0319:モリヤ隊嫁会話③

 潜入……とも言えない調査、探索の旅は、非常に楽に進んでいた。


 当然、人里に降りれば誰何もあるだろうし、下手すれば問答無用で襲い掛かってくる者もいるハズだ。


(私の力が単独潜入向きなのは、自分でも判ってるけど。一人でも任せられるっていうのは、言われれば嬉しいけど)


 未だ混沌とした状態のイガヌリオ連邦の地はあっという間に横断できた。至る処で煙が燻り、腐乱した遺体が悪臭を放っている。

 

(ビジュリアは何をしたかったんだろうか?)


 移動中、戦によって荒れ果てた街道沿いの街や村。通常の戦争で在れば、戦場を嫌い、逃げ出した流民や棄民の姿がちらほら見えた。


 だが戦場跡にはソレも少ない。皆燃えて、皆殺されたからだ。ここが復興するにはどれだけの時間がかかるだろう?


 ノルドの十年、ヒームの一年とよく言われ、ノルドは時間の感じ方が長い、気長だと思われている。確かに、十年など一瞬だと考えがちだ。が、ソレでも、復興までかなりの時間が必要だろうと思うのだから、相当なモノだ。


 客観的に考えて……自分には残念ながら、都市を繁栄させるような力は無い。それは良く判っている。


 何故なら発展という言葉はこういう意味だったのだと、目の前で見せてくれるヤツがいるからだ。


 一生懸命造っていた、門の外の新市街は燃えてしまった。


 更に門の中も半分近く燃えてしまった。にも関わらず、ヤツは「守備隊に被害が出たのは残念だが、領民が死ななかったのは良かった」と、新しい街を作り始めていた。


 しかも……自分が外交官の任務を果たし帰還した時には、地下居住区は完成しており、地上の復興もかなり進んでいた。


 街が整い、寒さで死ぬ者が居なくなり、畑が広がり飢える者が居なくなる。発展繁栄とはコレだったのだ。そういう事だったのだ。


 なので。自分は違う部分で役に立とうと誓った。悔しいが、イリス様が求めているのは「そちら」だけではなかったのだから。


 意地を張るのはやめた。


 私たちはイリス様に恩返しがしたいのだから。同じなのだから。そして、あの時、ヤツではなく、あの人、お館様となった。

 

 今回の任務の直前。長期の潜入任務等の前はお館様との順番を優先してもらえる。その場であの人は泣いたのだ。


「君に今回の任務を頼むのは、俺では出来ないからだ。だからと言って本当は君に頼むのも間違っていると思う。何十、何百という命を奪えという命令だ。これは全くの私怨だ。本当は、俺が、召喚された子供達の為に、俺がやらなければいけないのに。ごめん」


 モリヤ隊の誰かが言っていたが、お館様は考えすぎだと思う。その通りだ。


 奴らは、お館様を怒らせたのだ。その報いを受けなければならない。


 お館様は出身国が一緒と言うだけで、隷属状態にある厄介な「戦乙女」を助けるという。


 つまりコレは、召喚された者が昏き森のノルドの民だった場合、私たちが助けるか? ということだ。


 多分助けない。血縁であればともかく、名も知らず、顔も見たことが無い遠い村出身の者を助ける事はないだろう。


 だが。お館様は違う。彼は。多分、私の為にも今のように怒ってくれる。シラビスが死んだとき。一晩近く一人で泣いていたらしい。


 もしも、自分が死んだら。きっと泣いてくれるだろう。


 それはとてもうれしい事だ。とても素敵な事だ。


 ああ、お館様、彼は。優しいのだ。だから、話をするのが苦手な私は、愛おしさにすぐ、彼を抱きしめてしまう。


 初対面の印象は最悪だった。初めて会ったとき、そしてその後も。イリス様を取られたようでキチンと話が出来なかった。そして、未だに。上手く想いを伝える事が出来ない。


 ただ。彼に身体を触られていると、抱きしめられていると、想いが直接伝わってくる。


 彼から伝わってくる、深い深い安心感の様なモノ。コレを本当の愛というようだ。愛。愛情。親が子を思う愛情。恋人の事を思う愛情。私には父も母もいる。だが。こんな気持ちになったことはない。


 逆にコレが真の愛だというのなら。私が今まで感じてきた愛は希薄過ぎる。比べるモノじゃないとお館様は言ったが、知ってしまった以上、忘れる事は出来ない。


 イリス様に救われたこの命は、彼女の命を果たし、彼女の大切な人のために使おう。


 それが自分の大切なモノの為になるのなら、これ以上の幸せはない。


 ビジュリア藩国の藩都は妙に人が少なかった。「戦乙女」の召喚に多くの人の命が失われたというのは本当の様だ。


 自分の存在を希薄にして、まずは巨大な召喚紋が有るという聖堂跡に向かう。


 廃墟となっている聖堂跡には確かに召喚紋が残っていた。そして……「戦乙女」達が乗ってきたという巨大馬車もその端に放置されている。中は誰かが持ち出したのかボロボロになっていた。


 とりあえず、紋を写す。呪いを解除するのに必要になると言ってた。間違えないように。


 そして。写し終わった紋は、強力な風で抉り取り、削りきってしまう。大量の埃が舞い上がり……それが消える頃には、召喚紋の儀式の間? は周囲の施設も崩壊し、完全な更地となっていた。


 ……この都市の価値はこれで無くなった。ここからは……正面に見える王城にいる一族の掃討に入る。


 この潘都の手前。馬車に乗っていた偉そうな貴族が声をかけてきた。ノルドは珍しい、話を聞きたい……と。急ぐので昼食だけならと応え、食事をしたのだが、案の定、最中に襲い掛かってきた。薬も盛られていた様だ。当然食べてない。


 なんでも……美しいノルドの剥製が欲しかったらしい。


 遠慮なく締め上げて、イロイロと情報を得た。


「「戦乙女」を従わせられるのは潘王家の男児のみ」


「潘王家の王子は十人居て、幼い者、病弱な者が今回の遠征からは外れた」


「王と、第一王太子、第三王子、第八王子は戦場に。つまり、あと七人の王子がこの地に居る」


「今回の天運は、虐げられたビジュリアの民に神が遣わした大いなる神槍。これで世界はビジュリアのモノとなるのだ」


 よし。完璧に。全ての王子を確実に仕留めよう。さらに王城に居る者は全て殺そう。


「我が愛すべき伴侶が泣いたのだ。頼むと泣いたのだ。私が「鬼」と化すのにそれ以上の理由は必要ない」


 呟きが……風の術が巻き起こす風に消える。


 さあ、完璧な仕事をしよう。




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