0315:自己紹介

 俺が情報を知る前に亡くなった五名はどうにもならない。それはまあ、話を聞いたのが既に亡くなってからなので……と言い訳するしかない。


 だが……戦場で入手した情報によれば。それ以降に死んだ五名は……もしかしたら急げば間に合ったかもしれなかったのだ。俺自身が最前線で動き、全てを投げ出してでも、情報収集するべきだった……とすら思ってしまう。


 命の危険を冒してでも……まあ、イリス様に殴ってでも止めると言われてしまったが。


 大きな傷を負った「戦乙女」……どう調べても尽く、後方の部隊からさらに後方へ送られ、密かに処分されていた。どの死体も死霊術などで復活できないように、その場で尽く燃やされ……灰塵にされ、少しずつ場所を替え、撒かれてしまったという。


 未処理だった、間に合った一体だけ……大きな袋に入れて俺の収納に入っている。彼女達の心がある程度大丈夫になった頃、本人かどうかだけ確認して、きちんとお墓を作ってあげたい。他の九人は灰も残されていなかったので、名前だけになってしまうが。


 オベニスに到着し、地下迷宮に入ると、彼女たちにイロイロと変化があったようだ。


 未だにまともに反応してくれそうなのが宇城さんだけだった(まあ、まだ手枷足枷付いてるしね……怪しんでるよね)ので、どうしても頼ってしまう。


 でも忘れちゃいけない……。彼女だって被害者なのだ……心に致命的なダメージを受けているハズだ。というか、彼女は有能なリーダーなわけで、多分……一番最初に、ヒドイ目にもあってきたんだと思う。


「どうですか? 落着きましたか?」


「はい……喋ることに抵抗が……無くなりました。心のざわつきが、かなり押さえられた気がします。命令されたことが消え去ったわけではないのですが……忘れられない……感じというか。でも、これなら、この程度なら、ここから逃げ出して帰還しよう……としないと思います。足枷は外していただいても平気かと」


 ああ、それは良かった。オーベさんの情報を疑っていたわけではないが、いきなり命がけのお試しテストなワケで。特に足枷は日常生活に負担がかかる。無くて大丈夫なら、無い方がいい。


 手錠も早急に外したい。が。しばらくは待ちだ。彼女たちをこれ以上……傷付けたくない。できる限り安定した結果が得られるように試さなければ。

 

「まずは……骨折や打撲打ち身、切り傷、刺突傷、まあ、その他何でも。外見的な傷を、躯を癒します」


 馬車の中でも緊急対処はしてあったが、ここでなら、落ち着いて状態を看れる。


 宇城さんに断ってから、癒しの術を使った。一人づつ。完全に治れと祈りながら。何度も何度も、治るまで癒し続ける。


「すごい……これが本当の魔術……」


 宇城さんが呟いた。


「癒しの術は素養が必要な上に、かなり勉強をして、実際に癒しの術を見て受けなければ使える様にはならないそうです。例え界渡りであっても、その辺は変わらないかと」


「そう……だったんですか……くっ……。その術があれば……我々の内、誰かが使えれば……」


 涙が零れる。悔しそうだ。まあ、うん、悔しいよね……。


 彼女たちはガギル族よりも厳重に……地下三階に特設フロアを用意して対応することにした。フロアの大きさは地下一階と同じくらい、最大サイズだが、壁を造り、壁の周囲に森、泉、川を配置して奥行きを出しながら、爽やかな草原を生み出した。


 その中央に洋館を建築する。大きめの広間を用意。全部絨毯曳きにして、大きめのローテーブルを置く。風呂も大浴場。温泉掛け流し。個室……希望があったので二人部屋なのだが、そこにも上質のベッド、風呂を設置。ダンジョンポイント大投入だ。大盤振る舞いだ。


 小間使いはここまで面倒を見てくれていたモリヤ隊、妻たちにそのまま任せることにした。


 元々腐ってしまうくらい家や村に引きこもらされていた彼女たちは家事は一通り出来るし、潜入任務のためにその辺の仕事は完璧にこなせるように訓練もしている。いちばん大きいのは……いざという時に力で押さえ込めるし、人質にもならない。

 

「えー改めましてモリヤ……です。貴方がたと同じ、日本人、です。私も、日本からこの地へ跳ばされて来ました。召喚されたのではなくて、いつの間にか迷い込んだ形ですが。運良く、ここオベニスで拾われて今に至ります。異世界的には先輩になるのかな」


 躯の傷が完全に癒え、足枷を外された彼女達をまずはマットレス、クッションを引き詰めた広間で座らせた。


 まず。何が起こったのか未だに把握出来ていない様な娘もいるのだ。だが、そんな状況だからこそ、説明は必要だった。


 未だに意識を失ったままの娘も数人いる。それはそのまま部屋でベッドに寝かしてある。


 部屋から出てこなくなりそうな娘も多い……と思う。部屋の鍵は、お世話するモリヤ隊が管理することになる。でないとご飯とか掃除とか出来ないしね。


「何を言えば……貴方たちの辛かった日々を癒やせるのか……よく判りませんが。とりあえず、ここは安全です。絶対とは言えませんが、多分大丈夫。念のために、様々な防犯装置も施されています。しばらくここで静養してください……」


 こちらの世界に召喚され、翻弄され続けて、強制的に「あり得ない体験」をさせられてきたのだから、しばらく時間をかけてゆっくりしてもらいたい。


 まだ、理解出来てないっぽい娘も多い。繰り返す。


「先ほども言いましたが、私の名前はモリヤと言います。杜谷昌一。貴方達と同じく日本から……こちらの世界に転移、界渡りしてきた者です。今回、同じ出身国の学生……子供たちが隷属状態で強制的に戦わされているという話を聞いて、この様な行動を取りました。その結果がこれです。自己満足ですから、見返りなどは気にしないでください。しばらく……何も気にせず休んでもらえればいいかな、と」


 何人かがハッと顔を上げて、こちらを見た。きょとんとしている。ああ、いい。イマイチハッキリと反応できなくてもいい。


 認識しているだけ、言葉を理解しようとしているだけで良いのだ。







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