0251:新酒

「ということで、体調がちゃんとして、鉱山に戻りたい人は一度戻って荷物を持って帰ってくるのも可能かな」


 鉱山からさっさとオベニスに戻り、ドガルを中心に現在ガギル族が収容されている簡易住宅に行き説明を行った。モボファイの村? はあそこまで朽ち落ちてしまっていては、無くなった男衆の遺体が~とか、遺品が~なんていうのも少々難しいと思う。


 が。その目で確認しなければ、判らない、現実に戻れない者もいるかもしれない。あと、俺達には判らなかった大事なモノが家に隠してあるとかそういう人もいるかもしれない。工具とか工房の設備とかもあるかな?


「ああ……判った。生きてる者はもうおらず、遺品らしき物も全て朽ち果ててたか……」


「そうだな。残念だが」


「俺たちはもう、あの場所には未練はない。もういい。逆に急いで行くと悲しい思いをする者の方が多いと思う。なのでしばらくしたら、俺が一人で行って様子を見てこよう。それよりも。お館様、この地下都市は……なんだ?」

 

 いいのかよ……。


「オレたちガギル族は金属に関して他の種族よりも遙かに高い技術と知識を持っている。いや、持っていると思っていた……んだが。この地下都市の構造物、特に金属関係は、根本が何かおかしい。あと、とりあえず、暇が出来たら、使って良い……と渡された、鉱物……あれもなんだ?」


「鉄鉱石じゃないか。何か違ったか?」


「ああ、確かに鉄鉱石……だが、鉄の成分、純度が高すぎる。普通の鉄は溶かして塊にしたときに、あんなに残らない」


「純度の高い鉱石だからじゃないか?」


「あんな鉱石が自然界にあるか。神の手が加わっているのでもないかぎり……いや、そうなのか? お館様、そうなのか?」


「そうなのかって、何が」


「この都市、この地が「神に祝福された地」ということなのですか?」


 なぜ口調が変わる。そのキラキラした目……ちょい怖いぞ、ドガル。うーん。どうなんだろう。俺自身は、神はあまり関係ないけど、ひょっとしたら茂木先輩は亜神とかそういうレベルかもしれん。


「まあ、とりあえず、その鉱石と同じものはそれなりに提供できる。で。ガギル族はどうするんだ? 最終的に」


「ここに住むのも離れるのも自由と言われたので、話し合った。鉱山が無い場所で生きていくっていうのは、正直あまり考えたことがなかったし、あの山から離れてヒームの街で暮らす……なんていうのもあり得なかったんだが……今はこのオベニス……いや、この地下都市に住まわせてもらいてぇ。これは一族全員、特に女たちからの希望だ。ここは……天国だ」


 ドガルと一緒に来ていたガギルの女性たちが一斉に頷いた。


「鉱山での生活とはあまりに差があって……先のコトはまだわからねぇが……我々モボファイのガギルはお館様に連れてきていただいて、良かったと思っている」


「それは良かった」


「何よりも……酒だ。アレはお館様が作ったと聞いたぞ?」


 俺がというよりは、俺の断片的な知識を吸い上げて、頑張ってる酒職人がいるのだ。そもそも、この世界には酒と言えば、麦から作るエールと、葡萄のような果実から作るワインくらいしかない。最近やっと蒸留装置を使いこなして、エールをウイスキーモドキに。ワインをブランデー……モドキにする実験が行われている。


 というか、俺の知識など、上面発酵がエールで、下面発酵がラガー、これのピルスナーってのが俺の知ってるビールである……というくらいで、発酵の仕組みとかは一切覚えていない。


 そもそも、この世界、大麦と小麦が存在しない。いや、存在しているのかもしれないが、俺には見分けられないし、「麦」と一括りにされている麦っぽい穀物が存在する。パンにも、エールの原料にも、何にでもそれを使用している。俺はパンの原料になる麦は小麦なのだがら、小麦と思い込んでいたが、実は、小麦も大麦も無く、全部「麦」だと判明したのは結構最近だ。エールの原料になる大麦は? 思って聞いてみたら、パンの原料も一緒でって話だった。


 ってまあ、それはいい。で。俺のおぼろな知識をまとめて、新しいモノ、新酒開発が大好きな酒職人に、これまた朧げな記憶から産み出した歪な蒸留器と共に伝えたら。


 第一段として出来上がってきたのが、普通の人には飲めたもんじゃ無い……多分、凄く変な、味のアルコール。度数お高めなのもあるんだけど、根本的に味が……よくない。ピリピリするというか。なんか変。数年熟成すればどうにかなる……レベルじゃ無い気がする。そもそも蒸留器が歪だからね……。仕方ない。


 これ、俺はなんか飲み物としてあり得なかったから即改良をお願いしたんだけど、ガギル=ドワーフ的な流れで、とりあえず酒好きの意見が欲しいなと、出来ていたモノを、ドガルに渡るように手紙に書いておいたのだ。


「あの酒に……俺もだが、他の者も全員、虜になってしまった。凄いぞ、あの酒は。多分、アレの存在が他のガギルに知れれば、世界中のガギルがここに集まってくるやもしれん」


 え? し、舌おかしくね? そんなに? ぜ、全ガギルってどれくらいの人数なんでしょう? というか、鉱山毎に集落があるんだよね?


「新しい鉱脈を見つけてるところは良いかもしれないが……ここ最近、景気の良い話を聞かねぇ。大抵のガギルの鉱山は、掘り尽くしてる所ばかりのハズだ。強引な合併話なんかが聞こえてきていたからな」


 何それ怖い。


 ちゅーか、オベニスにガギル帝国とか作っちゃう? やっちゃう? ……ってまあ、うん。まずはイリス様に報告相談しないとね。  





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