0292:退却

「お二人ともお気を付けて」


 いつの間にか未来の横から居なくなっていた二人。チルハと希生は未来の作戦通り、火球が降り注ぎ、敵が若干崩れた瞬間に、その奥、長槍を持っている騎士群に斬りかかっていた。


 全身鎧の騎士に何の工夫もなく、袈裟に振り下ろされる銀閃。身体が……ズレる。一刀両断というのはこういうことなのだな……というくらい見事な太刀筋だ。さすが、女子高校生剣道日本一。美しいとはこういうことだろう。


 対して、力が入って無さそうな横振りの銀閃。だが、敵に食い込む瞬間に瞬間的なスピードが増加する。フットワーク軽く自分の足位置に歩を定めた瞬間には、振り抜いている。


 こちらは……騎士達が自分の腹から下が消失する瞬間を、自分で認識して死んでいく。女子テニス高校日本一にして、卒業後即、プロ入り、世界ランク上位がほぼ確定している才能の塊は、ラケットを剣に持ち替えても圧倒的な力で相手を蹂躙して行く。


 騎士団、お揃いのせっかくの金属製の鎧が一切役に立っていない。


 鉄なのか何なのか分からないが、別にこの世界の金属が柔らかい訳ではないのだ。触れば普通に鉄板のようだし、剣は分厚く硬い。重い。ソレでも金属で金属が、断ち斬れる。


 多分、あの金属鎧は一般的な騎士が希生の持つ騎士剣で斬り付けても、ある程度は耐えられる強度があるハズなのだ。関節部分や重ね合わせた鎧の隙間は別だ。そこは普通に急所だし、実戦で狙う場所でもある。そうではない部位は……守られて当然だろう。


 それを細身の女にあっさりと袈裟斬りされるというのは屈辱でしか無いハズだ。根本的に男尊女卑の傾向が強すぎる。女と言うだけで何もかも否定される。そういう理不尽を短期間のうちに何度も体験させられていた。


(敵のヘイト無駄に上げてるんだろうなぁ……あたし達。そりゃ上がるわ。目立つしなぁ。無茶だもんな。だって)


 チルハの直線的な、希生の左右へ縦横無尽に走る突破力は、それだけでも異常な威力を発揮している。さらにその手には剣が握られているのだ。鋼の刃に突き刺され、血を吹き出し、斬り落とされ、血を吹き出し。あっという間に死屍累々の惨状が生み出される。


 阿鼻叫喚とはまさにこの事をいうのだな……と。生臭い……生魚とはまた違う、血臭に、未来だけでなく全ての者が気分を悪くしていた。特にその臭いには慣れることが出来なかった。というか、慣れたくないと思っている自分もいるのだ。


 臓物撒き散らかして、動かなくなっていく者達を視界に入れないようにしながら行動していく。一度凝視してしまったら最期、自分が動けなくなってしまうのだと言い聞かせながら。

 

 複数の火球の爆炎と共に訪れた激しい爆発は、騎士団の陣形に大きな影響を与えた。後方から、補充の人員が回されてくる。この人数差では、まだまだ、突き動かすことは難しい。さらに……多分……。


 未来はそうなる前にそそくさと戦闘のどさくさに紛れることにした。すぐに術が使えて、向いている様だったので魔術士を名乗ることにしたが、自分にも防御力アップするハードコートは掛けてある。

 この辺の雑兵同士の戦闘なら、巻き込まれずに処理できるくらいの体術、剣の技量は習得している。訓練相手は全国レベルの猛者ばかりなのだから。


 チルハと希生の二人が飛び込んだ辺りに到達した未来は、その壮絶さを確認しながら奥へ進む。予定通り、ああ、これは精神に来る……。壮絶。血の海、あの二人は……よく平気……いや、きっと平気じゃない。そういうつもりで切り離しているだけだ。いつかきっと怯え、不安になる時が来る。と思いながら脚を進める。


「おおおおおおおおお!」


 遠くで鬨の声がする。まあ、うん、予定通り。こちらの本陣が襲われたのだろう。この規模の騎士団であれば、絶対に、突撃奇襲用の迂回した部隊……騎兵が存在するハズだ。


 魔法があるとは言え、中世時代に近い文化レベルのこの世界で、最大の暴力は騎兵による突撃である。にも関わらず、その存在が何処にも見えない。ということは隠され、伏兵としてどこかに……まあ、この場合、こちらの背後に迂回して、本陣を狙う奇襲部隊として存在したのだろう。


 これで良い。この部隊はやがて全滅する。あとは我々三人が生き残るだけだ。さあ、ここはわざとらしく演技しなければならない。


「お二人とも! 本陣が襲われました。退きましょう」


「うむ。だが……素直に退かせてくれるとは……」


「ええ、そうですねぇ」


「はい」


 ということで、三人はいくらかトーンダウンさせた戦闘を繰り返し、徐々に、徐々に退いて行った。急いで本陣に戻らなければならない! そして、司令官が死んだことを確認し、命令が上書きされ、指示をもらわなければ動けない状態にするのだ。わざとらしいが。


 本陣は……既にこちらが喰らわせた以上に死屍累々、バラバラ死体満載という状態に早変わりしていた。まあ、これは仕方ない。前方の戦場しか見えず、本陣の守りに数十名しか兵を配置しなかったのが無能なのだ。


 ほどなく司令官だった……と思われる残骸も見つけたため、三人は新たな命令を受けるため、帰還することを決定した。この辺も微妙に規制がかかるようで、司令官が生きていた場合は、その命令を守らねばならない。


 つまり、勝手な退却ができないということだ。





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