0295:苛立ち
苛立ちがフルバースト状態だ。
情報が……うちのノルド達だけでなく、冒険者等の偵察報告が上がってくる度に、苛立ちが蓄積されていく。
こういう戦時前とか、様々な情報が欲しい際に、オベニスの冒険者ギルドの依頼にはこの手の情報報告クエストが常時依頼で貼り付けてある。調査に行って帰ってきて、レポートにして提出する。緊急時は口頭での報告等、うちの領ではモリヤ隊以前からこの情報募集をかけている。
正直、対費用効果が成立するほど、成果は上がっていないのだが、冒険者の中には精密な数字入りのレポートを仕上げてくる者も増えてきている。それこそ、そこまで危険な事……魔物と闘わなくても、そのデータを収集し、報告するだけでクエスト達成で報酬がもらえる。さらに……後日データが確認されてその報告の正確率が高ければ、追加報酬までもらえるとあってそこそこ人気なのだ。
正直、レポートがちゃんとしていれば「中身はそこそこ正確でなくても」クエスト報酬は発生させている。質より量だ。同じ方面に派遣する冒険者は必ず、複数組用意する。得られた情報を統合させて確認することになっている。
さすがに余りに間違いばかりなら……正解率があまりにも低い状態が複数回続けば、今後その手のクエストは受けることが出来なくなるのだが。ギルドの窓口で冒険者の本人認証する際にはねられてしまうのだ。なので、結構皆真面目に仕事をしてくれている。
可哀想に……。「戦乙女」たち自体が圧倒蹂躙……しているらしいので、命令されるがまま、戦場だけでなく軍の基地、砦、拠点への襲撃に駆り出されているということになる。
女子高校生が。非戦闘員の首を狩る。
こちらの世界に来て、運動能力や潜在的な魔力、精神力なんかも上昇していたかもしれない。が、それまで人殺しなんて無縁の世界で生きてきた彼女たちが、殲滅掃討、虐殺の実行を命令されている。
殲滅戦ということは。さらに襲った周辺の村や街で虐殺を行い、略奪を行っている、行わされている可能性が高いだろう。隷属の術がどのくらい強制力が働くのかは判らないが、虐殺は確実にやらされてる様だ。
一般市民、特に無抵抗の者、病人、老人、女子供を殺すのは、精神的にヤバイんじゃないだろうか。というか、もし、今の俺がやれと言われても、こちらの世界に慣れてきている俺でも。即精神を病む自信がある。
戦端が開かれて既に二十日間は経過している。たった二十日でイガヌリオ連邦の中央部分はほぼ壊滅状態らしい。
というか、国を攻めるのは良いけど、その国の農業基盤、産業基盤、人材基盤を破壊し尽くして……精神的も蹂躙して、そんな国を支配下に置いて、何か利益があるのか? と考えただけで、彼女たちを従えている国、王の頭の悪さが判ろうというものだ。
住人だって、最悪でも捕らえて奴隷にする方が、殺して燃やすより価値があるのは子どもにだって判るだろうに。
がーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。イライラする。
別に女子高校生に邪な好意とか興味があるわけではないけれど……同邦同郷の者としてもの凄く心配ではある。なんていうか、彼女たちは保護すべき子供だ。俺の中では未成年だ。
というか、そもそも。今回で判明した、この世界の界渡りに対する仕打ちに非常に腹が立っている。
茂木先輩も俺も、こちらの世界に来た時に、隷属の術を施されなかったからどうにかなっただけなのだ。俺も召喚されてて、その術自体に隷属も加わっていたら、逃れる術など何もなかったと思うし。
同邦としてどうにかしてあげたいが……。
そもそも、現時点でも……正気を保っていてくれればいいのだが。これまたオーベさんによれば界使いは使役されるうちに、大抵その意志を失い、人形傀儡の様にただただ使われるだけになっていくのだという。生きていながら死んでいる状態に近い……ゴーレム兵器となるのだと予想していた。
なんて惨い。女子高校生……と言えば、日本の感覚で言えばまだまだ子供だ。親の加護の元で甘えて暮らす。それが当たり前だったろうに。
んで。これらの情報がこのスピードで手に入ったのは。
「お願い致します。イリス様……我が国に援軍を……」
軍師ミルベニ。オーベさんの弟子、つまり、ファランさんの弟弟子ってことかな。正確には、アルメニア征服国筆頭軍師。セズヤ侵攻、征服を完遂するところだった男。
というか、まあ、ごめん、完全なイレギュラーである俺らが出張らなければセズヤはアルメニアのモノになってたからね。完全に。セズヤ王国は瀕死、しかもボロボロ……というか、内情クソのような人材しかいなかったわけで。
ミルベニ・オルドナッツ
ヒーム 男 力67 躯61 器46 敏54 知206 精176
思考鋭敏
魔力制御4
→闇4
召2
馬術3
「それほどかい」
オーベさんが全部省略して言う。うーん。彼、オーベさん、ファランさんほどじゃないけど術者として強いからなぁ。その彼が早々に退却というか、ここまで逃げて、使者としてオベニスに訪れている。
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