0247:実力派

 くれぐれも、急制動、走り出しと、止まる際に注意するように、あと、高速移動時に何かにぶち当たると事故が怖いので、それも注意することを徹底させる。


 風の術を纏うことでかなり安全、手間を軽減できるのは検証済みだけどね。安全運転のポイントをしつこく教えた。スピードの出し過ぎは、乗客達の生死に関わるし。


 慣性の法則とがどうなってるのか良く判らないけど、とりあえず、自分が風の術を使用しながら、走り出して、止まるという基本動作を丁寧にするだけで、問題は発生しない様だったので大丈夫だ。俺よりもみんなの方が風術を使いこなしてるし。


 ノルドのオリジナルな風の術では無く、ヒームも使う風術に「風纏」という術がある。文字通り、身体に風を纏うのだ。この術は風の力で能力をアップしたり、全体にバリアを張るみたいな使い方もできる便利な術で、使い勝手が良い。


 ノルドの矢弾に風を纏わせる「かぜはや」の対象を自分の身体にした感じというか。で。浮遊馬車を牽く際に、この「風纏」を自分の後ろも包み込む様に発動させる。これで張り出した枝などに当たっても問題無い。


 馬車の座席部分を立方体の様な形で結界を張った感じになるのかな。すると、外側の馬車部分とは別の挙動が施されることになり、ある程度急制動があっても、中に伝わらなくなるというか。うーん。説明が難しい。


 魔術、不思議。何故か、中に震動が伝わらないって感じ?


「夜に着ければいいから、なるべく安全運転でお願い。事故はシャレにならないよ? そもそも、これに乗っているガギルたちは、今でこそ普通に歩ける様になってるけど、つい昨日まで怪我と病いで辛い目にあっていた。それをさらに辛い目にあわせるのは、俺が嫌だ。食事、飲水は携帯できるモノを十分積んである。適時、よろしく」


 四人が真剣に頷く。うん。高速で移動中はどんな事故が起こるか判らないからね。ちなみに、自分で歩いていないのはモミアさんだけかな。それもドガルが自分で歩くと言う彼女を強引に抱き上げてここまで来た……という感じだ。


「オベニス到着後はまずは全員を病院へ。怪我してた人は当然だけど、してない人も検査して、チェックするように言って。で、その後はしばらくは共同生活の方がいいかもしれないから、地下の領役場の倉庫とか使ってもらって……あ。いや……役所の裏手に、宿舎用の簡易住宅が幾つか残ってたからそっちの方がいいや。万が一のトラブルから守るのも楽だし。その辺の細かい所はファランさんにでも相談して」


「はい」


「では、参ります」


 最初はゆっくりと……しかし徐々に……あっという間に……四台の馬車を牽いたノルドの四人は見えなくなった。


「跡形も……無いな。音もしないとは……凄いモノじゃな」


 最初こそそれほどではなかったものの、あっという間にかなりの速さに到達したのだろう。浮遊馬車は跡形も無く消えてしまった。って馬車……じゃないんだけど。あんまスピード出すなって言ったのに。


 名前は浮遊車? だろうか。でもネーミング的に判りにくいよなぁ。元々、馬車をベースにしているから、浮遊が付いて、別物として扱われてるのなら、浮遊馬車のままで良いのか。これが量産出来れば一大産業になると思うんだけど、さすがにあそこまでのダンジョンポイント=DPは……数点ならともかく、儲かるレベルでの量産化は全く適わない。


「アレは正直、とんでもないな……」


「でも、こないだみたいな魔力喪失状態の場所では魔石の魔力消費が激しくなりますし、そこに留まったら地に落ちて運べなくなりますよ?」


「ああ、そんなものは……魔石さえ量を用意すればいいのじゃろ?」


「それはそうですけど」


 あ。オベニスに着いたら浮遊馬車を隠蔽してってお願いするの忘れてた……。まあ、隠密行動なのは最初から判ってるから、目立たない様に行動してくれるだろう。モリヤ隊……いや、領主側近専用の秘密の出入り口を使うだろうし。


 ……と、現在操作に集中しているであろう彼女達に伝えておく。挙動制御に関しては問題無い様だ。


 浮遊馬車は地下の領主館の脇の、鍵の掛けられる倉庫に入れておいてくれることになった。


「で? 我々は何をするのじゃ?」


「オーベさんとミアリア、実力派の二人に残ってもらったってことは~」


「まあ、話の流れからすると、鉱山か」


「はい。あと……」


「ん?」


「イーズの森域って当然、ハイノルドと関係ありますよね?」


「んん? ……イーズ森域か……出身のハイノルドは何人かいたと思うが……かなり昔に全員亡くなったはずじゃ」


「ならば、亡くなった、または歴史的に、その中で有名な人っています?」


「イーズ森域のハイノルドで有名な……ああ! 死霊術の元祖、系統を生み出したと言われている狂気の天才術士、シールゲレニハが確か、ここ出身じゃ」


「うわ……嫌な予感が……」


「なんじゃ?」


「まあ、いいです。オーベさん、ノルドの集落に感づかれない様に森で活動って出来ます?」


「ああ、簡単じゃぞ? ハイノルドは例外じゃからな」


「例外?」


「森の集落に設置してある魔道具は元々ハイノルドが生み出したモノじゃ。干渉してこちらの良いように操作するのは簡単じゃな」


「じゃあ、まあ、とりあえず、森に入ったら俺たちが反応しないようにしておいてください。ミアリア、鉱山の場所は判ってるよね?」


「はい。あの避難してきていたガギルの痕跡を追えばいいだけですので。簡単です」



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