじゃな)


 アルメニア征服国は窮地を脱した。ビジュリア潘国の遠征軍を退けた後、狙ったかのように攻め込んできたモールマリア王国。そのモールマリア王国東方騎士団を追い返したまでは良かった。


 軍師の師として参戦したオーベも「召喚妃」の名に恥じぬ、圧倒的な火力で敵を退けた。


(国を維持するだけの人材がおらん……国王不在というのはどうにも……ならんな。ミルベニでは治まらんな)


「背教者」アーガッド王が死んだのはこの国にとって最悪の一手だったようだ。豪族と呼ばれた貴族階級の者たちは、モールマリア王国を追い返したばかり、それをお構いなしで「次の王」を狙って動き始めている。


 今はそんなことをしている場合ではない、と理解しているのは軍師であるミルベニと、「奴隷将軍」ゴバンの二人のみ。


「そもそもな。お前、この国に未練はあるまい? 恩があったのは王にじゃろう?」


「ええ。ですが、この国の者は全員が王に救われた者ばかりなのですよ」


(それを見捨てるのは己の矜持が許さんか。このバカ弟子は、そういう人としての最後の一線を己で決めることの出来る珍しいタイプなのは分かっていたが)


 ミルベニは自分以外で生き残っている、この国唯一の強者「奴隷将軍」ゴバンに王権を譲り渡そうとしていた。


 前王がその任命の誓約をミルベニに課したのだ。


「己が王にならず、託す者を見極めよ。その選考をお前に委ねる」


 コレによって、ミルベニは王の選考候となった。


(ここに至っては退き際を見誤っている様にしか見えん。お前が捨てられぬと言った者たちは、自分が次の王に成らんとして、お前の恩人の作った我が家くにを、壊れる事に構わず、奪い合おうとしておるぞ?)


 だが、ここで説得しても聞く耳は持たないと判断したオーベは、これ以上内紛に巻き込まれるのは得策ではないと早々に引き上げる事にした。


 短距離とはいえ瞬間移動で消えてしまってから退散すれば、即跡形もなく撤退出来るが、こんな所で手の内を晒す必要も無い。

 

 首都であるアルメリリアの正門から、堂々と外に出た。


 戦後の後始末でミルベニは忙しく、自分を見送る余裕は無い。


 が。


(ミルベニよ。やはりこの国は無理じゃと思うぞ? ワシと戦場を共にしなかった者たちか。脅威にだけは感じるのじゃな)


 立ち塞がるは数名の影。


「ほうほう、強者擬きか。何用かな?」


「「召喚妃」殿とお見受けする。我が名は「深謀の」モールバン。貴殿に「遠き腕」カラナ様の元でその力を振るえる栄誉を与えよう。如何かな?」


 強者として大陸中に知れ渡っており、子供ですら知っている「召喚妃」に上からの言動。これはもう、偏にオーベが女性だからとなる。


 こうして、戦場で力を誇示しても、そしてその直後ですら、女如きと侮られるのだ。「召喚妃」と呼ばれるからには……己との力量を測れぬ、愚かさに容赦するような慈悲の心は持ち合わせていない。


「余計な力は障害になるとでも思ったか。小賢しい浅知恵くらいはあるということか。愚かな。本当に愚かな」


「ちっ。だから女など、戦の役には立たんと言ったのだ。くくくく。お前のような者が「召喚妃」などと強者扱いされているのは運が良かったからにすぎん! これまでの戦の功績も、誰がしかの横取りであろう。小賢しい知恵は回るな! 女風情が! 戦場に出てくる恥知らずが」


「んー良かったな……ここにいたのがワシだけで。もしも我が主がここにいたら……キサマ死ねなかったぞ? 我が主は女というだけでクソ下らない口上を垂れる様な輩が大嫌いだからな」


「主? つべこべ抜かすな! やれ!」


「はははは! 偉そうなコトを言っておきながら! 女相手に35人で囲むか! 笑止! 笑止! 笑止千万!」


「なにを!」


ズガガガガガガガガガガッガア!


 一斉に行われた剣と槍、弓の集中攻撃。当然、剣と槍で攻撃した者に矢が突き刺さっている。


 強者を囲むのだ。当然、ここに居る者は、ほとんどが準強者とでもいっていい強さを持っている。弓の一撃は二頭を貫くくらいは当たり前にできる。


「全方位からの攻撃とはなかなか考えたな」


 剣が、槍が、矢が。尽く中空で動きを止めていた。


「当たり前じゃが……魔術士が一人で名を馳せるということの意味を理解しておらぬようだ」


 当然の様に。魔術士は近接戦闘は苦手である。特に今の様な急激な接近から素早さを生かしての攻撃は特に苦手である。だからこそ、魔術騎士団は通常の騎士団に身を守らせるし、冒険者ならパーティを組み、盾役がいて、必ず魔術士を守る。


 しかし彼女は過去、尽くパーティを組まずに戦ってきた。その中には当然、この手の多対一、そして近接戦闘者との近接戦を幾度となく経験している。


「魔術士もな。歳を重ねるとこうして、普通の剣如きでは傷付けられなくなる。覚えておくがいい。ほんの少しの時間だがな!」


ドサッ! ドサッ! ドサッ!


 不意に。周囲の木の上から……何かが落ちる音が連続で続いた。


「な! じゅ、十二名の狩人が……全滅?」


「はははは、はははははははは! それで隠れているつもりか? どうした? 我が魔術はほとんど見せていないぞ? ではでは。「召喚妃」の名に恥じぬ呪文を使ってやろう」


 既に尻込み始めて、逃げ腰になっている者も多かった。だが、逃げられない。背を見せた瞬間に何が来るか予想が付かなかったからだ。


「闇よりも深い漆黒の隙間より這い出でて喰らえ、深淵の者よ。そは喰らう者なり。そして、我は喰らう者を示す者なり。既に契約は為されている。我が意を汲みその契約を果たせ。利は我にあり。理は我にあり。這い寄り喰らう者ガランドラガン!」


 吹き上がる漆黒の槍。……状の闇。戦士たちの足元から突き出たその槍は阿鼻叫喚の地獄絵図を生み出した。さらに。

 その漆黒の槍が太くなり……ゲル状になって頭から覆い被さる。地に落ちた狩人もあっさり捕まってしまう。


 そのまま……跡形もなく……漆黒の闇と共に全てが消えた。


「キサマを生かしておいたのは……その「遠き腕」カラナとやらに伝言を頼むためじゃ。そやつに伝えよ。「ミルベニに素直に下らなければ、お前の明日は無い」とな。ちなみに「軍師」ミルベニの、その前の通り名を知っておるか?」


「深謀の」モールバンは既に……腰が抜けたのか、身動きも出来ずに首を横に振った。


「ヤツの真の通り名は「闇術士」じゃ。これを聞いても何とも思わぬようなら……お前もその「遠き腕」も簡単に討伐されるであろうからどうでも良い。行け」


 よろよろと。先ほどのまでの威勢の欠片もなく、モールバンは逃げ去った。


「ふう。下らぬな。出てこねば良いのに。こういう虚しいのは、早く我が主に払ってもらわねば。なでて可愛がってもらわねば」


 瞬間移動を何度も繰り返せば……オベニスまでそれほど時間は掛からないハズだ。オーベは笑顔で移動用の術を唱え始めた。


 


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