0261:北アビンからの書簡
イーズ森域の北、アビンの集落の長であるバガローンより、領主であるイリス様宛で、俺ご指名の依頼……というか嘆願書が届いた。何か……イロイロと話をしないといけない面倒なことが起こっていそうで、結構時間がかかりそうだな~と思っていたのに、異常に早い展開だ。
ひょっとしてそれだけ切羽詰まっているということなんだろうか。正直、やだなぁ……しか思い浮かばないが、あの状況で何か極秘で事を進めることは出来なかった。仕方ない。急がなければイロイロと不味いことになっていただろうし。
少なくとも文書で説明出来ることでは無いので、俺に来て欲しい……ということらしい。うーん。まあ、しょうが無いんだろうなぁ。
「一緒に行きたい」
イヤイヤ……何を言ってらっしゃるんでしょうね、うちの領主様は。
得体の知れない依頼なんかより、まずは自領が大事だし、何より強くなった自分の能力を十全に使いこなせるようになって欲しい。
手加減が出来なくて困っている……そうだ。うん、それは大事だね。死ぬね。周りが。
あと、その卓越した力を使って、うちの地下迷宮を制覇しちゃって欲しい。深い階層に行けば行くほど、ダンジョンポイントも沢山もらえるらしいし。ってまあ、トンデモナイ深さみたいだから、適当でいいけど。帰りは転移陣とかあるんだよな? きっと。
まあ、さらに今は領主としてのお仕事もある様で、ファランさんにあっけなくドナドナされて行った。うん。お仕事、がんばってね。
ということで、森に向かう事になったのは、前回と同じく、ミアリア。そしてオーベさんとなった。本当なら護衛はミアリアだけでいいのだが、オーベさんはなんとなく、対ノルド対策だ。知識豊富だし。ハイノルドって事で森も自由に動けるらしいし。
「奇跡の癒し手様にお願いがございます。癒して欲しい方がいらっしゃるのです。お願い出来ませんか?」
かつて知ったる集落に入るなり、いきなりの全員土下座出迎えからの嘆願。止めて、これ。むふう。逃げ場がない。
「あの時は魔道具でなんとかなっ」
「その様な神器レベルの魔道具、我々ノルドの伝承にないのはおかしいですし、使う意味が判りませぬ。さらにあれほどの魔道具、使用するのにその魔力を誰も感じないというのはあり得ません」
うわーやっぱり誤魔化せてないじゃん。ミアリアの嘘つき。
「それほどのお力。隠されたいのも致し方在りません。ですが、ここはそれを曲げて、お願い出来ませんでしょうか?」
「……秘密にしてくれる?」
「はっ」
「他に言わない?」
「……」
「ぇーじゃあやだ」
「わ、わかりました……ただ、ノルドの危機故に……その……」
「ノルドの危機とはちと聞き逃せないのう……」
「貴方……は?」
「あ、俺の妻です」
「え?」
「妻じゃ」
「妻です」
オーベさんも胸を張る。うん。威張る所じゃ無いと思うんだけど。
「なんと、モリヤ様は三人のノルドと結婚を」
「十一人です。お館様の妻、ノルドは十一人、ヒームは二人。ヒームのうち一人はオベニス領、領主イリス様です」
「え?」
いろいろと固まった。まあ、そうだよね。うん。俺自身もそんなん聞いたら、なんだそのエロ親父としか思わん。
「ということで貴方がたは、関係ないとはいえ、ヒームの国の貴族、領主一族の長、更に外交官の夫を呼び出したのです。まずは自らの事情を全て話すべきでは?」
「は、ははっ!」
ノルドの人にヒームの権威が通用するとも思えんけど。どちらかと言えば外交官の夫の方が有効な気がする。とりあえず、今は勢いで押せてるからいいか。
「イーズの森域には多くのノルドの集落がありますが、ほぼ中央にあるハゾンの集落、それを……我々は……我々は……」
「「森都」じゃな。森「域」と付くような大きな森には、大抵、置かれており、その森の意思を決定する賢人会議が行われる事になっておる」
「あ、ああ、な、なぜ、それを……」
「ああ、モリヤ、気を悪くせんでくれ。今の話は軽い誓約術で縛られておるのじゃ。なのでこの森のノルドは全員、今の事を話すにはかなりのダメージを受ける」
「……」
「こやつらが苦しみながらもその森都の事を明かしたということは。大方、森都に居るハイノルド絡みじゃ。それ以外で……ノルドがここまで下手に出るなんて有り得んからな。じゃがおかしいのう……イーズにはここ千年、ハイノルドはおらんはずだ」
「あ、ああ、な、なぜ、そ、それを……ああ、しかし」
バガローンの表情がかなりおかしい。おかしいというか、引き攣っているというか。言いたいのに言えない……感じなのだろうか。
いや。挙動も不審だ。何か隠している? とか? うーん。イヤな予感増幅中。元々気が向かなかったんだよなぁ。
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