0301:王都へ
ということで、俺はイリス様、モリヤ隊(嫁。モリヤ隊ではなく、イリス様直属の近衛の嫁ミスハルは……実は別行動である。また、ちょっと可哀想な感じだが、能力的に彼女がどうしても最適だったので、イリス様にお願いしてもらった。俺もお願いした)、さらに情報収集課(北アビンの狩人、五名。他は各方面へ散っている)の面々とクリアーディ女王陛下の元へ急いだ。
当然だが、敵軍は内陸にある王都メールミアまでは進軍できていない。だが、ルート的に一直線で都を目指しているらしい。理由は良く判らないが。なんだろう? 本当に後先考えていない感じが……ちょっと怖い。何か……狂信的なモノを感じる。
オーベさんは今回は……ミルベニの要請に従って、征服国へ向かってもらった。あっちは、この機に便乗して攻めて来ている西方のモールマリア王国がやっかいらしい。クソ面倒くさい。ということで、コテンパンにやり込めてもらうことにした。俺のいないことを良いことに……多分、とんでもない実験を行ってくれることでしょう。
「状況をお教え下さい」
「おお、オベニス卿! なんと素早い」
イリス様が頭を下げる。後ろに続いていた我々も頭を下げた。膝を付いていないが、戦時下だ。こういう場合は簡易的なモノでいいらしい。
「ああ、頭を上げてくれ。それにしても……各領への伝令は昨日立ったばかりだと思ったのだが……」
「女王陛下、直言をお許しください」
頭を下げたままで言う。
「ああ、ああ、いい、いい、モリヤ……オベニスの……総務部長だったか。というか、いや、オベニス卿の夫ということは、お前もオベニス卿ということになるのだが……」
「判りにくいのでモリヤで結構です。女王陛下」
「判った。で、では私も女王はいらぬ」
「……畏まりました。陛下」
顔を上げる。なんかスゲー怯えられている……気がする。
「では。現状をどこまで把握しておいでですか?」
「いきなり……イガヌリオでなくビジュリア潘国が攻め込んできたと……それ以外は……まだ……」
ああ、やっぱり……黒ジジイが死んだことで、情報収集力ががた落ち……というか、オベニスを探る裏の者が極端に減ったと報告を受けていたが……上手く回っていないのだろう。
「ビジュリア潘国で勇者召喚が行われました。ご存じですか? 勇者召喚」
「あ、ああ……勇者のおとぎ話を聞いたことはある」
「ええ、その勇者召喚です。界渡りと呼ばれる者は凄まじい力を秘めており、勇者となるわけですが」
「その勇者が……「戦乙女」と呼ばれる?」
ああ、それくらいの情報は得ていたか。当然か。派手に……酷使してここまでやってきたみたいだからな……。
「はい。現在、ビジュリアの最前線に立たされている「戦乙女」は……その勇者、界渡りです。そして、隷属の術で強制的に戦闘を命令をされている状態でもあります。32名。大量です」
「そんな数の勇者? なんてことだ……。勇者召喚が本当に可能だったとは……」
「都の人口の三分の一、消えたらしいですけどね、生け贄で」
「……なん……」
まあ、強者だと思うよね。界渡りとか伝説であって最近聞いたことも無いって言ってたし。茂木先輩も界渡り云々は公開してなかったみたいだから、その頃よりもはるか昔なんだろうし。存在したのは。
「界渡り……勇者……強者とは違うのだろう?」
「格段に強いかと思います」
「そうだな……これまで、多くの兵と共に、かなりの強者が倒されている。そうか……界渡りか」
正体が判明してスッキリしたようだ。
「それで? 勝てるのか?」
「勝てなくても……どうにかなるんですが、まず、彼女たちを早急にどうにか(保護)したいですし……最初に攻めてくる部隊は全滅させようかと思います」
「全滅……?」
「ええ。全員殺すつもりです」
「え?」
「ああ、陛下。今回、モリヤはまたも本気で怒っているようだ……任せておいてくれれば良い。陛下は我々が蹂躙した後、ビジュリアまで攻め込もうなんていう貴族を抑えるのに尽力してくれればいい。難しいかもしれないが、お願いする」
へ? っていう唖然とした顔の陛下。うん。しょうがないよね。そうなるのも判るけど。
基本的に俺の元いた地球世界の戦場では「殲滅」「全滅」という概念はほぼ存在しない。大体、戦力の1~2割損耗したら撤退を考えるし、3割損耗(千人の部隊で三百人やられたら)したら、大敗北で負けた……ということになる。
この世界でもその辺は似たようなもので、騎士団が敗北……とは言っても大抵「全滅」ではない。負け戦の場合、戦場で失う兵が五十%。その後、撤退時に二十~三十失い、最終的に自国に戻れたのは二十%程度……というのが普通の様だ。
それなのに、いきなり全滅だの言われたところで、良く判らないというのが当たり前だ。
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