0250:原因
「我が主は最大魔力量が膨大なんじゃったな……。一気に癒しの術を大量に使うのがどれだけのことか。まあ、癒しはそれでも、我が主の劣化版というか、似たようなことが出来る術士がそれなりには存在するからまだマシだ。だが。光術は……光術を使える=自分は光の御子である! と宣言している王を戴く国が過去にあったくらいだからな。で、そいつを「鑑定」して何も無かったらどうする?」
「それはヤバイですね」
「当然の様に拉致監禁行方不明、その場で斬首じゃな」
「……」
「そもそもな。癒しなのか? 回復なのか?」
「あ。名称は……俺が思っている感じに変化してしまうみたいですよ? なんか、最初回復と思って話してましたけど、なんか、癒しの方が普通みたいだったんで、今は俺の中でも癒しになってて、「鑑定」で表示される名称も癒しになってます」
「なんと……統一されているわけではないのか?」
「ええ、多分」
「その「鑑定」は神の持つ情報に触れる訳ではないのか? 文献などではそう書かれていたが」
「うーん。元になるデータは個人毎に決まっていると思います。ですが、それを「鑑定」すると俺の言語に翻訳されて表示される……てっていうんですかね? なんか難しいですね」
「そうか。……神の知識に触れられる訳では無いのだな」
「それがどんな意味なんだか……うーん。ちゃんと理解出来てるかも判らないですが、多分。でなければ、俺が求めた形に表示が変更されたりするのはおかしい気もするし」
「単純に一つの学術分野にして、研究し尽くしたいのう……」
「やですよ、完全に被検体扱いじゃないですか。面倒くさい」
「ちい」
坑道は複雑に交錯していたが……西側の一部が大きく崩落して、穴が空いていた。この大穴……下に降りればそれなりのスペースがありそうだ。そして、そこに黒い塊が異様に満ちていた。
ちなみにここまでの黒い塊は、ミアリアの柏手などでほぼ霧散している。
「オーベさん、俺よりもミアリアの方がヤバくないです? パンって、あれ超簡単な光術ですよね? 珍しいんじゃないんですか?」
「ヤバイのだが……ミアリアはいま、光術を一切使用していない。正直、あの一撃で黒い塊が消える原因が判らぬ。が。あの力も神が与えたもうた闇払う力、ギフトとしてしまえば、大抵は説明が付く。というか、そう説明するしかない」
なんかズルイ。
「さあ、ここは、どうするか。普通なら……」
「普通なら?」
「退却じゃな。普通ならその黒いのは聖水で散らすが、その奥が厄介じゃろう。じゃが」
オーベさんの指が細かく動き始める。
「我も、我が主、我が夫にいい所を見せなければ、な」
中空に薄い光の円陣、描かれているのは魔術紋。魔力が注がれて、強く白く発光しはじめる。
「クズェ・ナリカアマヤナハニユテ・オルアガナゥ」
音もなく魔術紋が弾けた。サラサラと落ちる光の欠片はぶつかり合って広がっていく。その連鎖は次々に増幅し、穴全体を覆い、次第に強くなっていった。
「落とすぞ? 聖灰じゃ」
「では同時に参ります」
ミアリアが剣を抜いた。光が動く。それと同時にミアリアが穴に飛び降りた。
「まあ、大丈夫じゃろう」
「え? 何を?」
「下の獲物じゃよ」
数瞬後。鉱山を占めていた不安感が一掃された……気がした。
「これは……」
「倒したという事じゃな。多分、デーモンリッチ辺りだと思うのだが」
見えない穴の底? からミアリアが一瞬でジャンプしてきた。
「ええ、そうですね。そのようです。弱いですが系統として暴食の王と同じ匂いがしたので、同じやり方で消してしまいました。あ。でも、これを」
ミアリアが手にしていたのは魔石。赤く光る銀の粒が中で動いている。
「こんな……魔石は見たことないな……」
「暴食の王と同じ様に処理すると、何も素材が確保出来ません。なので、無くなる前に先に抜き取っておきました。大体、人の心臓と同じ様に胸の中央に埋まっていました」
「で、デーモンリッチじゃったか?」
「オーベ師の術でキラキラ光ってたので……周囲が。イマイチ判りませんでした。そもそも、そのデーモンリッチがどんなモンスターだが見たことも聞いたこともありませんし。人型であった気がしますが」
「そ、そうじゃな……確かに……名乗るわけでもないしな」
そうなのか。黒い靄のエネルギー? のせいで、俺にはさっぱり判らなかった。あの靄の中に中ボスみたいなやつがいたってことね。
「え? じゃあ、そいつが出現したからこの鉱山はヤバくなったってことで、原因解消? なのかな」
「ええ。この他に何か怪しい魔物や魔道具などは存在しません」
鉱山の問題が、か、簡単に解消できてしまった?
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