0330:紅武女子運動部バスごと異世界転移事件⑨

「食事……なんですよね?」


「ええ、基本は……朝昼晩、この大食堂で食事をすることにしたいということだったわ。そういう約束事でも決めておかないと、部屋から出てこない人が生まれてしまうのでは無いか? って。時間は大体しか決まっていなくて、緩いのだけど。全員揃ったら始めるらしいわ。寮よりもはるかにやさしいわよね。規則的に」


 目の前のテーブルにはテーブルクロスが掛かっていて。ああ、テーブルクロスだ。ナプキンも置いてある。変な形に畳んでは居ないが、これを胸や膝にかけるので間違いないだろう。


「うん? 全員揃ったかな?」


 既に人数を数えていた会長が少し周りを確認した。


 と。すぐに。メイドさんが給仕のワゴンを押して入ってきた。


!!! 


「こ。この匂いはっ!」


「あ……ああ……間違いない……ご飯……だな」


 目の前に……白い平皿に盛られたご飯……が置かれた。ホカホカだ。湯気が出ている。


「ご飯……」


 誰彼問わずに小さい声で……呟いている。そうだ。ご飯だ。重要なことをイチイチ口に出して……確認してしまうのだ。皆……脳がまだ、あまり動いていないのだろう。自分もそうだった。


 さらに……続いて出されたのは……生姜焼き……多分、生姜焼き。匂いがそうだ。そして味噌汁……だ。サラダも置いてある。


 立派な……生姜焼き定食……だ。


 出されたモノを凝視しているうちに、いつの間にか定食セットが完成していた。あっという間にテーブルが賑やかになった。水と箸も置かれている。


「はじめての人、モリヤです。ここにいる詳細は聞いていると思うので省略します。で。ごめんなさい、自分は日本に居た頃、料理をしない独身の中年オヤジ会社員でして、ちゃんとしたレシピなんてほぼ覚えていません。まあでも、簡単で作れそうだったのは生姜焼きかな……と。ご飯も完璧じゃ無いし、味噌汁も出汁の取り方自体からちょっと間違ってるかもしれません。ですが……この世界に来て初めて、ちゃんと料理をしました。大変な部分はうちの料理人のオーリスさんとクオリアさんにやってもらいましたが。偶然……少量ですが、醤油と味噌が手に入って良かったです。口に合わないようなら、パンとスープも用意してあります。では。いただきましょう」


 偉い人席に座っていたおじさんに一瞬目が向いたが……すぐに意識が定食に集中してしまう。


 何か言ってたけれど、何も頭に残らなかった。目の前から匂ってくる生姜の強烈な匂い、醤油の匂いに頭が痺れていて、何も入ってこなかった。そりゃそうだよね。挨拶とかするよね。何を言って……あれ? 杜谷って言ったかな? ……ああ、玉ねぎが入ってる……。生姜焼きの玉ねぎ大好き。

 

 お母さんがよく作ってくれて……学校の食堂でもAランチは大抵これだったし。匂いが。くらくらす……。


「いただきます!」


 会長が。大きな声で言った。いや……叫んだ。それで改めて、自分が今、どこにいるのか思い出した。


「いただきます!」


「いただ……きます……」


 箸を取り、お椀というか、丸目のカップ? に入った味噌汁に口を付ける。ああ、味噌汁だ。出汁も感じる。


 さらに、生姜焼きに箸を付ける。分厚い大きめのお肉のヤツじゃなくて、薄めで小さめに切られたタイプだ。玉ねぎも一緒に取って……口に運ぶ。お弁当によく入ってたヤツだ。


 お母さんはいつも、家で自分の食べる量の1.5~2倍の量のお弁当を作る。なんでいつも多いの? と聞いたら「もしも、何かあったときに、必要になるかもしれないでしょう?」と言っていた。残しちゃうよ……と言っても「いいのよ。残しても」と。


 もしも、何か……があったよ。インターハイ帰りでお弁当は持っていなかったから、必要も何も関係無かったけど。うん、そうなんだ。お母さんが心配していた通り。あったんだ。凄く色々なことがあったんだ。……あったんだよ……。おかあ、おかあ、さん。


 ご飯も……皿盛りなのはちょっと食べにくいが、箸で口に運ぶ……。


「おいしい……」


 いつかしら……美味しいという言葉と共に、誰かが泣き出していた。自分も……堪えきれず、涙が零れ、鼻水を垂らし……声が出てしまう。


「ああああああああああああああああああああああああ!」


 多分……私はこの日食べた生姜焼きを……一生忘れることは無いだろう。





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