0331:カレーの香りを
紅武女子の面々は……相変わらずだった。まあ、そりゃそうだ。昨日の今日で回復するような精神的ダメージのハズが無い。やっぱ普通のトラウマとかもう、そういうレベルじゃ……ないよな。
俺、こっちの世界で、結構やらかしてる気がするけど、無抵抗の一般市民とか殺したことないし。子供を庇う母親とか、老人とか……兵士以外は殺したことが無いわけで。
それでも、最初に傭兵達を大量に殺った後は、ミアリアに甘えてしまった。
とりあえず、俺に出来ることは……と考えたとき、生活の中で、ご飯、食事がもの凄く大きいこと位しか思い出せなかった。とりあえず、しばらくは美味しいモノを食べて、お風呂入って寝るの繰り返しで良いと思う。
別に……数カ月それでいい。
何もしないでいると自傷の方向に走る娘もいるかもしれないから、その辺のケアは気をつけるとして。モリヤ隊だけじゃなくて、イリス様の館で働いていた小間使い達も投入した。その体制で細かく見てもらっている。当然、刃物などの危ないモノは生活空間から排除した。
基本、彼女達が二人部屋になっているのはお互いを気にしてもらうためだ。ふっと力が抜けた瞬間、その瞬間で死を選ぶ人は多いのだ。前日笑って将来の話をしていた知り合いが、次の日、自死を選んだのは、未だに忘れられない。あの、アッサリとした感触。感覚。結局、自死を選ぶ理由など、その当人にしか判らない。相談に乗り、良い答えが出来たと思っていた俺は呆然としたのを覚えている。
で。
俺の目の前の目標はカレー……だ。
実は献立を生姜焼きにする前に、当然カレーが出来ないか調べてみた。が。さすがの茂木先輩も無理だったようで、どう調べても、リストに無かったのだ。でも……おかしいんだよなぁ。日本人がこれだけ召喚されていて……カレーが伝わっていない、カレーを作っていないなんてありえるのだろうか? ちなみに、調べてもらった(笑)が、オベニス近郊、メールミア王国周辺国ではカレーという料理は存在しないらしい。
ちょっとスパイシーだけど、美味しい、肉野菜の煮込みスープ……っていうのは、塩味に唐辛子みたいなので味付けしたスープを出されてしまった。
それにしても……醤油や味噌を生み出す実力、やる気根気のある先輩が……カレーを作ろうとしないなんてことがありえるだろうか? うーん。
他の人はともかく、茂木先輩ならあり得ない。だって、自分が読みたいからって漫画が描けるようになってしまう人なのだから。
もしも俺が茂木先輩であったら。絶対にカレーを作る。迷宮編集のスキルはどうやるのかしらないけど、醤油や味噌なんていう、この世界には存在しないアイテムを作成することができる。
彼がカレーに必要な香辛料、及び一足飛びに、カレールーを生み出さないワケが無い。醸すのに時間がかかる発酵食品に比べれば……収穫して(脱穀して)乾燥させればいいだけ(まあ、それだけじゃないけど)の香辛料、カレー粉作りなんて大した手間じゃ無い。
迷宮編集のスキルさえあれば苦労するにしても、不可能じゃ無いジャンルのハズだ。
ということは……茂木先輩の時代にはカレーがあったんじゃないだろうか? 少なくともカレーの原材料は存在したと思う。カレーのようなモノが存在した。麦もあるわけだし、大豆、小豆……に近い豆も存在する。多分、稲もあるのだ。ここより東に(予想)。
なので、自分では作らなかった。というか、ひょっとして香辛料を自分で混ぜてカレー粉にする……カレー上級者なやり方をしていた……とか? 茂木先輩はカレー職人系? と考えると。
カレーの香辛料はこの世界に存在する……。その場合、オベニス周辺に今、それが無いのは……単純に運ばれなくなった……可能性はあるな。
国が滅亡して……ああ、そうか、今はメールミア王国の東は蛮族群領域、デービア蛮族群領域だったかな? だが、そこには以前、滅亡した大国、グランバニア帝国の帝都もあったという。そこを経由していた物流は、帝国滅亡と共にストップしたまま……ありえるな。
うーん。モリヤ隊……とは言わないモノの、情報部の誰かに元帝国の土地の調査をお願いしてもいいんだけど……せめて何か手がかりがあれば……さらにいえば、そんな長い期間待たせたくない。というか、今日にでも、今すぐにでも食べさせてあげたい。
カレーを。
絶対に食べさせたい。
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