0300:情報

 まずは情報だな……ということで。仕込みは進めてある。


 北アビンのノルドたち。バガローンを長として、モダラーンが一番強いんだったかな? まあ、いいんだけど、移住してきた八十名のうち、元々狩人として村の生計を支えていたのは約三十名、さらに自分も働きたいと言い出したのが二十名。つまり、五十名に外での仕事をしてもらうことにした。


 とはいえ、世間知らずのノルドをそのまま送り出したらマジでヤバイってことで促成&猛特訓をモリヤ隊の方々(妻)にお願いした。


 俺はあくまで優しくねって言ったんだけどさ。頑張ってくれちゃったらしい。なんか、彼らの態度が前よりも固い。とんでもなく怖がられてる? でもな~ぶっちゃけ、冒険者にでもなれ~で放置するのは無理だったんだよねぇ。潜入先で正体を明かしちゃったりしたら、即殺されてもおかしく無いからね。


 本当は彼らは生産系の仕事をしてもらうつもりだったんだけどね……緊急自体で即戦力となるとガギルよりもこちらってことになった。


 現在は彼らをばらばらと冒険者としてオベニス周辺の領、さらに王国周辺にも派遣し、情報収集をお願いしていた。今回の情報もちらほら入ってきていた所で、ミルベニさんが来たということになる。


 で。そんなバガローン達は、元々モリヤ隊の下部組織……総務部情報収集課の役人として領で雇うことにした。バカローンは情報分析課課長ということで、収集課が集めてきた情報を分析する方法を勉強している。


 というか、まあ、まだ全員が交代交代で研修中だったので移行しやすかったんだよね。


「情報収集のみということで協力してもらっていましたが。急遽、界渡り達との戦ということになったので、最悪死んでしまうかもしれません。ですが、力を貸して下さい」


 オベニス滞在、または近辺にいて戻って来れた者とバガローンが神妙に整列している。


「我らはお館様に従うのみです。どのようなご命令にも従いましょう」


 いやいや……バガローンさん……そうでないと何度も。


「何度も言ってますが、さすがに怒りますよ? 自らの命を捨ててまで任務を優先しないように。貴方たちは情報収集が主な担当です。情報を持ち帰らなければ、何も意味がありません。良いですか? 敵の界渡り、「戦乙女」の戦闘能力は脅威です。なので、死んでしまうかもしれない危険な任務に赴かせて申し訳ないと言っているのです。自ら、危険に飛び込むような真似は絶対にしないこと」


「はっ!」


 ぜってー判ってないな……こいつら。まあなぁ……オーベさんに脅されちゃってるからなぁ……。後が無いって思ってるのかもしれないし。俺が思っているよりも、ノルドのハイノルドによる被支配感覚っていうのは、凄かったみたいだからなぁ。高位種族っていうのの感触が良く判らない。まあ、歴史もあることだし仕方ないのかな?


「はぁ……まあ、良いです。情報収集は常に二人一組で。今回は特に、情報が命です。本当なら、隠密行動の訓練をもう少し行ってから実務に就いて欲しかったんですけどね。これまで狩人として活躍してきたその力を信じて、お任せします。くれぐれも……狩ろう=攻撃しよう、と思わないこと。迂闊に手を出すと……敵の主戦力である「戦乙女」。多分、モリヤ隊のメンバーですら死ぬような相手です」


 空気がザワつく。誰も声は出していないのに、溜息というか、驚愕の呟き、が重なったのだ。ちなみにでは無いが、顔合わせ初日に、モリヤ隊全員に狩人全員がコテンパンに叩きのめされている。さらに……モダラーンとあとなんだっけかな、二番手のゲイローンかな? が二人がかりで、ミアリアに徹底的に正面から潰されている。


 どうしょうもないのだ。既に……モリヤ隊の九人は全員……嫁に……あ、いや……強化済みなのだから。


 ちなみに、今回は人手が欲しいので、モリヤ隊は純粋に「戦乙女」用の戦力として使用する。なので、これまで彼女たちにお願いしていた情報収集部分を彼らで埋めないといけないのだ。実力のある者から、戦線とは関係ない方面へ担当を振っていく。


「えー。不満はあると思います。ですが。貴方たちは領に雇用された……所謂、騎士の様な立場です。命令は絶対と思って下さい。戦場で敵の首を取るのと、情報を得て持ち帰るのは同じです。違うと思ってもそう考えてください。狩人の考え方とは違うと思いますが。さらに言えば、我が領では直接戦闘で成果を上げた人と、後方支援で情報を収集していた人、どちらも同じ功績として評価するつもりです。特に。戦場周辺じゃない場所での行動を任された者は、これまで、モリヤ隊のメンバーがやっていたことをやってもらうことになります。彼女たちとほぼ同じ仕事を任せるわけです。この重要度……理解出来ますか?」


 全員が頷いた。


「逆に、今回俺と共に戦場周辺で情報収集する人は序列的に低い、一人前の仕事を任せるのはちょっと怖いと思われたと恥じてもいいです。今回も合わせて実力を上げて、今後に繋げて下さい」


 悔しそうな顔をしているが……うん、まあ、こんな短期間じゃ無理だから。


 これまで魔物や動物相手に狩りをしていた者が、人や魔道具などを相手に情報収集するっていうことの難しさ。いきなり過ぎるしね。

 彼らよりも遙かに能力やスキルの高いモリヤ隊メンバーだって、有効に動ける様になったのはかなり時間が必要だったし。元々優秀な者を中心に、戦場以外の都市や国へ飛んでもらう。


「では急ごう。焦らずに。貴方たちのもたらす情報が……戦いの全てを決めるのだから」



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