0267:死霊魔術士
楽勝じゃないですか。
そして、見えてくる廊下の一番奥の部屋。
むおっていうスゴイ濃い……瘴気。うん、やだなぁ。ホラー系のゲームなら、確実にここがボス部屋。なので避けたい感じだ。妙に綺麗なのも逆に怖い。
オーベさんが無造作に扉を開けた。……そんなあっさりと。その先には広間。そして、中央に……まさに手術台みたいな台に乗せられている……棺……か。なんだ吸血鬼か。
その周囲に……原形を留めないほど朽ち落ちた者達の亡骸。……まだ、新しめで、そこそこ外見が判別できる者まで。彼らが、癒しの術の使い手……なのだろう。死霊に蝕まれながらも術を使って……使い尽くして死んだと。
ふう……。なんというか。腹立ってきたな……。
「コイツ……なんでしたっけ、粉々にしちゃっていいですかね?」
オーベさんがびっくりした表情でこちらを見る。
「……我が主よ、出来るのか? ハイノルドが……多分、3人がかりでも滅することが出来ず、封印という形で動きを抑えることしか出来なかった相手じゃぞ?」
「というか……お館様、オーベ師。少々お下がりを……此奴、既に起きております」
「ぬ?」
グブァ……水が無いのに、何故か、大量の水が押し寄せるような……冷気、いや、死霊が溢れ出てきた。色は黒くない。白か。黒に比べて格段に密度が濃い。普通なら……触れただけで萎れてしまうんじゃないだろうか? 腰から持ち上がるあり得ない挙動で台の上に立ちあがる。
白い……長髪。オーベさんも白なのだが、どちらかといえば白銀に近い。こいつは白。そして長身。基はノルド系列の美形さんなのだろう。バガローンさんとかちょっと歳は取っているけど、かなりの美形だしな。
目が窪み、落ち込み、黒く何も浮かんでいない。アレだ、ホラー映画の長髪美女的な。ローブのようなボロ布を纏い、指にはスゴイ沢山の指輪。あれ全部魔道具なのかしら?
そして。中途半端に開いた口から低く何かが響いてくる。
オオオオオオオォォォオオオオオォォォォォォォオオオオオオオヴヴヴヴヴ……。
揺れる。波で揺れる。
咆哮……ではない。身体を揺さぶるような、通常の人間なら、身体全体、いや、血液が揺れたような……そんな効果か。気持ち悪い。とにかく気持ち悪くて、吐きそうになる。
俺がなるんだから……と周りをみたら、オーベさんがかなり苦しそうに膝を付いた。ミアリアも気持ち悪そうにしている。
「じ、次元を超えて……来るのだな、これは」
「あれは……既に意志は無さそうですね」
ん? これはそこまでの攻撃なのかな? あれ? 俺的にはちょっとビックリはしたけどそこまでじゃないなぁ。
「モリヤ……平気なのか?」
「お館様……」
「んーそこまででも無い。気持ち悪いけど。吐きそうだけど耐えられるくらい?」
「戦闘力だけであれば……強く……は無いと思います。多分、強さだけなら、暴食の王の方が、う、上です……が」
「ああ、これは……ノルド、ハイノルドの天敵じゃろうな。あやつ、自らを死霊化することで、格を上げておる」
オーベさんだけでなく、ミアリアも……立っていることが厳しそうだ。
「ハイノルドの
「二人は下がっていていいよ? 離れてて。なんとなくやれそうなので、俺がやるよ」
「な、なんとなく……ですか、お館様」
「あ、ああ、相手は伝説の死霊術士じゃぞ? 真祖じゃ。更に自ら何かと解け合うことで、通常の死霊以上の何かになっておる。危険じゃ」
「うーん。相手が死霊系……なら俺、多分、大きなダメージを受けなさそうというか。身体の中は気持ち悪いですけど、そういうのには慣れてるというか。あの、ファランさんの特訓のせいで。逆に二人にここに居られる方が……」
「……あ、ああ、あれか……ファランが言っておったな。私が考え出した「心の安定を乱す混乱の術」と「感覚を狂わせる不均衡の術」を同時にかけて魔力総量を増やす方法に……数時間耐えると。我が主といえどそれは無いだろうと思っていたのだが……そう考えれば納得はいく。おかしいくらいの精神力だろうからな。くっ……判った……下がろう」
「お館様、そんな」
「ミアリア……流石のお主も身動きすることすら辛かろう」
そう言うと、オーベさんがミアリアを引きずる様に後ずさっていく。最初はオーベさんの方がダメージを受けた感じだったけど……今はミアリアの方が弱ってる? なんだろう。芯の強さはオーベさんの方が上というか。
いやしかし、ぶっちゃけ、ヤツの攻撃……範囲攻撃が多そうだよね。無駄に。そこに居るだけで敵無し的な。
オーベさんたちが下がった頃になって。やっと、俺が何のダメージも受けてない事に気がついたらしい。
「結構、腹が立っている。クソ面倒くさい術系統を生み出しやがって」
一歩づつ、足を進める。
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