0327:断言
イリス様とファランさん……がこちらを見ている。
「今……なんと言った? モリヤ」
「ファラン、モリヤは今、この世界を制すると言ったぞ?」
「……知っている。本気……か?」
ずっと……怒りが収まっていないのだ。
「彼女たち……か?」
「ええ」
なぜ、俺の知ってる限り、この世界に痕跡の残っている界渡りが日本人ばかりなのか、それはわからない。だが、茂木先輩。そして俺。さらに紅武女子……。偶然とは思えない。つまり、今後、再度召喚が行われれば、何も知らない日本人が攫われてくる可能性も高いのだ。
「自分がそんなに同胞、同族に思い入れがあるとは思っていなかったのですが。界渡りとしてこちらの世界を訪れるのが、自分と同じ世界の人間である可能性が高い以上、個人的な感情で何もしないワケにはいきません。特に今回の件の様なことが……これからも起こる可能性はゼロじゃない」
「ああ、そうだな……」
まあ、実際の所。別に……日本人だけじゃ無い。善良であれば……いや、属性的に自分の能力を使って傍若無人に振る舞うような性格で無ければ、異世界から召喚されたような者は丁寧に扱われるべきだ。
最初から隷属状態でそう言われても……なのかもしれないけど。
「判った。どこから攻める?」
「……攻めませんよ?」
「制するのではないのか?」
「いつの間にか身動きが取れないようにします。血の気の多いヤツがいれば……まあ、イリス様に排除して戴く可能性はありますが」
「ん?」
「どういうことだ?」
「この世界、人が少ないと思いませんか?」
「少ないか?」
「城砦都市の中に入れない者もいるぞ?」
「ええ。ですが、それもこれも、魔物がいるから。大氾濫があるから。人よりも強い敵がいるから、生活するスペース、城壁を拡張できない。拡張できないと麦の作付面積が増えない。食糧が無い以上、子供が多くなっても困る。人口は増えにくい」
「……まあ、その通りだな。キチンと食べ物を食べている者と食べていない者。圧倒的に食べていない者の方が多いだろう。食べられないのに、子供を増やそうとは思わないしな」
人が少ないから、基盤となる部分が小さいから、強者なんていう突出した力を持つ者が良いように社会を蹂躙する。ぱっと見が中世ヨーロッパ系だったので、勘違いしてしまったが……この世界はどちらかといえば、荒廃した未来世界、力が世界を支配する……の方が近いのだ。ルールがあるようで……実は無い。力を持つ者が勝ち、持たない者は負ける。モラルも、文化レベルも低い。
今回、界渡りであるが、年若い娘である紅武女子の学生たちが、肉壁の様に扱われていても、誰一人それに違和感を感じない。強い者が先頭に立つのは、当たり前なのだ。それが操られていようが、そうでなかろうが、関係ない。想像する余地が無い。
「つまり、世界全体に物資が足りていないのです。食糧が足りない、武器が足りない、人が足りない」
「ああ、そうかもしれないな」
「すなわちそれは余裕が無いということに繋がります。この世界には余裕が無い。なさ過ぎる」
余裕が無いから、例え王族でも分不相応な力を手に入れた途端に、目の色を変えて侵攻しはじめる。それまで欲しくても手が出なかった魅力的な憧れに、即手を出す。
「それをどうにかするには流通を制するしかありません。で、流通は全て国の管理に繋がります。なので国も制すると」
イリス様は殴ってボーンで終わらせたいみたいだけど。笑。
「まあ、その前に……彼女たちの隷属の術をどうにかしないとですね……」
「ミスハルやオーベ師はまだ戻らないか」
「いくらモリヤ隊最速であっても、さすがにもう少しかかると思いますよ……。だって……馬車だと数カ月かかるのでしょう? 行くだけで」
「ああ、野営で進んで……それくらいだろう。宿に泊まったりして進めば、もっとかかるな」
「ミスハルなら……十数日……といったところか」
まあ、もう当たり前になりつつあるけどさ。そのスピード、どんだけなんだ……。ちなみに、ミスハルは俺と致してから、凄まじく情報収集特化でステータスが上がった。笑。本人は戦う方向で強くなりたかったみたいだが……そう上手く行かないらしい。
と、いいつつも、さすが、元昏き森のエース。モリヤ隊ではミアリアの次に強くなってしまった。
ミアリアは……まあ、多分、暴食の王討伐の際にトンデモナイ経験値が入手できたんだろうね。きっと。未だに他の人にくらべて、パラメータがかなり高い。
「とはいえ、ミスハルの持ち帰る召喚紋のデータとか……オーベさんがいないとどうにもならないので、別にどうしょうもないんですけどね」
「オーベ師の方はどうなのだろうか?」
「……そういえば……イマイチ情報が入ってきていませんね。何か障害があるのかもしれません。モリヤ隊から誰かに行ってもらいますか……」
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