0274:協力要請
バガリは懐から小さい鉄鉱石と……空の酒瓶を取り出した。
「書簡と共に送られてきたこの鉄鉱石。そして……この酒……だ」
ってマジデ酒か! そうなのか?
「この鉄鉱石は……本当にここで掘れたモノなのだろうか?」
あ。酒もそうなんだろうけど、まずはそっちか。そりゃね、そうね。
「その疑問に答える前に……」
目で、もう一人のガギルの長にうながす。
「あ、ああ。我がシェルファイ鉱山も、ゲルファイと似たようなモノだ。使者として訪れた、ノルドの冒険者に尋ねたのだ。「彼らは辛くはないのか?」と。すると「ガギル族は奴隷で良いと言ったにも関わらず、一般市民として扱われており、しかも、魔道具満載の便利な住居まであてがわれている。さらにキチンと働けば、金とこの酒が手に入るらしい」と答えが返ってきた。そいつが嘘をついている様な顔はしていなかったし、ドガル、いやガギルは酒に関して嘘は絶対に言わん。さらに仕事がある……ということは、この鉄鉱石が仕事で使えるくらい大量に産出しているということだろうと想像した」
「し、書簡には移住を求めるガギルが他にいるのなら、応じる……とあった。アレは嘘か?」
おいおいおいおいおい。そりゃね。言うけどね。本当に来ると思ってないんだから。これまでの前例を鑑みれば。
「嘘では……ない。だが長よ……これまでヒーム族に何をされた? 誘拐、略奪、強盗……ヒームの野盗や盗賊団、傭兵団、さらに奴隷商人に襲われた記憶のある者は多いハズだ。そんな目に合わされ、ノルド族と共に森奥の鉱山に暮らすガギル族が……頑固で、命令を受けて何かするのが大嫌いで、出来るなら一生鉱山に引きこもってモノを創っていたい……という孤高の民、ガギル族が、いきなり、今の鉱山を捨てて集落の者全員で「ヒームの都市へ」移住してこようとする……などと……誰か想像できると思うか?」
「思わない」
「ああ、そうだな。それが今の俺だ」
よく考えたすえに。いきなり二人が土下座してきた。
「申し訳ないことをした」
「すまなかった。まずは書簡で相談をするべきだったな」
瞬間で、理解してくれたようだ。さすが長になるだけある。理性的、論理的な思考に長けている様だ。ガギル族、その辺結構足りないみたいだからなぁ。
「ああ、土下座はもう、結構……謝る問題では無いことの確認と、対応するのが大変だということを判ってもらえればいい」
二人が顔を上げる。土下座多いな。というか、ノルドとガギルが本気の謝罪する場合はそれなのだな。
「さて。まずは問題を整理しましょう。あ。口調をいつものにもどしますね? 偉ぶるの面倒なんで。一番の問題は、みなさんが移住前提でここに居るという事です。正直、さすがに、何の前情報も無く二百人の居場所を用意しろ……というのは難しい。のですが。実は、他の用途で建設していた大型の施設があるのですよ。プライベートな空間は無いですが、一度そこに、全員入っていただいてよろしいですかね? 今はとりあえず、門前……新市街の跡地にいるんですよね? 彼ら」
「ああ、どう対応すればいいか判らなかったのでな……陣幕を張ってそこに待機してもらっている」
まあ、そうだね。イリス様は……どうでも良くて、ファランさんでも判断に困るものね。
しかも問題は、これまで内密に、噂話だけで済んでいたガギルの話が……これで一気に信憑性が高まって、さらに、その噂というか、事実が広がっていくのが確定したことだ。ちゅーか、もう、広まってるんだろうな。近隣の諸領には。彼らがここに到着したのは五日前くらいだそうだし。
居場所はさ。実は地下であればそんなに、緊急の増設も今はまだ難しいことでは無い。うん。ダンジョンポイントも貯まり続けているから。でも、ね。そこはまだ教えられないよな〜。
問題は……ガギルが大人数でオベニスに居るという話の方だよなぁ。
「ということで移動を。出来れば余り目立たぬように」
「問題無い」
「迷惑をかける」
無理だよなー。目立たないのは。もう。200は。どうにもならん。
とりあえず、地上の奥側、各門からは遠い場所。大型の工場に使用するために建設していた体育館の様な建造物。何の工場? と言われると困るのだが、最悪、倉庫にすればいいやと思っていた場所に、ガギルを案内した。ここに、床材を引き詰めて、毛布と食料を持ち込めば、しばらく問題無いだろう。
しかし、ガギル200名っていう、この事実は消しようがない。どうすんだこれ。既に吟遊詩人がネタにしていてもおかしく無いよなぁ……。地上の、新市街周辺は、ギルドの支部もあり、宿場町になっている。酒場も多いからその辺の面白おかしく噂話をする人たちも多いんだよなぁ。
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