0293:ねじれろ

「マクベルが死んだだと? さらに、狼の傭兵団も壊滅? なんたる無能! 貴様ら! 勇者であればお前たちだけで敵を全殺しせよ!」


 あのバカ司令官は、マクベルという名前だったのかと初めて認識する。たった三人で敵軍を殲滅? 全滅? いくら強者がいないとはいえ、根本的な勘違いをしている。


 どんなに強い者でも、周りを包囲され、捨て身で何度も攻撃を受け続けていれば、いつかは倒れる。倒し続けるのとやられるの、どちらが早いか? という競走になるのは間違いないが、もう少し広範囲攻撃方法がなければ、どう考えても勝てるわけがない。


 せめて我々に武術や魔術の情報を与えろと思う。が、反逆の伝承を恐れているのか、この王らは、戦乙女が自分たちの手で強くなることも恐れていた。そんなもの、実戦で命がけで取得した技や術、情報の方が重く身体に刻まれ、強化も早まるだけなのだが、そこは考えに至っていない。目の前の現象を判断するだけで精一杯なのだ。


「無理ですね。そもそも、人数が違い過ぎます。戦争は数です。個体がどんなに優れていようと、数の論理で押し切られます。もう少し計画的に軍の進軍を行うことを進言します。さらに、兵站の計画的な輸送と配置を行うだけで軍の行動範囲が広がります」


 この世界では天敵である魔物を倒すために生まれた、強者という特異点の存在により、数の論理はそこまで強烈ではない。だが……当然八頭未来はそれに気付いていない。


 未来だけでなく、他のメンバーもそう思っていたので、行動に対して無駄に慎重にならざるを得ず、それが彼女達のストレスと化している部分も大きいのだ。


「五月蠅い! 五月蠅い! うるさーーーーーーーーい! く、口答えする気か! ひれ伏せ! そしてねじれろ! ねじれろ!」


 命令によって、躯に強力な負荷がかかる。ねじれる様に身体中が強制的な力で押し込まれ……口から胃液が溢れる。この命令はヤツのお気に入りだ。界渡りで勇者である、強力な暴力装置である戦乙女が躯をひねらせて地ベタを這いつくばるのがよほど面白いらしい。


 その場にいた三人は地に顔をこすりつけて横たわり、手足をねじらせるに任せるしかない。


「こうなれば勇者全員を横に並べて前進させろ! そして、イガヌリオ連邦の兵を尽く蹂躙せよ!」


(バカか……こいつ本当にバカだ。作戦とか、計略とかそういうレベルじゃない。効率良くとか、その後のこととか、一切考えられる頭が無いのか)


 未来は地ベタで石畳みに顔をこすりつけながら、内心、王を哀れむ。だが、許しはしなかった。こんな下らない人間に酷使されるなど、自分のプライドが許さない。心を尖らせろ。麻痺させるな。こちらの戦いが私たちの本当の戦いなのだから……と、改めて、先輩達にも言い続けようと誓う。負けてはならない。いつか、チャンスが、隙が生まれるはずだ。


 だが。そう強く思えていたのは既に、未来と、部長副部長などのある程度責任のある者達止まりだった。


 崩壊の鐘は既に打ち鳴らされ初めていたのだ。


「兵士を斬るのはまだ、納得できるんだけど……」


「……村を襲って、無抵抗の村人を斬るのは……もう、なんか、戻れない、最悪に穢れた気持ちになる……」


 戦乙女の詰め所……以前使用していた騎士団が壊滅状態に陥り、使用者のいなくなった空き宿舎に戻ると、未来たちとは違う戦場に遊撃に出された者たちが凹んでいた。


 まだ……それらの状況を口に出来ている者たちは……いいのだ。そうして客観的に自分も見ることができているのだから。


 実際……俯きがちになり、顔色が悪く、口数が激減している、精神的にそこまで強く無い仲間たちがヤバいことになってきている。王以外の司令官の命令であればまだ、反抗出来なくとも、遅延行為や敵の誘導等も可能なのだが、王が直接率いる部隊と共に戦場に出ると、その命令は絶対となり、抵抗することはほぼできない。


 性行為がタブーということで陵辱的な行為は無い。


 だが。いくら敵国の民とはいえ、残されていた女性を重ねて首を落とす。逃げる子供の首を連続して斬り落とさせる。子どもを庇う母を一緒に袈裟斬りする。孤児院を襲い全員を生きたまま閉じ込めて火を付けさせる。子供たちを守ろうと必死な老人たちを斬り捨てる。


 王は残虐な行為を行う際に、ここぞとばかりに戦乙女達を使った。


 これは別に計算したわけではなく、王はいつまで経っても反抗的な目をし、従順な奴隷とならない彼女達を「酷使」していただけに過ぎない。だが、その行為は自軍内でも噂となり、彼女達に近づく者は一切いなくなっていた。


 彼女達が王の命令に逆らえない、隷属状態なのは知っているし理解している。が。アレだけの暴力と、無抵抗な者まで殲滅する残虐な行為を見せつけられていると、対象に対して恐怖の感情しか感じなくなってしまうのだ。


 戦乙女たちの不平不満、いや、ビジュリア潘国全体、そして国王ニレジアへの憎悪は日々高ぶり続けていた。



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