0296:犠牲者
実は、セズヤでの戦の最後で会ったあの後、このミルベニくんはオーベさんが現状どこに所属しているのか? を比較的すぐに突き止めていたそうだ。まあ、うん、そりゃ気になるよね。師匠が「化物」とまで言った相手がどこにいるのか? 本当にセズヤにいるのか? 軍師的には気になるわけで。
で。彼は普通にオーベさんの足取りを追った。うちに来る前。オーベさんはリーインセンチネルで臨時講師をやっていたらしい。で。そこ経由で、オベニスに行くという情報を掴んだそうだ。そりゃ判るわ。だって隠してなかったしな。オーベさんも。
足跡は簡単に追えた。どこに居るか判ってすぐに手紙が届いたようだ。簡単に言えば、オベニスとは仲良くやっていきたい……というちょっと手を出さないでね的な、懇願のお手紙だ。それはオーベさんから、俺たちにも見せられている。
水路には気付けなかった様だ。オーベさんの術で……と考えているらしい。
イリス様の判断は当然、「別にどうでも良い」だった。うん。そうだね。気にする様なモノでは無いよね。ヤツラが怪しいのはセズヤに対してだけだろう。
そもそも、メールミア王国と征服国とは国境が接している訳じゃ無いからね。すぐに何か影響が出るわけじゃないし、位置的にもどうでもいい。セズヤに対して介入しないのであれば、友好関係を築くのは問題無いという返答をしていたハズだ。
「ミルベニ。お前がここにいる時点で……もう、無理じゃろ? 征服国は」
「……」
「王が死んだか」
「……はい……守り切れませんでした」
「敵の戦力は?」
「「戦乙女」が二十人。囲まれました」
「将軍は?」
「もう一方の戦場へ兵を率いていて」
「背教者」にして征服王……アーガッド王が死んだか。
というか、君の国、王が死んだらもう、どうにもならないんじゃないか? 新興国で常勝で強引に押さえ込んでいたわけで。セズヤでケチが付いて、強者が二人死んで。弱まっていたなりに富国強化しようとしてたら、これか。運悪いなぁ。
「しかし……43人の界渡り……か。それはもう、凄まじい戦力じゃな」
「はっ。しかし……我が王がその前に五人屠りました。さらに第二陣として送り込まれてきた二十名も怪我をしたり、呪いを受けた者も多いかと思います」
びくっとしてしまう。正直、征服国の王が死んだ話よりも、「戦乙女」が五名死んだ、という事実の方が重い。茂木先輩ではないが……見ず知らずの関係ではあるけれど。
「……それは本当か?」
「はい、当初、我が国に派遣されてきたのは兵が百と「戦乙女」が五名という、偵察の様な部隊でしたが、「戦乙女」の為に我が国の領騎士団が三つ壊滅状態に陥り……王が直属の黒、灰、緋、銀の騎士団で動かせる騎士を率いて出陣。被害は大きかったですが、その前哨部隊は壊滅させました。目の前で息絶えましたし……界渡りの亡骸は大いなる呪いをもたらすと言われていますから、私の目の前で完全に焼却させました。ですが、その、最初の「戦乙女」五名はこちらの様子見用だったのか、かなり弱かったようで……第二陣の二十名には王と騎士団もほぼ、為す術も無く……」
……既にそんなか。くそう。くそうくそうくそう……。
本当に腹が立つ。どうして、それが出来てしまうのか。同じ人間なのだろうか? ひょっとして、自分の感覚はこの世界と決して交わらないのではないだろうか? クラクラするくらい、血が熱くなっているのが判る。
さらに。この世界の女性蔑視、軽視の現実にも腹が立つが、界渡りしてきた勇者に対するモノ扱いには腹が立つを越えて呆れてしまう。ちくしょう……。どういう思いだ? どういう感覚だ? 彼女達は生きているのか? 肉体的に生きていても、精神は大丈夫なのか? 死んではいないか? どうなんだ。ああ。このまま駆け出して助け出すことは出来ないのだろうか?
「ミルベニ……まずはお前が休め……多分、もう、無理だぞ?」
「そんなことありません、ファラン様……」
といいつつ、彼は彼で既に体が揺れ、ふらふらし始めている。目の焦点が合っていない。多分、寝不足なのだろう。
「部屋を用意してやれ。とりあえず、休め」
「いえ、それ……は……」
倒れるように、警護の兵に抱えられ、ミルベニは連れて行かれた。ここまで……まあ、多分、魔力を使い尽くす勢いで駆けてきたのか。オーベさんの様に、召喚で乗れる魔物を出したか。まあ、それくらいはできるわな。あの人の弟子なんだから。
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