0266:黒い鎧
封印の向こうは……廊下になっていた。黒い靄と……ん? これは魔道具? 動いてる? 動く……鎧か? なんだっけ。リビングアーマーか。そんな? え?
「ちい。これは……侵入者対策の守護魔導具が起動……か。モリヤ狙いじゃな。この奥にハイノルドとノルド以外の種族が入ってきたら動き出すように設定されていたようじゃ……」
「えぇ……」
……それにしては……多く無いですか? 気配察知能力的に。やばくない?
「多分……余剰魔力があった頃に、余裕があれば複数出現させるっていう魔道具が設置されたのだろうて。かなり長い年月放置されていただろうからな」
廊下両脇の扉……合わせて20近い……そこから、続々とリビングアーマーが登場してきた。楽屋か。待機小屋か。
何がおかしいって……ほぼ音がしない。なんていうか、波が揺れるような……空気が揺れるような感じはする。だが、音が無い。金属鎧の魔物……ではないのだろうか? こいつは。
既に廊下いっぱいになるくらいの数が、目の前に迫ってきている。動きは……それほど速くないようだ。ってこれだけ数がいたら身動き出来ないでしょ……。どうすんだこれ。
「多分、このまま放っておくとヤツラ、壁に姿を変えるやもしれん」
「なんですそれ」
「アレは死霊とはまた違った系統の……魔石で動くゴーレムに近い。死霊に近いこの次元とは少々異なる世界に半分身を置きながら、この世界にも存在する」
「……つまり、ふわふわしたゴーレム? 幽霊ゴーレムみたいな?」
「……ああ、その呼び名の方が判りやすければそれでも良い」
で、なんでそれが壁になるんだろう?
「この屋敷は次元が違うと言ったろう? つまり、この世界ではあの幽霊ゴーレムは万能なのじゃ」
「強いって事ですか?」
「……変幻自在、厄介な相手じゃな」
「ハイノルド命令で、オーベさんが一発で!」
「無理じゃな。私がここにいるのに、既にヤツラは臨戦状態だ。「そういう風には」造られていない。さらに、ここに同族以外が下りてくるなどあり得ないからな。普通は。なので仕方在るまい」
「えぇ……」
「しかもじゃ。この館を壊さない様、次元に干渉せずに闘うには……私の術は少々過剰すぎる」
「では、私が」
ミアリアが前に出た。短剣を構える。彼女達の最大の攻撃は不意打ち、強襲、姿を消してから急所攻撃……まあ、基本暗殺者だ。こういう真っ正面からの戦闘はあまり向いていない。それでも実力差が大きいだろうから……うーん。大丈夫なのかな?
んーなんか付与出来ればいいのになぁ。折角、光属性持ってるんだし。ん? できるか? なんか、できそう。祝福……かな? ブレス? ん? なに? まあ、いいや、それを。ミアリアに。
ブワッ!
光が。優しい光が束になってミアリアに纏わり付いた。そして、一瞬で消える。ん? あれ? 光ってる?
「お館様……これは……」
「おうおう……これは凄いな。本物の「神の祝福」なのか? 死霊系の魔物には……効果高いじゃろうな」
いきますね? というジェスチャーと共に、ミアリアが踏み込んだ。
短剣。両刃でナイフよりは大きく、長い刃渡り。その一閃で黒い鎧達がアッサリと切り裂かれていく。
「あまり踏み込み過ぎると……」
「いや、大丈夫のようじゃ。我が主の加護が奴らの攻撃を消し去っておる」
確かに。
「オーベさん、そういえば、浄化は?」
モボファイ鉱山を奇麗にしたあの術だ。あれで一気にやれるんならいいんじゃないか?
「ムダじゃな。魔力が勿体ない。さっき言ったがこの館は次元がズレているのだ。死霊はこの次元のモノ。だが、黒い鎧、奴らはこの館に属しておる。なので浄化で消し切れん」
でもなー目の前でなー。
「ではなぜ、ミアリアの剣が奴らに致命傷を?」
「んーあれなーなぜじゃろうなーワケ分からんなー。ここは……ハイノルド、この大地で生きる生物の知の最高峰が住まう場所じゃ。というか、館というのはそういう風に造られておる。それを守護する物もかなりの強さを誇る魔道生物、召喚獣……とにかくかなりの強さを持たされているハズじゃ。
「ならなぜ……」
「判らんのう……。このムチャな効果が……ミアリアの能力によるものなのか、我が主の光属性の術によるものなのか。それとも、我が主の特殊能力……マッサージの成果なのか、その上の効果なのか。要素が盛りだくさん過ぎて、の」
ああ……そうかもしれないなぁ……とちょっと上の空で考えているうちに、ミアリアが、目の前のほとんどの黒い鎧を薙倒して……消えて行く。なんなく消し去ってしまった。
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