0249:浄化

 鉱山入り口を含めた集落全体は呆気なく浄化されてしまった。俺の光の術によって! ってなんかカッコいいけど、そんなんでいいんだろうか? 


 主人公だな〜って、傭兵団を一気に殲滅したけど、あれ、暗くてイマイチ見えなかったし、そもそも奴らの後ろから不意打ちだしね。まあ、ここからが本番だ。多分。


 鉱山の入り口、特に最初の角を曲がった辺りから途端に闇が濃くなっている。さらにこの鉱山……ガギルの人たちの生活空間でもあるからか、根本的にワンサイズ小さい。ドガルさんが……うーんと。大体150センチちょいくらいだったろうか。


 梁や杭が張り出ている坑道は腰を屈めながらでないと身動きが出来ない。うーん。これは……長時間だと腰が痛くなるな、絶対。


 そんな貴方にピッタリなのが、土術。死ぬほど穴掘りで強引に生まれたこいつでどうにか出来ないモノか。っていうか、出来るんだよね? きっとね?


「モリヤ……何をしてる?」


「え? この坑道、ガギル族のものなんで、高さが無いじゃ無いですか。なので、どうにかしたいなと」


 正直、しゃがんでもちょっと辛いくらいの高さしかない所も多い。なので強引にトンネルを縦長に広げる。梁も強引に上へ押しつけていく。この改良はそれほど魔力を消費しないようだ。土の術、穴掘りとか泥団子作りの訓練しておいてよかった。魔力は……さっきの「浄化」で既に残り半分くらいだけど、まあ、まだあるしな。


「もはや……じゃな。根本的なボタンの掛け違いというヤツか」


 オーベさんがやれやれという顔をした。うーん。まあ、確かにイロイロとムチャなことになってる気がするけど、それは主に、俺の周りの人じゃないかと思うんだけどなぁ。


 とりあえず、自分が一番先に立ち、低い場所があれば、周りの土にお願いして頭にぶつからないように移動してもらう。そして、梁が邪魔だったら、それも同時に移動。お願い系でまとめてみたら、やはり、大して魔力は消費せずに自動で坑道拡張化に成功している。あれ? なんか、お願いだと時間が必要だけど魔力消費少なめ、命令だと瞬時発動の変わりに魔力大量消費……そんな法則かな?


「そもそもだ……詠唱していないのは何故だ?」


「使えたから……ですかね。癒しの術の時は、傷が治れと強く願っていたら使えるようになりましたし、土の術はオベニスの守護のため、みんなで落とし穴を掘ってる最中にもっと速く、効率的にやらないと……と思っていたら、使えるようになりました。なので、詠唱とかしりませんし、発生する事象も、もの凄く限られているというか」


「使えた……か」


 オーベさんの顔がさらにやれやれだ。


「そもそもな。自分にどのような適性が存在するのか? これが判らん。まず、モリヤの「鑑定」はそれを根底から覆すわけじゃ」


「ええ」


「判ってないな。我々が火術、土術などと呼んでいるのは過去の文献や現在の経験則からそう言っているだけだ。つまり、これまでのスキルや魔術の理論は、自己申告でしかないのじゃ。もしもだ。自分には剣術のスキルがある……と思って剣を使っていた者を鑑定して、そのスキルがなかったら?」


「ガッカリしますかね」


「ガッカリどころではないな。ふざけるな、自分は間違っていない! と斬りかかってくるかもれん」


「あー」


「とりあえず、火術を持っていなければ、その系統の呪文は使えないみたいじゃからな。術関係ではそんなことは……いや、その国一の魔術士の、魔力制御のレベルが低いことを見てしまったら」


「またも、暗殺案件ですか」


「そうじゃな。魔術を題材にした学問は多々あれど、その辺の基礎部分が曖昧なまま、最終的には検証できなくてここまで来ているからな」


「光術っていうのは~」


「そもそもな。癒やしの術以外、浄化なんていう呪文を使う……光属性の使い手はそうそう出現しないのじゃ。なので、傾向や使用出来る術の種類など、判っていないことが非常に多い」


「あれ? そういえば、俺の中で光属性といえば、僧侶なんですが……違うんですか?」


「僧侶……癒しの女神の教会のか。いや、あそこの僧侶は……まあ、中には癒しの術を使える者もおるが、大抵は術等は使えぬ者が多いな」


 そう言われてみれば、この世界へやって来て、癒し、回復の術を使う僧侶……に遭遇したことが無かった。既に職業的に分野が違うって事か。


「癒しの術の使い手もな……そこまで存在しない。そもそも、癒しの術で瀕死の命が即救われる……などという状況がおかしいからな? 癒しの術は、まず医術者や薬師が、薬草等の薬で治療しその上で使うと、治りが早くなる、程度のものじゃ。大病や大怪我の場合、何度も何度も施術して、半年、数年掛けて治療する。そういう使い方が普通なのだ。冒険者の中には稀に、癒しの術の使い手がいて、応急手当が上手くいって命が助かったなんて話も聞いたことはあるが、そこまでじゃ」


「癒しの術、回復効果が落ちるから他人と触れあわない……って聞いたので、癒しの術士がありふれている話なのかと」


「いざという時に……という話じゃな……それだけでも大きいからの。そもそも……癒しの術は魔力消費が大きい。一日に数回使えば、魔力は尽きるはずじゃ。治癒の術を使える者が多い上に、平民も僅かな金銭で施術を受けられるオベニスがオカシイのじゃよ」


 そう言われてみれば……そうだった……かな?



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