0272:多いよ! ←素直な気持ち
オベニスに戻ると……少々大変、いや、かなり大変なことになっていた。
今回、正味20日間程度の出張だったわけですが。そう。正確には23日かな。死霊術士と死闘を繰り広げたあと、ノルドの森都でイロイロとクソ面倒くさいことになり。さらに、北アビンの集落の者、全員が移住すると言い張り。
森はどうするのか、とか、オーベさんがハイノルドの掟に従って、森都に集まりつつあった他村のノルドをイロイロと説得したり、誤解を解いてもらったり、うん、面倒な出来事がたくさんあって。
で、最終的に八十名ほどのノルドを連れて帰還したわけです。ぶっちゃけ、その人数では移動の面倒がみれるわけではないので、そこそこ時間もかかってしまったと。とはいえ計23日です。たった。
俺らが八十人のノルドを連れ帰った……だけでも、超話題のハズ。まあ、その前にガギル50名ってのがね、あったからね。霞むけどね。これまた全部内緒ですよ。近くの森で待機してもらって、浮遊馬車で往復して。まあ、無事に誰かに見られること無く地下へ連れ込むことが出来ました。
と、思っていたら。
ノルド族が十名。さらにガギル族、二つの鉱山(集落)分の約二百名が到着しました。正面から。正門から。
うわーこれ、話題になっちゃうわー。なにそれー。吟遊詩人が大喜び間違い無し案件じゃないですか〜。
ん? ノルド族はええ、アレです、ミスハルが手配してくれた元々予定していた女性たちです。これは問題ありません。
あれ? で、二百? 何のことか判らないですよね。うん。俺も。え? 何が? っていうのが第一反応。どういうことなのか? 説明を求めたのがついさっき。そして、オベニス在住ガギルの長がドガルなのだが、絶賛土下座中だ。
「だからさ、もういいからさ、とりあえず、話を聞かせてよ」
「すまねぇ、お館様……前に言った通りだ。俺は、今回の顛末……モボファイ鉱山がどうなったか、そして、生き残りはお館様に救われた恩を返すために、オベニスに定住する。という書簡と、まあ、イヤイヤ、強制的に誘拐されてヒームの国で暮らすわけでは無い……ということを証明するために、こんな酒も飲めるしな……と追記して、もらったうちの数本を、近隣の二つの鉱山に運ばせた」
「ああ。それで?」
うん、まあ、おかしいことは無い……と思う、イーズ森域の北。あの辺りには幾つかのガギルの鉱山(集落)があると言ってたし。
「……あの酒を初めて飲ませてもらったときに、「この酒があればガギルがここに集うことになるかもしれねぇ」と言った」
「ああ、言っていたそうだな。ファランさんから聞いたし、俺も言われたよ?」
目の前の本人に視線を向けると、小さく頷いた。
「ああは言ったモノの、それはまあ、若干冗談であって、本当にそうなる……と思って言ったわけじゃねぇんだ。褒め言葉が見つからなかったんで、そう言ったまでで。売ってくれと、問い合わせや買い手が殺到する可能性はあるかもしれねぇな……と思ったが、別にそれは悪いことじゃねぇってファラン様も言っていたしな」
そりゃそうだ。正直、俺はアレでは、アルコール成分が強いだけで、イマイチ旨味の足りない実験作で商売になり得ないと思ってたし。
マズイと言うか舌が痛いレベルの強烈さなのであまり他の人に飲ませるつもりは無かった。少なくとも1年、いや、数年は樽で寝かせるつもりだった。それでも旨くなるとは思えなかったし、樽に使用している木材のデータもイマイチなので、期待はしていなかった。
とりあえず、身内になったわけだから、意見が欲しくて、ドガル達に試飲してもらったのだから。
「ガギルがこれまで、住んでいた鉱山を……廃鉱予定ならともかく、即捨てる……というのは聞いたこともねぇ。俺らの様に、ヒームの国へ移住なんていうのも多分、初めてのハズだ。ひとつの国に……居て一人二人。多くても五人だな。知ってる限りだと最大十名程度か。たしか、リーインセンチネルにはそれくらい居たと思う」
ああ、それくらいは居ないとだよね。リーインセンチネルは特別で、貨幣もあそこで造っているし、最先端魔道具や、様々な力が付与された魔剣、聖剣なんていう武器防具もあそこ発が多いみたいだし。
「まあ、それくらいガギルは鉱山から出ない。出るのは、その鉱山を掘り尽くした……と判断して、違う鉱山へ移住する時くらいだ。なので、万が一にも無いと思っていたのと……少々自慢が入っていたのも否めねぇ。本当にすまねぇ」
ん? ってことは? なんとなく判ってきた気がするけど。
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