0306:女子学生vs人妻エルフな開戦

 とりあえず、まずは。ここではこちらから反撃はしない。


 ぶっちゃけ、十名程度の弓兵の攻撃力など、恐れるようなものではない。例えそれが、こちらの通常射撃が届かない距離から指揮官を狙撃してきている感じ……でも。いや、まあ、それは、事前に言い含めてあるからだろう。騎士団にはその辺の情報はキチンと伝わっているハズだ。


 これが、何も知らない場合は……「うわ、こっちが届かないあんな距離から矢が! 指揮官が狙われてる! ヤバイ! どうしよう!」なんて感じで浮き足だってしまう可能性は高い。何て言っても、戦術……いや、作戦自体がほぼ無い世界なワケだからね。


 で。戦端が開いた直後の攻撃としては、そうやって、動揺を誘えれば大成功って感じなんだろう。射撃はちゃんと、山なりの曲射と、それに混ぜての狙撃。曲射は……多分、細い矢を複数、一度に放つっていう散弾銃的な矢を使用しているようだ。多分、毒が塗られているようなので、かすり傷でもダメージは大きい。この辺も報告を受けていたのでちゃんと前線まで伝わっている。


「戦乙女」の初撃に動揺している味方の指揮官、騎士はいないようだ。曲射で斜め上から射かけられている矢を盾を上に向けて防ぐ。さらに、指揮官が目立たない様に盾の奥に隠れる。これだけで、向こうは、何処を狙っていいか良く判らなくなるハズだ。


 開戦直前の最後の打ち合わせは、女王陛下を交えて行った。


「「戦乙女」……彼女たちの弱点は、大まかな命令を受けた後、個別に命令変更ができないところでしょう」


「?」


 イリス様が首をかしげる。


「はい。ファランさん、オーベさんが何度も説明してくれたのに……我が君が綺麗さっぱり覚えていないっぽいので、簡単に再説明します。指揮官が「敵を攻撃せよ」と命令します。そうすると、彼女たちは強制的に攻撃を仕掛けさせられます。で。弓兵だとしたら「お前は指揮官を狙え」「お前は曲射しろ」という個別命令を受けているハズです。まあ、曲射しろ……っていう命令はそれを続けるだけだと思いますけど~指揮官を狙え……という命令は、もしも指揮官がいなくなってしまったら、どうしましょうね。近距離戦闘であれば、探しに行って仕掛けるとかできますけど」


「そうなのか」


 女王はその辺の物わかりは良い。というか、多分にこの人、賢い。


「……この場合、現在ある装備で敵を攻撃し続けて、指揮官を見つけたら再度それを狙う……といった感じになるそうです。隷属の術の命令はどうにも融通が効きにくい場合が多いそうですから。特に、本人が自主的に協力しようとしていない場合は、難しい」


「本当なら命令する者を一人一人に付けたいくらいなのか」


「はい。オーベさんから術の特性を聞いて、俺もそう思いました。多分彼女達は戦闘時にとにかく融通が効きません。隷属の術で無理矢理戦わされている上に、キチンと作戦行動が取れない。戦場での一瞬の隙は……大きな隙に繋がります。どんなに個々の能力が高くても……押さえ込めるはずです。まあ、イリス様を筆頭に我々なら。陛下。すいません、面倒なお願いをしてしまって」


「いや、いい。今回の戦場、「戦乙女」に対する処方はオベニスの者に任せる」


「感謝します」


 イリス様が判った様な感じで頷く。


 自分の故郷の女たちが隷属の術を掛けられて戦場で使い捨てられている……許せる話ではない。だが。ここまでしない人も多い……のも確かだ。きっと……うん。でなければ俺は生きてここにいない。


 なので、俺の行動、というか、「戦乙女」に対するオベニス領の今回の行動は、そこまでおかしいとは見られていない様だ。


 あの賢い女王なら絶対に裏を探る。というか、俺だったら探る。何か理由がある。そこまでして最前線に出る理由。気付かれると厄介なので、どうにかして誤魔化さないと。というか、味方騎士の一千を上手いこと誤魔化さないと。


 矢による長距離攻撃に合わせて、当然、近接攻撃が得意な者たちが前線に突っ込んで来ている。


 ダラダラとしていた「戦乙女」の進軍、いつの間にかスピードが上がっている。メリハリありすぎ。トンデモナイ速さだ。アレで付与系の術によるサポートを受けていない(多分)のだから恐れ入る。


 数名ほど……突出して足の早い者がいる。スキル持ちか。「疾風迅雷」。行動速度を上げる常時発動系のスキルだ。「はやかけ」よりも効果は低い様だが、思ったままに能力を向上できるのは非常に大きい。ああ、強化系の術を自然に使いこなしているヤツもいるのか。




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