0257:モボファイ鉱山のドガル③

「はい、えーと、ドガル、病人とそうでない人が大体半分になる感じで、この馬車に乗り込ませて」


「は、え? 馬車?」


 目の前に、いつの間にか……いや、確かに形は馬車だが、見事に車輪がない。う、浮いている? 


「お、お館様! う、浮いて!」


「うん、そう。だから、乗り込ませて?」


 浮いているドアの前に階段式の台が置かれている。ゆっくりと登り、足を踏み入れる。


 大型の箱馬車の車内は非常に広く、ヒームでも大体15人、ガギルであれば20人近くは乗れる。50名を四で割れば、12名か。

 余裕で乗り込めた。特に我々は避難民だ。着の身着のままでここまで来たので、荷物もほとんど持っていない。


 四台の馬車? に十数名毎に分乗した。


 なんというか、全員未知の体験に恐怖……いや、緊張しているのか、おしゃべりする者も少ない。ガギルの女と言えば、おしゃべりで有名だ。ガギルにとって仕事を家事をしながら、大きな声で井戸端会議というのが日々の当り前の風景なのだ。


 ドアが閉まり……発進したと……思う。気がした。馬車の窓には明かり取りの半透明の板が使われている。そのため、光は入ってきているが、外の景色は見えない……が。窓は開けないように言われたし、凄まじい勢いで景色が流れている様な気がしてかなり怖い。


 何よりも……今、こうして馬車で移動しているハズなのだが……ほぼ震動を感じないのが気持ち悪かった。ドガルは馬車には乗ったことがないが、技術者としてそれがどういう仕組みなのかは判っている。だが。これは……。


 それにしても。この状況の変化を思い浮かべる。全てはあのヒーム……モリヤ様いや、お館様が我々を訪れてからだ。


 つまりは昨日。昨日の朝にはモミアは「死に」かけていたのだ。本当に。今ではイロイロと強調し、説明しなければ信じてくれる者がいないくらいだが、本当に死にかけていた。ガギル、ノルド両方の癒しの使い手が「あと一日もてば良い方だ」と口を揃えたのだ。何も出来る事がないと。他の者を癒しに掛かっていた。


 そう。これ以上癒しの術を掛けても、無駄だと判断されたのだ。それは……妹だと思うと腹立たしいが、次期長として考えると当然の事だ。


 ガギルはムダな事はあまり好きじゃない。ダメなら次へ。そして次へと限界を見極め、諦める事も重要だと教わる。


 だが。そう。だが。あの男は全てをひっくり返してしまった。なんだ。アレは。癒しの術が凄まじかったのは確かだ。アレが魔道具のオカゲだとしても、癒しの術がスゴイだけではガギルは服従しない。誇り高きガギルがヒームの男にお仕えしたい……思うわけがない。


 自分で「限界はある」と言っていたが、この「そばにいるだけでもしかしたら今後、どんな危ない目にもあわないのではないか?」と思わせる安心感は何だ? 


 さっき……森を歩く際に、魔物を意識せず、妹の事だけを考えて歩いていた。心配だったのは確かだ。だが。森を歩くのに、周囲を意識しないなんてあり得ない。幼い頃から訓練してきた。行商の為の短い時間とは言え、森移動時の恐ろしさは体に刻まれていたハズだ。


 あの時、俺は何故、妹の体調や怪我の事だけを考えて歩いていられた? どうしてだ? 


 その理由をどんなに考えても何も思いつかなかった。


 あまりにも震動がなく静かだったせいで、あっという間に、ほとんどのガギルが居眠りをしていた。途中、止まって、食事と水も与えられた。正直、自分たちがどんな環境にいるのか理解出来ていなかった。


 そんなまったりとした半日くらいの数時間で。ドガルたちはヒームの都市、オベニスに到着する。


 ただし到着したのは領主館の裏……の家が幾つも繋がって置いてある場所だった。


「私はこのオベニス領の副領主、ファラン。モリヤから話は聞いている。スマンが、しばらくこの領主館裏の施設から外へ出すことができない。ヒームの普通の都市に50名のガギルが滞在する……なんていうコト自体があり得ないのでな。できる限り隠さなければならんのだ。情けないことにヒームの世界には頭の悪い者や極悪人も多い。貴方達を一人でも良いから攫おうと襲いかかる奴がいてもおかしく無い」


 非常に納得の出来る説明だった。何よりも迫力のある、尋常じゃ無い実力を持つであろう副領主、自らこうして対応してくれるのは嬉しかった。お館様といい、ヒームには、とんでもない存在が多い様だ。


「お。ガギルか! 大変だったな! とりあえずここは安全だから。落ち着いたら良い剣を頼みたい! 後で酒、奢るから!」


 ふらっと出てきた偉丈夫……いや、凄まじいばかりの力が溢れ出る女戦士が、気安く声を掛けてきて、そのまま去って行った。


「……今のが、うちの領主のイリス・アーウィック・オベニスだ。あんなでもここで一番偉いと思ってもらって良い」


 ドガルは覚えておかなければ……と肝に命じた。


 用意された家というか、部屋は非常に良く出来ていて、効率を重視するガギルには非常に好評だった。昨日まで寝込んでいた者たちも病院へ行くのでは無く、ここまで癒しの術の使い手が来てくれるということだった。


「まあ、モリヤが治った……というのであれば、そうなのだろうがな、ヤツは心配性だからな。念には念を入れて……とりあえず、全てのガギルは全体的に健康診断もしてもらってくれ。変な病気にかかっていたら後で大変だからな」


 と言われて、全員が検査を受けることになってしまった。というか、我々は部屋にいるだけで、ここまで来て診てくれるらしい。ドガルはもう、自分の思考範囲の限界を超えてしまったと思い、静かに成り行きに任せることにした。



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