0308:戦の理由

 シエリエは……両手剣を持った「戦乙女」と対峙していた。


 んー。見たところ、多分、剣道部。というか、刀術のスキル持ち……なんだけど、装備している獲物は両手剣。この世界は両手剣だけでなく、両手刀も存在する。日本刀もあるらしいけど、迷宮産が中心でレアなんですって。


 なので、一般に流通しているのはちょっと違う……大きなシミターみたいなヤツ。両手刀と言われて、これを出されたら、日本人なら「違う!」と絶対に言う感じの。


 まあ、潘国の彼女たちの扱いのずさんさ、酷さが良く判る。適当なんだろう。その辺にあるモノを渡したっていうのが丸わかりだ。


 特注というか、彼女たちのために用意したのは、あの白い鎧一式か。……まあ、アレも元は普通のスケイル・メイルであって、魔術の付与もされていないし、特殊な金属も使われていないようだ。接近しているモリヤ隊のみんなが何も感じてなかったからね。

 さらに、よく見ると、もの凄く普通の篭手を白く塗ってたり、鎧の一部が無くなっていたり。修復さえ行われていない。ボロボロだ。


 あ、いや、もしかしたら、一番最初はちゃんと用意したのかもしれない。が。連戦に次ぐ連戦で、武器を替え、破損した装備の代用品を用意し……としているうちに、あんな感じになっちゃったんだろうな。


 そもそも、既に一国をまたいで、補給線は伸びに延びきっている。実際、ビジュリア潘国の王がいる本隊? 王が居る場所は、ここからかなり西。イガヌリオ連邦の地方都市らしい。明らかに先鋒の行軍スピードが早すぎる。


 多分、ここにいる軍は……「戦乙女」の女子高生だけで無く、全員が捨て駒なのだ。ろくに食料も与えられていないのだろう。だって大した荷物を持っていないし……何よりも荷駄隊、補給を担当する部隊がもの凄く少ない。


 糧食兵站を焼き討ちしてやろうと思って探させたが、存在しないんだから。ビックリだ。


 水は水の術士がなんとかしたのかもしれないけどさ。略奪しないと自分たちも死ぬという諸刃の剣。そりゃ……ここまでの侵攻上に存在した数多の村や街は、尽く奪われているわな。惨殺されるわな……。

 例えそういう状況に追い込まれた罪も無い兵士だ……と言われても、彼女たち以外には同情するわけがないけど。隷属の術かけられてないしな。兵士は。

 

 王にとっては、この後。この捨て駒部隊がうちの王都へ侵攻した後で、全滅しても痛くも痒くもないのだろう。


 なんでも「戦乙女」によって弱体化した他国を蹂躙してゆくのが楽しい……らしい。バカか。


 そして。うちの情報部の調査によって、なぜ、うちの王国、しかもここ首都へ、この貧弱な軍が向かっているのか。突進しているのか? も判明した。


 実は、現ビジュリアの藩王の祖父? がうちの、メールミア王国の元騎士団長で、若い頃、黒ジジイ、白ジジイのタッグに追い落とされて、再入国禁止の罰を受け、国外へ追放されたヤツらしい。


 まあ、さすがというか、騎士団長だっただけあって、その能力はなかなか凄まじく、当時は辺境の地であったビジュリアのさらに西で旗揚げをし、勢いのまま、ビジュリア潘国を奪い取ったのだという。


 で。その祖父の口癖が「メールミアを消し去るのが我が宿命」だったんですって。なにそれ。さらに言えば、彼がメールミアについてもの凄く憧憬溢れた物語を語ったことで、その地は次第に目的、目標、憧れとなり、潘国の王族にとっては、いつか、手に入れる豊穣の黄金の国……とまで認識されていたらしい。バカか。


 なので、今回、豚に真珠過ぎる戦力を手に入れて即、目の上のたんこぶだったイガヌリオ連邦を軽く蹂躙し(上っ面ぶん殴っただけで、進路上でない都市などはほぼ、放置の様だ)、ここ、対メールミア王国との会戦を実現させた……ということの様だ。


 そもそも、ビジュリア潘国はイガヌリオ連邦にいつ潰されてもおかしく無い状態だったらしい。ただ、地理的にも大陸西の端に位置し、攻めにくかった。ただ、それだけで生き残っていたそうだ。


 そんな状況なのでビジュリアは異常に卑屈な態度を取らざるを得なかった。イガヌリオへ朝貢し、臣下の礼を取ることによって継続されてきた国。まあ、これはコンプレックスに思っても仕方ないかなと。


 だから、連勝に次ぐ連勝で、気持ちが大きくなって、もう、手が付けられないくらい浮かれたのは……同情なんかするか! バカ! それにしても彼女たちはとことん被害者……だよなぁ。ますます腹が立つ。


 虐げられて、それなりに勉強して来て、虎視眈々と狙っていた作戦を発動させた……とかなら、まだ、理解は出来る。が。


 五人が死んだ征服国との交戦。二十名の「戦乙女」を投入して電撃的にやり返したにも関わらず、あっさりと後退し、メールミア王国へ向かったのは。


「斥候部隊が勘違いし、道を間違えたから」だ!


 あり得ない。そんな国家として体を為していない、戦争という言葉すら認められない様な、そんな理由で……五人の同邦が命を落としたのだ。まあ、それに近い頭の悪い蛮族的な侵略行為で、十名が亡くなっている。


 いや、殺されたのだ。


 こんな無駄な戦争仕掛けやがって。しかも全部「戦乙女」任せじゃねーか。許さん。界渡りは、俺たちはお前達の道具じゃない。





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