0271:隠し部屋

 地上は散々たる有様だったそうだ。ほぼ全員のノルドが倒れ、意識を失っていたようだ。もしかしたら、他の近隣集落にも影響が出ているかもしれないという。そんなか。


 もしも、オーベさん、ミアリアがいなかったら、倒れていた人々は……少なくとも二~三十日はそのままだったらしい。いくらノルドでも、そこまで倒れていれば死ぬ者も出てくるし、みんな倒れてるのだからそこを魔獣に襲われても不思議では無い。


 話を聞けば聞くほど、かなりヤバイ状況だったのが伝わって来た。


「シールゲレニハがここで封印されたということは。この館に……ヤツの私室があるはずじゃ」


 集落のノルドはオーベさんが全員、起こした。家に戻して身体を休めてもらっている。現時点で、このハイノルドの館にいるのは我々三人だけだった。


 まあ、確かにこのままここを去るのはちと無責任な気もしたので、やるコト、できるコトをしておこうという話になった。オーベさんの言う通り、死霊術の資料を探すのだ。


「多分どころか確定的に隠し部屋じゃな。いくらハイノルドといえども、少しでもその情報が漏れれば、即、討伐隊が結成されて燃やし尽くされたはずじゃ」


 館は……オーベさんが言うように、所々がボロボロと廃墟化していた。


「我がここに定住して……そうじゃな……二十年ほどすれば癒えるとは思うが。そうすべき理由がないしな」


 急速充電みたいなことはできないらしい。まあ、魔力を奪われすぎると死ぬからね。良い見本が地下に転がってたわけだし。


 端から順番に廃墟化している様で、最上階の三階には、既に完全に屋根が崩れている部屋も幾つかあった。


「このハイノルドの館は非常に簡単な四角い形状をしている。故に隠し部屋など無い様に思える……のだが……」


 二階の部屋、何も無い壁をオーベさんが叩く。


「ここじゃな」


 全く違和感を感じない。俺よりもその辺が鋭いミアリアも首をかしげている。


「我の術解析と、死霊術の真祖の隠蔽。どちらが上かの」


 壁に手を当てて、目を瞑るオーベさん。よほど複雑な結界になっているのだろう。というか、ミアリアすら気付けないレベルっていうのは……ハイノルドでも、この辺の術に特化した、かなりの実力者でなければここまでの隠蔽は不可能らしいが。


「よし」


 解析開始から数十分。額に汗が噴き出ている。成功したようだ……と思ったら、オーベさんが手を当てていた壁に、いつの間にか通路が出来ている。


「隠蔽だけで無く……次元も変えていたとは」


 後に続く。


 中は……小さな書斎。本もそれほどあるわけではない。オーベさんが入ったことで魔道具の灯りが付いたようだ。明るい。死霊術とは……あまりにかけ離れている。


 あったのは、死霊術に関するものではなく、主に癒しの術、そして光術に関する資料だった。ここは……。


「ここが……シールゲレニハの隠し部屋だった場所……か」


 オーベさんが机の上のメモを見て呟いた。シールゲレニハは自らの死霊術の失敗により、暴走寸前となっていた。それを、ハイノルドが三人で食い止めた……と。

 さらに、改良型の結界の魔道具で封印に成功した。そこまでは良かったのだが、魔道具へ魔力を注入する術紋にミスがあって、封印後、ハイノルド三名が魔力欠乏により、地下で死亡……。といった所はそれまで聞いていた想像していた通りだった。


 が。


「大元は……シールゲルニハは究極の癒しを求めたようじゃな……」


「究極の癒し=蘇生?」


「ああ、そうじゃな……だが……それにはどうにも成功しなかった。何よりも……肉体と魂の関係は解明出来なかった。その派生で、死霊術を生み出したようだ……」


 まあ、多分、どうしても生き返らせたい人でもいたのだろう。というか、肉体と魂の関係って……結構ポピュラーな悩みっていうか、よく聞くというか……正直、地球世界でも聞いた気がする。この手のオカルトな話の中で。いや、ぶっちゃけ、真理だからこそ、世界が違ってもそこに行き当たるってことか?


「しかし真祖め……。ふざけるな。己の生み出した術でどれだけの人が死んだのか」


「ええ、そうですね……」


 まあでも、とりあえず、死霊を生み出す病原菌と化していた大元は処理した。次元の向こう側の存在だったけど、まあ、なんとかなったと思う。多分。


 モボファイ鉱山がああなったのは、あそこがシールゲルニハの実験場だったから、だそうだ。森都からそこそこ離れていた事と、地下に空洞、洞窟があったようだ。あそこも封印されていたんだけど、ここに先んじて崩れ去ってしまったようだ。実験だった様で、規模が小さかったのかな。


 ということでここでの用事は終了した。


 と思ったんだけど。


「北アビン全員が、モリヤ様にお仕え致します」


「モリヤ様にお仕えするという事は、オーベシェ様にお仕えする事と同意。つまり、我々は、2つの忠誠を捧げられるというわけです。そんな、都合の良い話ではないのは判っております。ですが、お側に居なければ、ご恩を返すことが叶いません」


「森都からもお仕えしたいと申す者が……」


 バガローンからいきなりの申し出。いやいやいや。んーと。いいの? それ。


 と、いうことで。オベニスに帰ろうとしたら、ノルドが約八十名ほど着いてきた。ちょっと多いから森都からの志願者はとりあえず、またの機会ということにした。


 だって北アビンの集落全員って事だから、男女問わず、大体半々……かな。集落を閉鎖して来るらしい。それはそれで極端だから、とりあえず、十名程度お試しにすれば? ……と言ったんだけど、聞かず。まあ、確かに、貸しだと言ったのは俺なんだけどさ~。




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