0260:モボファイ鉱山のドガル⑥

 ベッドとは、寝具とは、これほど心地良かったのか? 朝の目覚めが異様にハッキリしている。オベニスに来てこれまで、蔑ろにしてきたことが実は大きかった事に気が付きすぎだ。


 さらに、この、水道のレバーを引くと、水が出てくるという便利さは如何ほどのものだろうだか? これくらいのこと……水が上から下へ向かう特性を生かせば、装置を作ること自体は、ガギルにとって難しいことではない。


 だが、なぜ思いつかなかった? なぜ、やらなかった? 一度作ってしまえば、何年と使える設備だろうに。


 シャワーという水浴び装置も素晴らしい。これで水を浴びる前に、ボディソープという身体の汚れ落としを使うと、凄まじいまでに垢や脂が落ちる。さらにシャンプーというのは髪や髭用の汚れ落とし、リンスという毛の艶出し液も用意されている。


 昨日の夜、このシャワーを使って汚れを落とし、ベッドに入った。その結果が、今日の目覚めだ。何だろうか。何かが違う。ドガルにはそれがどうしても判らなかった。


 さらに食事……だ。我々はいや、ガギル族は今も、芋などを囓り、水を飲めば何一つ問題無いと思っていた。だが、それは知らなかっただけだという事を「知った」。


 その上……酒だ。昨日の酒は……。


「モリヤからこの地に本当に住むのかどうかを判断するために、見せておいて欲しいと言われたモノがいくつかあるのだ」


 昨日に引き続き、副領主のファラン様が直接案内してくれるらしい。


「昨日は浮遊馬車に乗ったまま、地下領主館の裏まで連れてきたからな。まだ、アレは見てなかろう」


 ゾロゾロと続くガギル族の目の前には大きな建物が建っていた。


「今日は、この建物の中は人を遠ざけている。好きなだけ見ていいぞ」


 建物の中には……金属の線が引かれていた。そして、その上に……馬車の様な……。


「こ、これは……ファラン様、これは巨大な……馬の要らない馬車か?」


「おお、さすがだな。一目見ただけで何か判るとは。その通り。これは列車というらしい。正しくは魔道列車だな。ここ、オベニスの地下居住区の各地点を結ぶ輸送の役をこなしている」


「地下……居住区?」


「ああ、そこからだな。今、君たちがいるこのエリア。ここは地下だ。建物を出て、良く上を見てみるが良い。天井が見えて、そこが発光しているのが判るハズだ」


「判った。あ、後で確認する。それよりも、この魔道列車……か。もっと近くで見てもいいか? あ、いやいいですか?」


「無理して敬語にしなくてもいい。まあ、公式な場に出るのであれば考えなければだが。とりあえず、ここにあるものは眺めても良いし、触っても良いと言われている。壊さなければな」


「は、はい、いや、ああ、わ、判った」


 ドガルは幾つかある魔道列車に近づいてその各種構成しているパーツをよくよく眺めた。そして、手で触ってみる。それで浮かんできたのは「これは……なんだ?」ということだった。疑問ばかりが頭に浮かぶ。

 今ココには……一緒に逃げてきたのは女ばかりで、ドガル以上の鍛冶師は存在しない。モボファイ鉱山の長、一番鍛冶であったドガルの父なら何かわかったのであろうか? いや……同じ様に首をかしげたに違いない。


「に、兄さん、あっちに……」

 

 モミアが服を引っ張る。そのまま、足を動かしていると……そこにあったのは……鉱石……だった。


「ああ、この鉱石は暇があったら何に使っても良いと書いてあったな。モリヤからの指示に」


 そこに並べられていたのは……鉄鉱石やその他の鉱石。知っているモノも知らないモノも、かなりの量が積み重ねられていた。


「これは……タダの鉱石じゃ……」


「うん、これ、普通に鉱物だけを抽出したに近いというか。こんな状態で掘り出せる様なモノなの? 鉱石って」


「俺の知っている……限りでは……無いと思う」


「モリヤは鉱塊と呼んでいたかな」


「鉱塊……鉱物の塊ってことか」


「ああ、そんな様なコトを言っていたな」


 あり得ない。こんな……整然と……もっとグチャグチャで、まちまちで、まとまっていないのが鉱石だ。大鉱脈を見つけても、一部以外は周辺に分離している。


 夕方過ぎにお館様が帰還された。


 なんと、この短期間で、モボファイ鉱山に赴き、敵を排除してくださったらしい。全てが朽ち落ちて、形見を持ち帰るとかそういうレベルではなかったようだが。


 ああ、まあ、もう、それはモリヤ様と会う前、何日かの間、考えて考えて、自分の中ではケリが付いている。妹を始め、逃げてきた女衆の状況を見れば、どれだけ激しい襲撃だったかも良く判る。親父を含めたモボファイの男たちは全員死んだ。それはもう、どうにもならない。


 そうだ、もう、モボファイは仕方がない……元々、命すら、全てを失う覚悟すら出来ていたのだから。それよりも、だ。父や亡くなった仲間達に、ココのことを教えたかった。酒を飲みながら話がしたかった。ここはおかしい。オカシイのだ。そして、スゴイ。スゴすぎる。


「お館様、この地下都市は……なんだ? オレたちガギル族は金属に関して他の種族よりも遙かに高い技術と知識を持っている。いや、持っていると思っていた……んだが。この地下都市の構造物、特に金属関係は、根本が何かおかしい。特に魔道列車……あと、とりあえず、暇が出来たら、使って良い……と渡された、鉱物……これもなんだ?」


「鉱石じゃないか。何か違ったか?」


「ああ、確かに鉱石……だが、金属の成分、純度が高すぎる。普通の金属は溶かして塊にしたときに、あんなに綺麗に残らない」


 ドガルはそこでふと気がつき、1人呟いた。


「……この都市、この地が、ガギルの約束の地、「神に祝福された地」ということなのか?」




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