0285:旅立ったはずのガギルに

「でね。これをさ、作って欲しいのよ」


 既にヒームの鍛冶、というか、鍛冶ギルドの長だったアーデリアの工房で造らせていた「銃」だ。


 実はあらかたサンプルは完成している。が。実働テストを行うと、耐久性に難がありこのままでは実用化は厳しいと判断した。

 傭兵団「漆黒の刃」戦で実働できていれば、もう少し楽に、それこそ都市内に火を付けられずに済んだかもしれなかった。


 残念ながら、ヒームの鍛冶士たちでは、精度の高い部品を一定数量産することが出来なかった。これは完全なワンオフ。一点物だ。

 形は……うーん。火縄銃……よりも鉄パイプに強引に銃把と肩当てをくっつけた感じ? なんていうか、無骨というよりも、素人仕事って感じだ。まあ、俺の適当な知識を話して形にしてもらっただけなので、こんなモノにしかならなかったのだ。


「お館様、これは……どうやって使うんだ?」


 ドガルを初めとしたガギルの主要メンバーが集まってくる。まあ、実は。現状のサンプルは実用性もある奇跡の逸品なので、バッチリ弾丸を発射可能だ。


 屑魔石、砕いた魔石など、通常なら既に使い道のない魔石を、薄い金属の小さな筒に入れて、蓋をする。小さい筒の逆側には先突型の弾頭が付いている。口径は……うーん。構造自体が普通の拳銃とかライフル銃と大きく違う。なので比較することが出来ないからアレだけど、かなり大きい。


 オタク知識的に有名なマグナムは44口径かな。映画の主人公が使ってたヤツ。それがかなり大口径だったと思うんだけど……0.44インチは……1インチは25.4ミリなので……大体11.2とか3ミリって感じ? つまり太さ1センチちょいか。

 この魔力銃の弾の口径は……大体2センチくらいだろうか。かなり太い。長さは5センチちょい。ずんぐりしている気がする。まあ、ぶっちゃけ、これ以上小型化が難しかったのでこうなってしまったのだ。火薬の代わりの魔石の性能的には、もっと小さい弾丸で問題無いと思うのだが。


 弾の内側には衝撃で発動する爆発系の火の術の紋様が描かれており、銃身という密閉された空間で圧縮され、弾頭を前に飛ばす仕様になっている。この、魔術の紋様、魔方陣ってヤツは、ファランさんの力作だ。こんな小さく描いたのは初めてだと文句をいいつつも、キッチリ仕事をしてくれる辺り、さすがだ。

 実は……銃を兵器として運用しようとすると、確実に必要になるのが銃弾である。正直、これの量産化の目処「も」立っていない。トホホ。ただ、ファランさんが頑張って省略してくれたおかげで、刻印で済ますこともできそうな単純な紋様だ。それでも、ガギルのみなさんに要相談である。


 照準を付け、引き金を引くと撃鉄が落ち、弾の炸薬部分にハンマーが当たる。それが紋様を刺激して爆発。弾が発射されるのだ。同時に、凄まじい破裂音が響く。50メートルくらいの距離に置いてあった的のフルプレートアーマー(中に土嚢を詰め込んで立たせたモノ)が、粉々に砕け散った。


(ふう……当たった)


 内心ビクビクなのは俺の腕が未熟なだけじゃない。正直、このサンプル銃はかなりぶれるのだ。ライフリングが刻めてないのも大きいかもだけど、それ以前に照準の調整がなっていない。というか、それを言っても、どうにも精度が低いモノしか仕上がってこなかったのだ。さらに、どんなに試行錯誤しても、これよりも程度が悪いモノしか上がってこなかった。


 限界なのかなぁ? と思っていたところにガギルですもの。託したくもなるよね。


「これは……頑張っているのだが、正直出来が悪すぎる。改良して……いや、機能が同じであれば、別物になっても構わない。作り直して欲しい。さらに。コイツに個体識別の機能は持たせられる?」


 作りが荒いのは仕方が無い。だが。実験で八割近くが発射時の衝撃に耐えられず、避けたり、接合部分が抜けたりするのだ。

 今回俺が使用したのはヒーム族の中でも「特に腕の良い」鍛冶師の作った特別製。特に万が一の破裂に備えて、持ち手の部分にこれまたファランさん特性の防御用の魔術紋様を刻んでいる。


「個体識別?」


「登録した者にしか使えなくする魔道具って無い?」


「……あるな。血を垂らすと、その血を持つ者にしか発動しなくなるようにできる術紋が」


「それをくっつけて欲しい」


「そうすると、壊れたりしたときに大変だぞ?」


「判ってる。でもそれをする必要があるんだ」


「そうか。お館様がそう言うのならそうなんだろう。判った。しばらく時間をくれ」


 ドガルを始め、多くのガギルが既に議論を交わし始めている。うんうん、熱いね~。アーデリアには悪いが、彼女の工房のヒームの鍛冶士たちに、この魔力銃の話をしてもあまり熱くなってはくれなかった。正直職人から何か熱い情熱を感じることが少なかったのだ。この世界の人たちには物作りの情熱はイマイチなのかなぁ~とか思ってたんだけど。うん。いいね。少なくとも鍛冶に関してはイロイロと任せられそうだ。


 とりあえず、銃と~紡績機、織機もな~欲しい。この世界の布、正直レベルが低い。現在の完全人力製作だと、それなりに細かい目の麻布的な布しか作れない様だ。絹とはいかないまでも、木綿布くらいの布があれば確実に売れる。タオルも……ないな。これも売れるな。


 ねじ切り道具、旋盤、万力、遠心分離機、圧搾機、ネジとナット、鍵の器構、蝶番……窓ガラスも、か。うーん。少しずつでいいか。


 そもそも溶鉱炉だよなぁ。高炉とか、転炉とかだっけかな。アレって、作るには耐火煉瓦が必要だけど、その耐火煉瓦を作るには耐火煉瓦で作られた高炉が必要っていうね。確か、粘土と珪砂を混ぜて、圧縮して、焼く……だったと思う。珪石は白い石。覚えてるのはそれくらいだ。

 

 迷宮のフロアの詳細設定で、鉱物以外の大雑把な素材設定が出来る。黒土、赤土、白土、稀少土、粘土、白石、黒石、緑石、稀少石材。多分、粘土だって種類があると思うんだけど……組み合わせはガギルに工夫してもらうしか無いか。俺の拙いヒントを与えて。


 現在のガギルの炉は、ヒーム族よりは高度とはいえ、シンプルで小さめな高炉だ。燃焼温度もそれほど高く無く、鉄鉱石を投じて、半固体の鉄を生じさせて、叩いて成形するのが主な作り方なのだ。鋳造できるレベルの温度は生じてないっぽい。


 ガギルは優秀なんだと思うけど、剣とか盾とか鎧の特化鍛冶ってことなんだよねぇ。前途多難。




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