0336:陸上部クラスタ
「はーたべたー!」
「アレは~やばかったねぇ~」
「そうだね……。生姜焼きでも泣いたのに……カレーは……」
「お母さんの味だったし……何よりも学食の味だった……」
「蓼科先輩、おかわりしすぎですよー」
「だって美味しかったし……」
「私が泣いてる間に二杯目いってましたよね」
「カレーは飲物っていうじゃない?」
「それにしたって~」
「あの食べっぷりは凄かったな、確かに」
九重那奈と草野秋の部屋に、陸上部の砂白靖恵、蓼科唯、帯刀晶が集まっていた。九重と草野、蓼科が3年。砂白と帯刀が2年生になる。このインターハイで3年生が引退が決まっており、三人にとっては文字通り、最後の青春をかけて戦った大会帰りのバスでの出来事だった。
現状、未だ体調が悪い者も多いので、二人部屋を個室として使用して半療養な生活をしている仲間も多い。一同に集ってイロイロと話をする……なんて機会はそうそう無かった。
まあ、ここに着いてまだ時間がそこまで経過しているわけではない。今後、そういう機会もあるだろうと思ってはいるものの。全員の調子が把握出来ている「部活単位」での行動も多くなってきていた。今回もなんとなく……カレーの感想を言い合うために、部長、副部長の部屋へ三人が押し掛けてきたのだ。
「それにしても~酷い目に合った、ね」
草野秋が宝塚男役にしか見えない色男っぷりで首をかしげる。草野は尽く、ポーズが決まるのだ。ウインクしかり、ピースしかり。後輩からは一緒に写真を撮るだけで派手に盛れているので、歩くイン●タ映えとまで言われている。
「やっと……振り返れる……わね。というか、そういう余裕が出来てきたってこと。か」
陸上部部長が九重。そして、のんきな草野。浮世離れしている草野に比べて、九重は相手役の美少女系の外見にも関わらず、バリバリ庶民派な言動で人気があった。他人に対しても気を使えるお母さん系の性格で、部長としても信頼&人気が高かった。
「それに~しても~どう思う? 九重」
「どうっていうのは?」
「ここ、のことさ」
「そうね……」
「あの、杜谷っていう人……裏は無いって言ってましたけど……」
「うん、そうだねぇ~世界最高峰ホテルの設備に、異世界ではあり得ない我々の世界の料理の再現。さらに、面倒を見てくれるメイドさんの……いや、あれは看護師さんの役割も兼ねてるんじゃ無いかな~」
「そうだと思う。もしも私たちの体調が急変したら即対応出来るように」
「そんな超絶レベルのサービスを用意してくれたにも関わらず、裏は無いって……さ。それ、信じられると思う?」
静まりかえる一同。まあ、そうだ。それはそうだ。あまりにも受けている待遇が良すぎて、そうであってもおかしく無いと思ってしまう。
「……私たちに良い思いさせて何か得するとか? でしょうか?」
「私たちは「戦乙女」だよ? この世界では戦う事しか出来ない。普通に考えれば戦力として、だけど。でもその気配は一切無いよね」
「まあ~でも、どちらにしても、何にしても、今は逃げ出すことも出来ないし、不可能だ。何よりも私たちは戦場で意識を失わされ、拉致されたのだから。つまり、あの時、意識を失うように手加減した攻撃を仕掛けて来た戦士が逃げ出した先に配備されているだろうね」
「……軍師というか賢そうですもんね」
あ!
と、もの凄い右閃きと共に、2年生の砂白が手を上げた。
「どした? 砂白」
「あの……あの、杜谷って人。オジサンと言うにはちょっと若い感じの」
「ああ」
「あの人……元はうちの世界の人で、こっちに転移してきて、召喚されたわけじゃ無いから……あの……その……」
「ん? 貴方らしくないね。いつも通り、ハッキリ言いなよ」
「あの、普通に性欲とかある……んじゃないでしょうか?」
!
全員が雷に打たれたかのように、反応した。
「そうだ……すっかり忘れていたけど……この世界、お触り禁止なのに、異世界人の場合、それは適用する……のかな?」
「あの、私たちにその、そういうエロいこと目的で、助けた……ってことは」
「……無くは無いね。そうか……信用しちゃいけないヤツなのか。あいつ」
そう言われてみれば結構……思い当たる所がある。
「美少女度で言えば、会長を筆頭にかなり……レベル高いからさ……今回のメンバー」
「確かに。たてしー先輩の言う通り。美人に可愛いに……あ。ちびちゃんもいるからロリもありか。で、さらに、男装系なら秋先輩は宝塚トップレベルだし」
「なな先輩だってその秋先輩に負けてないんだからスゴイよ」
「そんなこと言い始めたら、彼は筋肉フェチかもしれないじゃない。たてしーの筋肉は女性とは思えないって良く言われてたわよ?」
蓼科が腕を曲げる。筋肉が盛り上がる。確かに、女性離れはしている。
「オールマイティじゃないですか! 狙われてる?」
「まあとはいえ~これだけ身内っていうか、メイドさんがいる所で~いきなり襲ったりはしないでしょ~」
「そ、そうですよね」
「というか、そういう目的であれば……もう少し表情に出ると思う」
「あーあの王みたいに」
「あいつは酷かったっすね」
「エロいこと無しの世界で、あんなに性的に歪んだ顔ができるものなのね……」
「だよね~ひどかったね~」
「でも。ここ、全部女の人だから……よかったです」
砂白は元々、男性恐怖症の傾向があった。女子校を選んだのもそれがメインの理由だったはずだ。
「そう言われてみれば……あの杜谷って人以外、男……見てなくない?」
「そういえば~見てないねぇ~」
「どういうこと?」
「あのあの、ノルドの女性いるじゃないですか」
「うん、最初のうち面倒を見てくれてたのもノルドの人たちよね」
「綺麗ですよねぇ……」
「そうだねぇ~アレがこの世界のエルフ的な存在だとしたら。もう、芸術品なんじゃないの? 種族として」
「ってことは……男性も……綺麗って……ことですかね?」
!
全員が目を合わせた。
「ちょっとそれ凄くない?」
「目の保養としてはスゴスギかも」
「そのうち、あ、会えるんでしょうかね?」
「チャンスはあるんじゃない?」
「えーこまるー」
何が困るのかは良く判らない。
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