0265:ハイノルドの館
その後。わらわらと集まってきた代表らしき者たちからの謝罪があり。主にオーベさんに。
「館の地下じゃな」
「はっ」
バガローンさんが頷く。近づけば近づくほど。ハイノルドの館とそのゲアルの大樹の大きさが異様に映る。ハイノルドの館……良く見れば端の方は使っていないのか、廃墟のようになって、崩れ落ちている。
「そもそも、これらの施設はハイノルドが居住し、魔力を行使する事で維持されるシステムとなっている。どれだけ……かしらんが、ハイノルドが不在であれば、崩れ落ちてもおかしくは無い」
正面に構えている大きな扉。オーベさんが自分の家かの様に、中へ入っていく。サイズが大きめ……というだけで、館のデザインはこの世界の一般的なモノとそう変わらない。透明度の高いガラスが存在しない(オベニス地下住居は別)ため、曇りガラス(の様な鉱石を加工したモノ)が使われているのは一部の部屋、一部の窓だけだ。
窓のサイズは小さく、基本昼間も鎧戸が閉まるタイプで、掃除等空気の入れ換え時にしか開けない。地球の中世とかだと、それでも昼間は窓を開けて採光していたようだが、こっちの世界では灯りの魔道具で比較的簡単に手に入る。
特にこの手の……王宮とか、宮殿とか、主要施設なんていう、そんなような場所には、大抵魔道具の照明が完備されている。
中は、広間……に大きな円卓とそれを囲むように二十脚程度の椅子。魔道具なのか、中に人が入った瞬間に灯りも付いている。思っていたよりも綺麗で整えられていた。掃除……をした跡も残っている。
「この最初の間は、森域の長の集まるノルドたちの会議でも使われるからの。人が入っていておかしく無い。ただ、この部屋より奥は……ハイノルドとその許可が無いと進めなくなっておる。が。地下……お主達が祭壇と呼んでおる場所へは入れるのじゃな?」
「は。用が無いのに近づくことは致しませんが……私の先代の頃に一度、ここに大量の死霊が溢れたことがございました。その際に、癒しの術で弱まっている封印を再強化することが出来るというどなたかの書き置いた紙片を手に入れました。そこで長が会議を行い、数年に一度、癒しの術の使い手を、封印強化の為に祭壇へ向かわせました」
森全体から集めた、癒しの術の使い手。かなり稀少な人材を送り込まざるを得なかった現実。だが、それはさほどの効果はなかったのだろう。何度も何度も繰り返されていたようだ。
「まあ、いい……ミアリア。どうじゃ?」
「問題無いですね。行けます」
「そうか……お主既に半分、いや、根がノルドではないのかもしれんな……ここから先は我々のみで行く。お前たちは……誓約があるゆえな」
「申し訳ありません、ありがとうございます」
広間の奥に、さらに奥へ行く扉と、その奥に階段が設置されていた。祭壇……と呼ばれている場所はこの先らしい。
「オーベさんは……場所とか判るんです?」
「基本的に、配列配置が似ておるのじゃ。どのハイノルドの館も。造りはほぼ同じと思って間違いない。地下にある祭壇……というのは、地下にある瞑想スペースじゃろうな。元々はそういう用途で設置されたわけでは無いが、封印を仕掛けて、長期間維持しようと思えばあそこが一番適している。どうじゃ? 嫌な感じは」
「ああ、かなり濃いよ。俺の術結界が自動で消しちゃってるみたいだけど」
「ええ、お館様の後だともの凄く楽です。私何もしなくていいので」
「お。確かに……我が主よ、一番先をお願いする」
「良いですけど」
なんかズルイ。
地下は……なんていうか……病院の地下というか、心霊番組で怖い廃墟病院地下な感じというか、中央に廊下があり、両脇に部屋がある……という感じの間取りだった。まあ、その廊下の奥に……手術室みたいな両側に開く扉があるんだけど。怪しい。
「でもさ……ここの死霊の濃度、それほど高く無い気がするんだけど。鉱山の方がずっと黒かった」
「ああ、そうですね……確かに」
「多分じゃが……我がここに入ったからじゃろうな。ハイノルドの魔力に反応して、様々な機能が急激に回復しつつある。あと数十年もすれば、灯りの魔道具も消えていただろうしの」
「じゃあ、封印も?」
「そうじゃな……だが、この封印……かなり歪んでおるな……」
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